『ミステリー小説を書くコツと裏ワザ』

『ミステリー小説を書くコツと裏ワザ』

 著者 若桜木虔

 青春出版社 本体一四六〇円(税別)


 NHK文化センターで小説講座の講師を二十五年以上務め、四十名以上の生徒をプロ作家としてデビューさせている。若桜木虔名義で約三百冊、霧島那智名義で約二百冊、ミステリー、時代小説、漫画原作、SF、アニメなどのノベライゼーション、ゲームブック、実用書など筆名を使いわけて八百作以上の著作がある。

『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋二〇〇四年傑作ミステリー第九位にランクイン。公募スクールの「小説新人賞必勝講座」や個別指南講座で、新人賞を受賞するための傾向と対策をコラム形式で紹介している。


「本書では、これから初めてミステリー小説を書こうとしている人、またミステリー小説を書いて、プロ作家として文壇デビューしたい人に向けて、どうやったら魅力的なミステリー小説は書けるのか、に最重点を置き、執筆法のノウハウを即座に使える『コツ』と『裏ワザ』というかたちで紹介していきます」とあるが、本書を読めば、ミステリーを書いたことがない初心者が、読めばたちまち、ものすごいミステリー小説が書けるようにかといえば、少しちがう。

 ミステリー小説に興味があり、書いて応募してみたけどなかなか選考が通らないけれどどうしてだろうと悩んでいる人なら、助けになるのではと思える書籍である。


 ミステリーをよく知っている人にとっては、本書に書かれているトリックは知識として、すでに知っているかもしれない。なので、物足りなく感じる人もいるだろう。また、既出作品でたとえられても既読してなければわからない人もいるかもしれない。だけども、ミステリー小説を読むのを勧めようと、あえて書いていると思われる。なぜなら著者は、講師をされているから。ミステリー小説を書きたければ、それなりに作品を読んで勉強することを促したいのだ。


 本著は、「小説の完成度はトリックで決まる」「大きなトリックに役立つ五つのポイント」「複雑なトリックを生み出すコツ」など、当たり前のことが書いてあるように思えるかもしれない。裏を返せば、当たり前のことが大切であり、できていない人は、だから選考を突破できないとも読み取れる。

 かってはアリバイトリック崩しが、本格ミステリーの一翼を担っていた。が、いまではサブ的な謎に使えるものの、メインで扱うのは難しいとある。すでにアリバイ崩しミステリーが大量生産されたので、メインでつかえば既出トリックとかぶればオリジナリティーなしとみなされ落とされてしまう。サブ的につかえば、作品に既視感が出ることは少ないかもしれない。

 そのためにもテレビドラマなどを見て、使われたトリックネタを分類しておこうとも促している。


 とくに、著者は小説講座の講師をしているので、どうしたら一次選考を突破し、さらに選考されるかに重きを置いている。本書の後半はとくに、「的確な文章表現」「取材や情報収集」「ミステリー新人賞受賞のための」コツと裏ワザが書かれている。

 上手い文章よりも平易な文章を書くように心がけよ、も同じ理由からだろう。ミステリーの肝はトリックなので、ミステリーに凝るのはいいけれどもミステリーを求める読者も編集も、辞書を引かなくてはわからない表現を嫌う。

 特定な言い回し「目を丸くした」「走馬灯のように」や、あいまいな表現「という」「のこと」「のほう」などの水増し表現を使わない点も書かれている。

 ミステリーに限らず、小説を書くときに気を付けたい心得も触れている。推敲する際に役立つため、知らない人に一読を勧めたい。

 リアリティーが増す取材や情報収集についても触れられている。ネットを活用したり、警察考証が正確な作品群を利用したり、いろいろ書かれている。

 ミステリー小説に限らず、作品全般にもいえる「選考は最初の五ページまでで決まる」とある。とにかく最初の一ページで選考者に興味を持ってもらわなくてはならない。ラノベやウェブ小説では更に短く、はじめの数行が面白くなければ読んでももらえないといわれる。

 他にも新人賞対策についてなども書かれており、ミステリー小説を書かない人でも、本書から学べるところがある一冊と考える。

 図書館などに足を運ばれて、ご一読されて、購入するか借りるか、ご判断ください。


 ご存知かもしれませんが、公募ガイドサイトに『若桜木虔の作家デビューの裏技、教えます!』をされてるので、そちらも参考にされるとよろしいと思います。

 https://koubo.jp/article/list/tag/61

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