祟られた写真部事件 問題編⑤
「その心霊写真、見せてもらっても?」
「いいよ。はいこれ」
伊崎さんは桐箱を開けると、空先輩に写真を手渡す。
それを受け取った空先輩は、すぐに肩をビクッと跳ねさせた。
そしてろくすっぽ確認してないとしか思えない早さで、その写真を僕に差し出した。
「こ、これはキュラ君にも見てもらうとしよう」
「え? ああはい、見せてもらえるなら」
僕も正直気になっていた。それじゃあ失礼して、と空先輩から写真を受け取る。
写真はどうやらそこそこ古いもののようで、くたびれた感じがあった。
「わっ」
幽霊はすぐに見つかった。写真は三人の人間が並びながらピースをして立っている、ごくありふれた構図のものだ。しかし画面から見切れそうな写真の右端、人と同じ大きさの白い人型が同じポーズで立っている。
本当にそれは、首から下は白い何かとしか形容できない。凹凸も影もなく、やや透過した真っ白が人の形をしている。そんな感じだった。一方で顔は異様で、胴体と同じく真っ白い肌に、人の二倍ほどありそうな大きな眼を持ち、極めつけに口は人間にはあり得ないほど口角を吊り上げて曲げられていた。
人を模倣する白い何か。そういう形容が適切と思える化け物だ。そんな化け物がピースをして立っていると、現実味の崩壊を強く感じさせられる。
……だが些か、パンチが強すぎる。これではむしろ冷めてしまう。
「なんかわざとらしいですね。これ、合成写真じゃないですか?」
「やっぱそう思う? あたしもそう思ってんだよね」
正直な感想を口にすると、意外にも伊崎さんから同意がもらえた。
ざっと確認してから、まあ空先輩の方が観察眼も確かだろうと早々に切り上げる。
「空先輩、まだ見ます?」
「……いや私はいい。それよりキュラ君がよく確認しておいてくれ」
写真を返そうとすると、すぐさま突き返された。
「え? まさか先輩、心霊写真がこわ――」
「怖いわけないだろう!? 違う! 断じて違う!」
「じゃあ何ですか」
「これは、あれだ! 自己防え――」
さっ。空先輩の眼前に写真を翳す。ぷい。空先輩は即座に視線を逸らす。
さっ。ぷい。さっ。ぷい。さっ。ぷい。
「きゅ、キュラ君のいじめっ子っ!」
「ぐはっ」
僕の本体へダイレクトアタック。攻防戦は僕の負けとなった。
「だから、自己防衛だと言っているだろう! さっきの話を忘れたのかい? 私は体質上、油断してるところに超常的な雰囲気を当てられるとダメなんだ!」
「ああ、そういえば」
お葬式で気を抜くと云々と言っていた。あれは心霊写真でも同じなのか。
「まったくもう。ほら、心の準備はできたから貸すといい」
「ああ、はい」
差し出された手に心霊写真を置く。今度は何の問題もなく、空先輩はその写真を眺め続けた。
「へぇ。空、そういう顔もするんだ。クラスじゃずっと本読んでるだけなのに」
「うるさい。……特に写真自体に変わったことはないね、心霊写真という点を除けば」
「いや、それが一番変なトコじゃん」
伊崎さんは空先輩のおかしな発言に笑いながら、心霊写真を受け取り、桐箱に戻した。
「で普段ならこれを机の上に置いて、いい写真が撮れますようにって念じながら手を合わせる。それが終わったら、箱を棚に戻して終わり」
伊崎さんが簡単にその手順を再現してみせる。本当にシンプルなおまじないだ。伝統として受け継がれる中で簡略化されたのか、それとも最初からこういう形だったのか。
解説を聞き終えた空先輩は、ポツリと呟いた。
「ふむ。典型的な類感呪術だね」
「ルイカン? なにそれ」
伊崎さんが首を傾げる。僕も空先輩が何を言っているのかわからなかった。
空先輩はそこで少しだけ得意げな顔になると、早口にその類感呪術について解説を始めた。
「類感呪術というのはまあ、簡単に言ってしまうと、呪いたい対象に類似した何かを利用する呪術のことだ。藁人形に釘を刺して相手を呪い殺すなんていうのは有名だろう? これは対象の人間と藁人形の形状の類似性――つまり繋がりを介して、相手に呪いを届けるという考えから生まれたものだ」
「ああ、そういうやつね!」
「まあ藁人形の呪いは相手の髪の毛を埋め込んだりするから、感染呪術としての側面も併せ持っているのだけれど、それは今解説する必要はないだろう」
誤った認識に修正を入れつつ、空先輩は解説を今回のケースに移す。
「今回の場合だと、箱の中にある一枚の心霊写真が、そのまま心霊写真の象徴として用いられている。つまり、その一枚さえ封じ込めてしまえば、他の心霊によって作られる心霊写真も封じ込められるという考えだね。それ以外の目的が見出せない極めて単純な儀式だ」
「ということは……どういうこと?」
「端的に言ってしまうと、心霊写真そのもの以外は迫力に欠ける。倒れた子は、今はもう進行役――つまり、心霊写真に触れる役を引き受けていないんだろう?」
「うん、今日はあたしがやった」
「なら、倒れてしまうほどの眩暈を覚えた原因は何か。これはもう明らかだ」
空先輩は指を一本立てて、自信ありげな表情で伊崎さんに向き直る。
「何が原因なわけ?」
伊崎さんが前かがみになりながら尋ねる。僕も空先輩がどのような結論を出したのか気になって、じっと視線を注いだ。
「決まってる。おまじないとは直接関係のない――何かだよ」
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