七話
「エゼル! こっちこっち」
「ダイナ様、お待ちください」
昼食を終えた昼下がり、今日もダイナ様はお元気に庭を駆け回っておられる。エゼルの手を引きながら。
「遅いわエゼル。あっちへ飛んでいっちゃう」
「あの高さでは、もう私でも届きません」
「えー、そんな……せっかく見つけたのに……」
「仕方がありません。また別の蝶を探しましょう」
「今の青い蝶々がいいわ。とっても綺麗なんだもん」
数日前からダイナ様は蝶を捕まえることに夢中になられている。どうやらフロレア様にお見せするとお約束したようだ。秋という季節柄、そう多くは見られない蝶だけど、緑や花の種類が豊富なこの庭では比較的多く目撃できる。高い木の向こう側へ飛んでいってしまった今の蝶は、確かに綺麗だった。
「ではあちらの花の咲いているほうを探してみましょう。同じ蝶が蜜を吸いにやってきているかもしれません」
「いるかな……エゼル、次は遅れないでよ。行きましょう」
「あっと、そんなに急がれなくても……」
エゼルはダイナ様と手をつなぎ、ぐいぐい引っ張られながらも、嬉しそうな笑顔を浮かべている。その頭に自分が護衛兵だって意識はあるのかしら。ダイナ様の前だと決まってあの笑顔……本当、むかつく女。
同じ兵士として、私は剣の腕は認めている。以前、練習と言って一度だけ手合わせしたことがあるけれど、お互い手を抜いた状態でも、あの娘の力量は私より上だとすぐにわかった。基本から何から、平均より上回ったものを持っているのは間違いない。兵士としての技術はしっかり備わっているのでしょう。でも、それだけだ。私に言わせれば他に褒められるところなんて何もない。
まず愛想がない。同僚にも、他の人間に対しても、挨拶や会釈はしても笑顔を見せることは絶対にない。どんなに和やかに、楽しく話していようと、あの娘は同じ空気に染まらないし、入ってこようともしない。輪の外で一人取り澄ましている自分に注目でもしてほしいのかしら。表情はないし、話もしないから、あの娘が何を考えているのかもよくわからない。と言うか、何の面白みもなく、魅力のない人間のことなんか、はなから興味はないけれど。空気も読まずに気取っているだけの無愛想な女……側にいるだけでこっちまで愛想が悪くなりそう。
それなのに、上官からの評価はすこぶるいい。次の近衛兵長は大方がエゼルだと予想している。確かに剣術に優れ、任務中の態度にも大きな問題はないから、普通に評価はされるかもしれない。でもその二つで兵長が務められたら、有望な新兵にだって務められてしまう。皆の上に立つ者が何より必要なのは信用だ。信じられるから部下は付いていけるはず。でもエゼルは皆から信用されているとは思えない。それ以前に、信用できる人物かどうか、誰もわかっていないんじゃないかしら。無愛想で会話にも混ざらない……そんな内面が不明な女に、誰が付いていこうと思えるのよ。
「――あっ、ちょっとどいて!」
正面からドレスの裾を引きずってダイナ様が駆けてきた。その手を伸ばした先には橙色の蝶が一匹舞っている。
「これは私がお捕りいたしましょう」
私は笑みを作って蝶を追いかけた。……私だって、ダイナ様のお役には立てるんだから。
「もうちょっとなのに……お願い、捕って」
「大丈夫です。すぐに――」
目の前をふわふわと飛ぶ蝶に両手を伸ばした途端、急に舞い上がった蝶は、そのまま植木を越えて王宮の陰に飛んでいってしまった。
「あー、行っちゃったわ……」
「申し訳ございません。捕れると思ったのですが、急に――」
謝ろうと振り向いた時だった。
「きゃっ――」
ダイナ様がこんな側にいるとは思わず、私の腰はダイナ様のお体に思い切りぶつかっていた。尻で押し倒してしまったような形になり、六歳の小さなお体は後ろへ崩れていく。危ない、倒れて――
「……はっ」
地面に倒れる寸前のところで、ダイナ様のお体はエゼルの手によって背後から支えられた。
「お怪我はありませんか」
「うん。大丈夫よエゼル。ありがとう」
よかった……危うくダイナ様のお体を打ち付けさせるところだった……。
「本当に大丈夫ですか? 真に申し訳ございませんでした」
謝る私にダイナ様はにこりと微笑まれた。
