ハリーside

第21話




 王子妃候補として、日に日に凛々しく、美しくなっていく彼女の横顔が、いつまでたっても色褪せない。



◇◇◇


 俺が初めて、シャーロットと出会ったのは、彼女がまだ八歳の時。幼いながらも綺麗に礼をする彼女に感心したのを覚えている。一方俺は、当時二十四歳の騎士で、図体ばかり大きくて、愛想も悪く、女子供には怖がられている自覚があった。なので、どうにか、目線を合わせ、無理矢理笑顔を作ろうと苦戦していると、そんな俺が可笑しかったのだろう、にっこりと笑うシャーロットはとても可愛らしかった。



 王宮騎士団長の職に就いている父親には「おそらく、エドモンド第二王子妃となる子だ。何れは彼女に仕えることになる。」と聞いた。そんな彼女とは早々会うことはないだろう、と気にも留めていなかったのだが、何故だか懐かれた。俺の休日を家族に聞き、その日を狙って遊びに来ているようだ。「公爵令嬢に気に入られるとは幸せもんだな。」と父親は茶化して笑っていた。


 シャーロットは、俺が鍛練していると、いつも俺の周りをちょろちょろとしていて、歳の離れた妹のようで可愛らしかった。そして家の庭にあるスズランがお気に入りのようで、よく見ていた。


「・・・シャーロット嬢はスズランが好きなのだな。」


「ええ、ハリーさまとあえるとき、いつもスズランといっしょでしょう。だから、ほかのばしょでスズランをみると、いつもハリーさまをおもいだすの。」


 ふんわりと笑う、シャーロットに、俺は思わず頭を撫でた。より笑みを深める彼女を見て、この妹のような少女がこのように笑っていられるのを願わずにはいられなかった。



◇◇◇


 シャーロットが、第二王子妃となったのは、そのすぐ後のことだ。家に遊びに来ることも無くなり、寂しさを覚えた。ある日、王宮騎士団の訓練所近くで、彼女を見掛けた。よく観察してみると、彼女は毎日のように訓練所を見学してから王子妃教育へと向かっているようだった。その表情は険しく、疲れが見えた。それでも、王子妃教育へ向かう姿は凛として、十歳とは思えない美しさがあった。



(やはり、王子妃教育に疲れているのだろうか。)


 おそらく気分転換に訓練所に訪れているのだろう。本当は、一言でも声を掛けたいと思っていた。だが、ひっそりと見学している様子から、おそらくお忍びで来ているのだろうと察した。他の騎士たちは誰も気付いていないほど、彼女は気を配り、ここに来ているのだ。邪魔はしたくなかった。


(それに、俺なんかが声を掛けてはいけない。)


 今までは、父親同士の縁があり、言葉を交わしていただけだ。将来王族となる彼女に気軽に声を掛けて、万が一彼女に何か不利になるようなことになっては取り返しがつかない。だが、あのふんわりと笑う彼女が、いつも暗い表情をしているのが心配で仕方なかった。


(どうか、また、シャーロット嬢が笑えますように。)

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