第0.5話 ゲート
3人のおじさん達に連れられて、数々の儀式を執り行ってきた。
そしていよいよ最後の儀式。
4人でタイミングを合わせて手のひらを打ち合わせた。
ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ!
すると、6本の柱の間に徐々に光が収束していき、
「これは、ゲートですか?
おじさん達は
「詳しい話しは向こう側で話そうぞ。
お主もこれをくぐるのじゃ」
「え、ああ、はい。
お、お邪魔します……?」
僕は恐る恐るゲートに足を踏み入れた。
身構えるのも無理はない。
しかし、意外にもゲートをくぐるのは一瞬の出来事で、くぐる時の感触などは特になく、普通に歩いてドアの枠をくぐるのとさしたる違いはなかった。
「意外とあっさりくぐれるもんなんですね」
「お主はゲートをなんだと思っていたのじゃ?」
「くぐる時に何かこう……。
グワングワンに視界が揺れたり、自分が粒子か細切れに分解されてから元に戻されたり、全部の服が一瞬無くなったり、強力なGがかかったりとか、とりあえず普通じゃないことが起きるのかと……」
「ふむ。
何かの作品のイメージとかに毒されているようじゃな。
ワシらの世界じゃ、このゲートこそが当たり前に存在しているのじゃから、あっさりも何も初めからこんなものじゃよ。
それよか、言わせておくれ。
ようこそワシらの世界へ。
ここではお主は正真正銘のガリバーじゃ」
黄色帽子のおじさんが顔をパッと輝かせて僕を歓迎してくれた。
続いて緑帽子のおじさんが口を開く。
「ようこそ、旅人よ。
言っておくが、俺たちは
あの野蛮な連中が使ってるゲートは、もともと俺たちの世界の技術だったのだ」
「そうよ。
しかもあんなに無理矢理な方法で開くものじゃなくって。
今みたいに聖域でちゃんとした儀式を執り行ってはじめて、世界の力を少しお借りしてゲートを開いているのよ」
「やつらは、ワシらのやり方の方法だけを抽出して、それに強制的な力を持つようにエネルギーで補助をつけて、世界に強制的にゲートを開かせとるんじゃ。
あんなことを続けていては、いずれ世界の一部が再生不可能になってしまうじゃろうて」
「再生不可能!?」
「それほど危険な使い方をしているってことだ」
「本来聖域に到達できるのも、1部の人間だけじゃのに。
やつらは任意の誰でも使えるようにしとるのも解せぬわい。
ゲートが悪用されると危ないものだと言うことくらい、赤子でも理解できると言うに、全くもってやつらと来たら」
「儀式を執り行うための時間も場所も圧縮した装置を作り出して、そこに抽出したエネルギーを注ぎ込んでだな。
そのエネルギーは、我らのような異世界の者を捕らえて過酷なことをさせたり、時には殺してしまってそれから取り出して補ってはいるが、足りない時は同胞おもエネルギー源にしやがる」
緑帽子のおじさんが思いっきり不快そうに顔をしかめて舌を出す。
「あたしはそんな酷いことするのは許せないわ」
青色帽子のおじさんが悲しみと悔しさを滲ませて言った。
「どうしてそんなこと……」
僕のつぶやきに緑帽子のおじさんがすかさず答えてくれた。
「便利だかだろうな。
便利な物の代償はどこの世界でも多少は低く見積もられる。
決して掃いて捨てていいものじゃないが、一旦その便利さを知ってしまったからには、その魔力に抗いきれないんだろう。
そのお陰でどれだけの死体が積み重なってきたのやら」
「ワシらはルールを設けて影響のほとんどない方法を模索して今の形をとっておるが……。
お主の世界では未だルールや影響を調べる段階まで知識を得ぬまま、ほとんど知らぬままに便利な道具として使っておるんじゃよ……」
「そうなの。
だから、あたしたちの言うことを信じてくれないし、誤ったやり方を変えようとしないの。
痛い目見てからじゃ取り返しもつかないのに、全く困っちゃうわよね」
3人の愚痴混じりの話は止まらない。
どうやら僕が暮らしていた世界とは別の世界に来ていて、おじさん達はそこの異世界の人たちってことか。
そしてゲートの技術はこちらの異世界の技術で、その使い方や影響について誰よりも詳しい人たちが目の前にいる。
なのに、
自分で整理してみても、少し信じ難い。
だけど、さっきくぐったゲートを装置もなにも無しで開けたのだから、それは信じるに値することかもしれない。
「僕が聞きたいアリスとかの話は、つまりあなた方自身のお話でもあるって事なんですね?」
「「「そうだ」よ」とも」
またもおじさん達は意見の一致にハモリ気味に答えてくれた。
「じゃあ、あのアリスも、ここの世界から来たんですか?」
「違うじゃろうな」
「こことはまた別の異世界の子だと思うわ」
「そうだ。
せっかくここへ来たんなら、あの子の様子を見てみよう!
