第16話


「ああ、キャシーか。久しいな。」


 ハリー様は、表情を崩したのを見て、私の心がずん、と重たくなるのを感じる。二人の雰囲気から親しさが醸し出されている。


「ハリー様、こちらがお噂の婚約者様ですか?」


 キャシーと呼ばれた美女は、色気を漂わせた笑みを浮かべながら、私の頭から足の先まで値踏みするように見ている。心と体が硬直してしまいそうになるのを、必死で微笑みを浮かべ、いつも通り挨拶をする。


「シャーロット=ハワードと申します。」


「キャシー、あまりジロジロと見るな。」


 不機嫌そうに背中に庇われると、嬉しさよりも寂しさが増す。名前を呼び捨てにされている、とか、雑に扱われているのが親しそうに見えるとか、そんな幼すぎる思いが身体中を駆け巡る。



「申し訳ありません。ずっとお会いしたかったものですから。」


 別れの挨拶も簡潔に済ませ、ハリー様に少し引っ張られるように出入口へと連れていかれる。



「・・・さま、ハリー様!」


「あ、ああ、すまない。」


 歩みが早くなり、息が上がってしまい、思わず声を掛ける。ハリー様がやっと歩みを止めてくれ、私の呼吸が整うのを待って下さる。



「大丈夫か。」


「はい、もう歩けますわ。」


 ハリー様が頷き、私のペースに合わせて歩き始める。


「先程のキャシーなんだが、元々騎士団に入団していたのだ。長い付き合いなものだから、気安くてな。だが、シャーロット嬢に不快な思いをさせてしまって申し訳ない。」


「い、いえ。」


 それからも、ハリー様が色々なお話をしてくれていたけれど、私は上の空で話を聞くことは出来ず、先程のキャシー様のことばかり考えていた。

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