「大丈夫だってば。私は平気よ。……あっ、あそこに蝶がいるわ!」
新たに蝶を見つけたダイナ様は無邪気にそちらへ走っていく。……何ともなくて一安心だわ。
「スザンナ、気を付けてね。私が側にいるとはいえ、ダイナ様からはできるだけ目を離さないで」
真顔でそう言うと、エゼルはダイナ様の元へ向かっていった。……何なの? ちょっと私が失敗したからって、急に偉そうに言ってきて。私が側にいる? それはこっちも同じよ。ダイナ様の護衛は私のほうが先に務めているのを忘れていない? それを後から来たそっちが出しゃばっているんじゃない。生意気な娘。護衛と称してへつらうことしかしていないくせに。
評価がいいのは、まさにそのせいよ。ダイナ様に笑って媚び続けて、思惑どおりお気に入りになり、強力な援護者を得たってわけよ。そうなれば自然とフロレア様にも気に入られるから、王妃と王女というお二人からお墨付きを貰ったも同然になる。そんな方々の態度を見たら、上官も評価しないわけにはいかないでしょうね。でもそれがあの娘の狙いなのに。護衛任務なんて二の次なのよ。ダイナ様はただの手段でしかなく、あの娘は自分の出世しか考えていない、中身が最低な女よ。どうして誰もそれに気付かないのかしら。あんな無口で無愛想な女に騙されるなんて。
でも私だけは見透かしているんだから。エゼルが評価通りの女じゃないことを。それにあの娘があることを隠しているのも知っている。ダイナ様に嘘をついてまで隠していることをね……。だけど今の状況じゃ誰かに話しても、信じてもらえるかはわからない。何せあの娘は私よりも評価されている。下手に話せば根拠のない嘘だと決められかねない。でもこれは断じて嘘じゃないし、事実なのよ。
前に私は見てしまったの。任務の休憩中、エゼルが一人でふらふらと離れていく様子に不自然さを感じた私は、その後をこっそりつけてみた。すると人気のない場所で止まったあの娘は、懐から何か取って握り締めると、神に祈り始めた。別に祈る行為自体はおかしくないけれど、そこで呼んでいた神の名に私は首をかしげた。これまで聞いたことのない名だったから。祈りを終えたエゼルに私はその神について聞いてみたけれど、あの娘は呼んでいないととぼけた。私の聞き間違いだと言って。それ以降、エゼルは私の目の届く範囲で祈ることをやめてしまった。それがかえってあの娘の嘘を強調し、私に知らない神を調べる気にさせた。カーラムリアについての書物を読みあさったり、詳しい者に聞いたりして、やっとわかった神の正体に、私は驚愕と同時に、エゼルの本性を見つけられたことに小躍りして喜んだ。あの女は、やっぱりとんでもない女だったのよ。澄ました態度の内側は評価できるようなものじゃなく、どす黒いものが詰まっているのだとわかった。護衛兵どころか、近衛師団に所属する資格さえなかったのだから。
だけど、エゼルの本性を知っているのは私だけ。それもあの娘の言葉を聞いて調べただけで、本性を確実に伝えられる物証など何もない、実に力のない確信のみ。これで証明しようとしても、私の嘘や妄言で片付けられてしまうでしょうね。私が地団駄を踏んでいる側で、あの娘がダイナ様にすり寄っている姿を見ると、本当に腹が立つわ。その上評価までされるんだから……。皆の見る目を変えさせなければいけない。あの女は、見た目通りの女じゃないってことを気付かせないと。
そのためには本性につながる物証が必要なのだけれど、エゼルも警戒しているのか、毎日注意して見ても、なかなかぼろを出してはくれない。狙いとしては、祈っていた時に握り締めていた何か――あんな時に取り出したのだから、きっと神に関係する物に違いないわ。取ることはできなくても、何なのかくらいは知りたいものね。それを見られそうな瞬間は、任務前後の着替えだけど……これまでは何もできていない。あの娘、着替えると立ち話もなしにさっさと帰っちゃうから、探す暇も与えてくれない。急に話しかけるのも不自然だろうし、どうにかして足止めしたり、気をそらせることでもできればいいのだけれど……。
