再び始まる戦

 二人が貴族であることを知り、口調を改めた方がいいか聞いてみたところ、キルシュターは「話しやすい口調で問題ない」と言ってくれた。


 シャルリアは俺の服を掴んで首をブンブンと横に振っていたから、恐らくこのままでいいのだろう。


「キルシュターはいいのか? その喋り方で」


 こちらが砕けた口調で喋っているのに対し、キルシュターは誰に対しても丁寧な口調を崩さない。


「えぇ、大丈夫ですよ。これは習慣の様なものですから、気にしないでください」


 本人がそう言うのだから、問題はないのだろう。なら、俺も今まで通りの態度で接することにする。


 こうして話をしている間にも、昼休憩の時間は残り少なくなってきた。


 程々で話を切り上げ、俺達は食堂を後にする。


 この後は午後の実習がある。


 先生は寮の部屋割りには確かな理由があると言っていた。その理由を、午後の実習時に説明するとも。


「午後の実習、何するんだろう?」


 ルルフィが俺の隣に並び、そのまま同じペースで歩き続ける。


「一回目だし、初級魔術の講義とかかな?」


 初回から超高難易度の魔術を実践させられても困るし、出来れば簡単なものだといいのだが。


「……ねぇ、アル」


 ルルフィが何か言いたげそうな表情をしてこちらを見ている。


「ん? どうした?」


「その……シャルリアさんとは、いつの間にそんなに仲良くなったのかなって……」


 ルルフィの視線の先には、またまた俺の腕をがっしり掴んでついて来るシャルリアがいる。


 ちょっとこの状態に慣れつつあった俺は、今の状況に違和感を感じていなかった。改めて考えると、何だこの状況は……。


 何故俺は、同級生に腕を固められながら学院内を歩いているんだ?

 

「……」


 試しに引き剥がそうとすると、シャルリアは全力でそれを拒む。それどころか、涙目になって一層俺の腕を離そうとしない。

 

「……俺にも分からない」


 少なくとも、シャルリアの対人能力が皆無だという事しか分からない。


 一体この調子でどうやって学院で生活するつもりだったのか、小一時間問い質したい。が、これ以上は頭が痛くなりそうなので気にせず集合場所である訓練場へと向かう。


 訓練場には既に大半の生徒が集合していた。俺達も急いでその輪の中へと入る。


「そろそろ時間だな。では、午後の実習を始める!」


 声を張り上げる先生を見る生徒達の眼差しは明らかに午前の時より強くなっている。


 皆、納得出来る理由が欲しいのだろう。


「――と、その前に、午前に受けた質問にまずは答えたいと思う」


「何故、寮の部屋割りが事前に決められているのか。それは――同室となった生徒は今後一年、実習を行う上での協力者となるからだ」


 先生の発言にざわつく生徒達。


「あのっ、協力者というのは一体どういう事なんでしょうか?」


 生徒の一人から質問が飛び出す。


「そのままの意味だ。君達は寮で同室となった者同士で一組となり、協力し合って実習を受けてもらう」


「君達の力量は入学試験の際に把握している。編成の際には君達の資料を確認し、得意不得意や相性を加味した上で実習時に有利不利が生じない様調整させてもらった」


「寮に入っていない者に関してはこの後、私の方から改めて組み合わせを発表する。ここまでで何か質問がある者はいるか?」


 先生の言葉に一度は静まる生徒達だったが、暫くしてその中の一人が沈黙を破って手を挙げる。


「実習時は一人ではなく、二人一組になる必要があるという事は分かりました。ですが、それなら態々寮での私生活まで一緒になる必要はないのでは?」


 尤もな指摘だが、それを聞いた先生の表情は崩れない。


「本実習では個人の力だけではなく、二人による『協力』が求められる。その為にも、日常的に交友を育んでもらおうという学院長の判断だ」


「で、では! 寮の組み合わせが男女なのにも何か理由があるんですか!?」


「それは学院長の個人的な趣味だ」


 これまで何だかんだ納得出来る理由付けがされていた事もあり、予想外の回答に肩透かしを食らう。


『一番の問題がよりによって学院長の趣味かよ!』


 心の中で思わずツッコんでしまった。何か問題でも起きたらどうするつもりなんだ……?


「他に質問はあるか? …………いないようだな」


 最後のはともあれ、学院側に明確な理由があった為だろう。先生の言う通り、これ以上質問を続ける生徒はいなかった。


「では、今日の実習だが……君達には入学試験時に経験した『模擬戦』をで再び行ってもらう」


「組分けは先程説明した通り。組む相手が分からない者はこの後、私の元まで来るように」


「では各自、準備に移れ!」

 

 先生の号令と共に、生徒達は戸惑いながらも各々動き始めた。


 組み合わせを知らない者は先生の元へ、組み合わせを知っている者は協力者の元へ。


 そして俺も、自身の協力者の元へと足を運ぶ。



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