おい坊主、着いてこい」
「は、はい。
そんなこともできるんですね」
「ワシらの世界ではそういう儀式は特に発展してきたのじゃよ」
「へぇ〜。すごいですね」
━━
近くにあった湖のほとりにやってきた。
ここは聖域の中にある湖だという。
「坊主、見たいものや人のことを全力で思い浮かべろ」
「わかりました」
あの噴水のガラスのオブジェにいた赤い髪の少女を思い浮かべる。
ヴァルキリーがゲートの先へ連れ去った後、彼女はどうなってしまったのだろう。
「思い浮かべたら湖に手をかざすのよ」
「はい」
青色帽子のおじさんの言う通りに湖に向かって手をかざす。
すると湖に小さなさざ波がたち始めた。
さざ波の中心は僕だ。
そして、僕の手にも湖のさざ波が伝わってくる。
不思議な感覚。
かざした手に逆さまに雨でも当たっているかのように、さざ波が微かに与える振動を感じる。
振動は次第に大きくなり、すぐに小さくなった。
「これは。
あの子の今なんですか?」
湖にはあの赤い髪の少女が、窓の無い無機質な部屋でベッドに寝かされている姿が見える。
「そうじゃとも。
お主はワシらと共に儀式を執り行ってきた。
あの儀式は主に水を司る者のための儀式なのじゃ。
じゃからお主には、この特別な湖の水を通せば、お主の見たいものを見ることができる。
全てとは行かぬがの」
「彼女はこれからどうなるんですか?」
「この様子じゃ、このアリスちゃんは、アイツらに捕まっちゃったみたいね」
「あの子がどんな力を持っているにせよ。
犯罪者としてエネルギーを搾り取って殺されるんじゃろうな」
「そんな……。
だって、あの子は眠っているだけで何もしてないじゃないですか。
捕まる時も寝ていたし、なんの被害も出てないですよ?」
「そんなことは特に問題ではない。
ヤツらは情報操作ができる。
あの日のあの場所で記録された全ての映像や音声は差し替えることができる。
ヤツらならやりようがいくらでもあるんだ。
例えば、噴水の破壊を彼女のせいにしたりな?」
「なんでそんなこと……」
「あの子が別の世界の人間ってことだけで、アイツらには十分に殺す理由になるのよ。
何せ一度境界を越えているのだもの……エネルギー源としか見てないのよ」
「彼女を救う方法は?」
「あるにはある。
ワシらならな。
しかし、時間がいるじゃろう。
それまであの子が生きていればの話じゃ」
「どれくらい必要なんですか?」
「1ヶ月はほしいところね。
あたし達の安全も踏まえないと、あの子を助け出せても、結局アイツらに殺されることになるのはごめんだもの」
「1ヶ月……」
「捕まってから1ヶ月も生き延びたものを俺は見たことがない。
だが、捕まるまで1ヶ月以上かかったヤツなら助けたことはある。
残念だが、あの子は……」
「1ヶ月間、あの子が生きていればいいんですね!?」
「ん!?ああ。
おう、たしかにそうだが?
どうした急に、大声出して」
「何かいい方法でも思いついたの?」
「
サバイバル番組として中継されてて、僕もよく見てます。
凶悪な犯罪者が主に出てくる番組だと思ってたんですけど、凶悪犯にしてはおかしいなと思うこともあって……」
「ワシらにはお主の世界のチップとやらが無いから、見たことがないのう」
「そうね。
どんな番組なのか、教えてちょうだい?」
「
最初にその
中継画面にはサバイバル中の食べた物や手にした物が追加されていって、たまに解説でどんなタイミングでどんなものが生き延びるのに必要なのかを教えてくれます」
「たしか、エネルギーを奪うのに保護区にある装置でやっているという噂を耳にしたことがあるな」
「そうね。
たしかにそういう話、前に聞いたわ」
「お主の言うその番組で、1ヶ月以上生き延びた者はおるのか?」
「たしか過去に数人はいたと思います」
「その数人はどうなったんだ、坊主?」
「
犯罪のグレードにもよりますが、おおむねこちらの世界で色々な番組に出てインタビューを受けたりしてました。
番組時代にできたファンとかもたくさんいて、生活には困っていなさそうでした。
今もそのサバイバル番組の解説に呼ばれることもあります」
「ふむ、なるほど。
じゃあ、俺たちが助けるまでもなく、あの子の犯した罪がどんなものとしてでっち上げられるのかがミソってことになるな」
「それなら、あのアリスちゃんの持つエネルギーとしての価値も加味されるでしょうね?」
「あヤツらが素直に犯した罪だけを公表するはずは無いじゃろうから、当然そうなるじゃろうな。
じゃが……ワシの見立てでは、あのアリスちゃんは相当量のエネルギーを持っていると見ておるぞ」
「どうしてですか!?」
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