苛立ちを隠しながら任務を終えた夕方、私は兵舎の装備室に入り、着替えを始めた。もちろんエゼルも同じように着替えている。ここは女性兵士専用の装備室で、すでに別の兵士が同僚と談笑しながら着替えをしていた。その緩んだ笑い声を聞きながら、私は少し離れたところで着替えるエゼルの装備や服を横目で盗み見た。胸当てや籠手などの防具を外し、制服から私服に着替える――いつもと変わらない動作で、私が狙っている物も見当たらない。あるとしたらポケットなんかに入っているのかしら。エゼルは私服を着終えると、防具を収納棚に置きにいく。その後ろを着替え終えた兵士達がおしゃべりしながら部屋を出行こうとしていた。エゼルが背を向けているうちに、あの脱いだ制服を調べられればいいのだけれど、それにはちょっと距離が近いし、時間的余裕も足りないか。これじゃいつもと同じ結果だわ――頭を悩ませていた時だった。
コトン、と軽い音が聞こえて私は視線を移した。部屋の出入り口付近に黄色い小さな髪飾りが落ちていた。それと同時に扉は閉まり、おしゃべりしていた兵士達は出ていった。明らかに彼女達の落とし物だ。話し声で気付かなかったのかもしれない。まったく、任務を終えたからって気が緩み過ぎだわ。早く持っていってあげないと――私は着替え途中の手を速めようとして、そこでふと閃いた。……これだわ。これでエゼルの持ち物を調べられるわ。
収納棚から戻ってきたエゼルは、脱いだ制服に手を伸ばした。それを見て私はすかさず声をかけた。
「ねえエゼル」
無表情の顔がすぐにこっちを見た。
「……何?」
「ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
どこか警戒するような緑の目は瞬きをする。
「内容によるわ。何?」
嫌な感じ。偉そうに――
「そこに髪飾りが落ちているでしょう?」
私は指で示して言った。
「そうね。誰のかしら」
「ついさっき帰った娘達のものだと思うの。話していて気付かなかったのよ」
「わかっているなら、早く届けてあげたら?」
「見てわからない? 私はまだ着替え中なの」
前の開いたシャツを揺らして私は言った。
「あなたは着替え終えているでしょう? あなたが行ってあげてよ」
「でも私、顔をよく見て――」
「大丈夫よ。二人組のおしゃべりしている娘だからすぐにわかるわ」
エゼルは私と髪飾りを交互に見て考えている――どんくさいわね。行きなさいよ。
「帰ったばかりだからまだ近くを歩いているはずよ。ほら、早く行かないと見失うわ」
急かすと、一瞬不審な目を向けてきたけれど、次には仕方なさそうに髪飾りを拾い、そのまま装備室を出ていった。……少し強引だったかしら。怪しまれたかもしれない。でもこれで私一人になれたわ――シャツのボタンをはめながら、私は長椅子に無造作に置かれたエゼルの制服に歩み寄った。戻って来ないうちに調べないと……。
まずはくしゃくしゃになった上着を持ち上げ、内と外のポケットを探ってみる。しかし、特に何も入っていない。もうすでに取り出した後じゃないでしょうね――焦りを感じつつ、次に私はズボンのポケットを探ってみる。右側は、ない。左側は……何かある! 小さくて硬いものが入っているわ――私は手を入れ、それをつかみ出した。
「これは……」
入っていたのは、手の中に隠れるくらいの大きさの、丸い木彫りの物体だった。あまり綺麗とは言えない出来で、職人というよりは素人の手作りに見える。でも注目するべきはそこじゃなく、彫られた模様だ。渦を巻くようにつたが這い、その中央の珠に絡み付いた模様……これは見たことがあるわ。エゼルが呼んでいた神を調べていた時に。
私達人間は、カーラムリアの神一人一人に対して、神紋と呼ばれるその神を象徴する紋章を定めている。それらが使われるのは季節の祭りや祝い事など、神に祈りを捧げる場でよく見かけられる。信仰心の篤い者になると、神紋の描かれた紙や刺繍された服などを常に身に付け、お守りとすることもあるらしいけれど……。
私は手の中にある木彫りの模様を見つめた。これってまさに、そのお守りなんじゃないかしら。そして彫られている模様は、書物で見た神紋に間違いないわ。今は大半の人間が知らず、祈ることもないはずの、禁じられた神紋……見つけたわ。物証を、ようやく見つけた!
