仏の学校

 ここは、仏の学校です。

 入学せしは実に優秀な生徒たち、日々勉学修行に励み、将来は悟りを開いて仏となるのです。


 本校の創立者は宝生如来ほうしょうにょらいさま、かの仏をかたどった石像モニュメントが校内の中庭に安置されてございます。

 そして現在の学校長は、釈迦如来しゃかにょらいさまであります。


 校舎前の運動場を介した敷地の最奥には、礼拝堂(まるで市民会館だった)が併設されており、毎朝読経が行われます。

 このように、仏の学校は若き菩薩たちの仏道精神を養い、育んでいるのでした。


 学校生活は実に平和で、いじめもなければ、床に塵一つとて落ちていない。

 生徒たちは毎日笑顔で明るくて優しく、まことにすばらしかったのです。


 ところが、そんなにも泰平だった学校が、突如として荒れ出します。生徒間の治安が悪くなり、菩提心が乱れ始めたのです。

 授業時間だというのに、みんな運動場へ出て、野球をやったり爆竹をやったりとやりたい放題(ただヤンキーが暴れ回ってるだけ的な感じだった)。殴り合いの喧嘩をする男子たちまでいます。

 校則のへったくれもなく、制服もまともな着方をしていません。近所からの苦情も、ひっきりなしです。


 すると、「これはヤバい」と察した石像の宝生如来さまが、長年の眠りからお目覚めになりました。

 そして、乱れに乱れた本校の方針を立て直さねばならないと思って、現校長の釈迦如来さまに直談判をしに行ったのです。


 授業中の教室に割り込んで男性教員に「釈迦はどこか(ほぼ脅し)」と尋ね、釈迦如来さまが今は礼拝堂におはすことを聞き出しました。

 宝生如来さまは、暴れ回る生徒たちのあいだをぬって、すぐさま礼拝堂を訪ねます。


 礼拝堂では、釈迦如来さまが住職に頼んで祈祷をあげておられました。

 一刻も早く、この秩序崩壊が回復するようにと願っていたのです。もはや、神頼みです。


 そこへ宝生如来さまがおいでになって、釈迦如来さまに言いました。


「布教し直して、あの子たちに仏の道を歩ませねばならない」


 云々そのように、宝生如来さまは釈迦如来さまを説得します。

 しかし釈迦如来さまは、「もう致し方のないことだ、どうしようもない」と答えるばかりで、すっかり諦めモードでありました。ますます、御祈祷に専念あそばされます。


 なすすべのなくなった宝生如来さまは、顔をしかめてこうつぶやきました。


「これが末法の世か……」





                    Fin.

 

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