「何をしているの」
振り向くと、出入り口の前にはエゼルが立っていた。もう戻ってきたのね……。
「それは私の制服よ。どうして触っているのよ」
怖い目が私を睨んでくる。でも、その強気もここまでよ――ズボンから手を離し、私はエゼルに向き直った。
「くしゃくしゃだったから、畳んであげようかと思って」
「……見え見えの嘘ね」
「嘘じゃないわ。本当に畳もうとしたんだから。証拠に、ほら、こんなものを見つけちゃったわ」
つかみ上げた木彫りの神紋を、私はエゼルに見せ付けてやった。その瞬間、こっちを睨んでいた目は動揺するように大きく見開いた。……大当たりだわ!
「それは、私のものよ。返して」
つかつかと歩み寄ってきたエゼルは神紋に手を伸ばしてきたけれど、私はそれをすっと避けた。大事な物証を簡単に手放すものですか。
「その前に、ちょっと聞いてもいいかしら。これってあなたのお守りなの?」
「返して」
エゼルはしつこく手を伸ばしてくるが、私は避けながら続けた。
「この模様、あまり見かけない神紋よね?」
「あなたとふざける気はないの。早く返してよ」
珍しい。エゼルが人前で苛立った感情を見せるなんて。窮地に追い込んでいる証拠ね。
「実は私、この神紋のこと、知っているのよ」
これにエゼルは動きを止めたが、その目だけはこっちを鋭く睨み据えてきた。
「……嘘よ」
「どうしてそう思うの? この神紋の神は広く知られていないから? それとも、私がはったりをかけているとでも思っているの?」
エゼルは表情を歪めて黙り込んだ。私が本当に知っているとわかったようね。
「もう一度聞くわ。これは、あなたのお守り?」
「………」
「あなたの信仰する神って、これなんでしょう?」
「………」
「黙ってちゃわからないわ。それとも答えたくない?」
エゼルは口をつぐんだままだ。そっちが何も言わないなら、私が言ってあげるしかなさそうね。
「そうよね……邪神クロメアを信仰しているなんて、口が裂けても言えないわよね」
私を睨んでいた目は、再びはっとしたように見開いたが、すぐに伏せられた。その表情は困り果てているようにしか見えない。いい気味だわ。これでこの女の本性を表に引っ張り出すことができるわ。
「こんなことが周囲に知れたら、あなた、どうなるかしらね」
「……決まり切ったことを聞かないで」
伏せていた目が、またこっちを睨んでいた。……ふーん、開き直るつもりなの。
「それじゃあ、邪神を信仰しているのを認めるのね」
少し間を置いて、エゼルは言った。
「ええ……でも、私がどの神を信仰しようと自由だわ」
私はにやつきそうな顔をこらえるので精一杯だった。
「あなた、もう終わりね。仲間も、近衛師団も、ダイナ様までも裏切ってしまったんだから」
「そうかもしれない。だけどスザンナ、あなただけは嬉しいんでしょう? 私のこんなことが知れて」
この娘ともこれが最後ね……全部ぶちまけてやるわ!
「ええ、そうよ。今笑いをこらえているくらい、すごく楽しいわ。もうその無愛想な顔を見なくて済むと思うと、胸の中が晴々するし、誤った評価であんたが兵長にならなくて本当によかったと思うわ。その下で働くなんて、私には苦痛でしかないもの。そのことから皆を助けられたのは幸いだったわ。あんたの居場所はもうなくなるけれど、心配しないで。ダイナ様の護衛任務は私がしっかり務めるから。出世のために媚を売るような不純な心は一切なくね」
ふと見ると、エゼルは哀れむような表情を浮かべ、こっちを見ていた。何なの、その目……気に入らない目。
「……何よ。何か言いたいなら言ったら?」
「自分の妬む気持ちから目をそらして、勝手にそう思っていればいいわ。だけど私は……信じてもらえないでしょうけど、あなたと初めて会った時みたいな仲に戻りたかったわ」
この女、開き直ったかと思えば、猫を被る気?
「私にすり寄って、いい娘のふりをしたって無駄よ。あんたの本性は暴かれたんだから。私が皆にしっかり教えて回ってあげるから」
「……好きにして」
エゼルはそう吐き捨てると、制服を抱えて踵を返した。……思ったより張り合いがなかったわね。でもいい様だわ。これで目障りなものが消えて、ダイナ様の意識も私に向いてくれるはず。評価の独り占めなんて、もう許さないわ。
装備室から出ていこうとするエゼルの背中に、私は最後の言葉をかけた。
「明日が本当に楽しみだわ。あんたにどんな罰が下るか見物――」
言っている途中で、私は体に異変を感じて言葉を止めた。何だか、苦しい――視界の隅に何か見えた気がして、自分の体を見下ろした瞬間、私は息を呑んだ。
「ひゃっ――」
そこに見えたのは、体の全面でゆらゆらと踊る、黒い炎だった。そんなものがあり得ないことはわかっている。でもそれは炎としか表現できなかった。
「なっ、何よ、これ!」
服にまとわり付き、徐々に上へと上ってくる。でも服は焦げず、熱さも感じない。けれど確実に呼吸は苦しくなっていた。両手で黒い炎を叩き、消そうとしてみるけれど、揺れるだけでまったく消える気配はない。何なの、これは、一体何なのよ!
「たっ、助けて! 誰か! 助けて――」
大声で助けを呼びながら、私は顔に迫る炎を手で払いのけることしかできなかった。無意味な行動だとわかっていても――胸が、苦しい。立っていられない。
「……スザンナ? 今何か――」
出ていったはずのエゼルの声が聞こえ、私は苦しい息で叫んだ。
「助けて! どうにかして!」
「これって……早く消さないと!」
戻ってきたエゼルが慌てて駆け寄ってくる。お願い、早く――
「何が起きたの? これは、炎なの?」
エゼルはごちゃごちゃと聞いてくるけれど、こっちに答える余裕なんてない。いいから早く消して――エゼルは制服を使って消そうとしてくれるが、私を包む炎に弱まる様子は微塵もない。視界が、黒い炎で、覆われて――
「た、すけ……」
呼吸ができず、私は床に倒れた。
「スザンナ! ……ど、どうすればいいの」
制服を握り締めておろおろするエゼルの姿がかすかに見える。すると、その背後の扉がおもむろに開くのも見えた。
「おい、どうしたんだ。何が起きた」
「……ノーマン! 何でここに――」
「そんなことより、燃えているそっちが先だ。急いで火を消せ」
「やっているわ。でも消えないのよ!」
「黒い火にしか見えないが、これは火じゃないのか?」
「わからない。私にも何なのか……早くしないとスザンナが!」
「くそっ! とにかくできることは全部やってみるんだ」
エゼルと知らない男が懸命に私を助けようとしてくれている。だけど、私はもう駄目みたい。苦しさが全身に満ちていく。まさか今日、死ぬことになるなんて。それを助けようとしてくれたのがエゼルだなんて……私、本当に彼女の本性を暴けていたのかしら。今さら疑問に思えてきたわ……。
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