第5話

「マシロです。旧王家遺跡外苑にてトラップにかかっていたプレイヤー一名、本人の希望通り旧都のバックアップポイントに送り届けました。これよりセントラルに帰投します」

「了解。お疲れ様」

 先輩は無線越しに私を労う。

 遺跡の柱の上に立っていた私は下を見下ろす。高さ五メートルくらいの柱の下には、古代の刀剣や槍など近接武器のみを持つAI兵がわらわらと集まっている。

 一歩踏み外せば、一瞬でゲームオーバーだ。

 私はドローンを通信機で呼ぶ。ドローンは近くの林からすぐに私の真上に飛んできた。

 私はグリップに手をかける。

「上昇」

 命令に従順なドローンは遊覧飛行を開始する。AI兵の存在が無ければ、ここは優雅な古代都市が広がるエリアだ。

 その時、チャットに通知が飛んできた。高峯くんからの通信だ。

「もしもし? 高峯くん?」

「あ、北山さん? そろそろバイト終わった頃かなと思って、かけてみた」

「うん、ちょうど終わったよ」

「ならよかった。今砂漠エリアの地下道にいるんだけど、例の分析結果が反映されてきてるんだ。これそう?」

「わかった。今から向かうね」

 私はウィンドウで進路変更して、ドローンを方向転換させる。少し揺れて振り落とされそうになるが、なんとか耐えた。機体が安定すると、私は加速を命令した。



「や、高峯くん」

「あ、北山さん。今始まったばかりだよ」

 私は地下道の分かれ道に、高峯くんと隠れ、奥の様子を伺う。

「あれ、どういう状況?」

 私の目線の先では、AI兵の集団が数体のAI兵を破壊していた。地下道開拓用のピッケルを持ったAI兵たちが、腕や足のもがれたAI兵に群がっている。

「仲間を殺してるんだよ」

「それはわかるってば。なんであんなことしてるの?」

 私は責めるように肘で高峯くんをつつく。

「ああ、そういう意味ね。あくまでこれは僕の憶測でしかないんだけど、たぶん弱いAI兵を排除することでAI兵の質を上げてるんだ」

「何で? 弱くてもいないよりいいじゃない」

「これも公式データじゃないけど、AI兵の総数にはリミッターがかけられてる」

「リミッター?」

「うん。ある程度の数より増えないようになってる。リミッターが無いとAI兵は無限に仲間を増産し続けるからね。思うにAI兵たち自身はこのことに気づいてない」

「気づいてないのにどうして仲間を減らそうとするわけ?」

「AI兵たちはどういう機体が多い時に敵である僕ら開拓人類が少なくなってるか、それだけを分析してる。結果としてリミッターギリギリの機体数でなるべく質を上げようとして、ああいう行動に至ってるんだよ」

「なるほどね」

 高峯くんは頷く。

「それにしても不気味な光景ね。機械が殺し合うなんて……」

「確かに、人間が殺し合うのはよくあることだからね」

 皮肉っぽく笑うと高峯くんはウィンドウを開いた。

 本来、自分以外のプレイヤーのウィンドウは見えないが、私と高峯くんはフレンドなので、高峯くんが許可した範囲内で私も横から閲覧することができる。

「見てこの映像、これは先々週、これは先週」

 二つのアーカイブ映像が私のウィンドウに共有される。

「あいつら、毎週木曜日に仲間の選別を行ってるんだ」

「どうして木曜日なの?」

「さあ、それはただの結果論であり、経験則ってやつ」

 鼻につく言い方で得意げに語る高峯くんだったが、どこか憎めない表情だった。特に顔がかっこいいとかでは無いけれど、パグがよだれを垂らしている時のような憎めなさがそこにはある。

 そのとき、AI兵たちが急に騒がしくなった。リンチにあっていたうちの一体が、群れから逃げ出したのだ。

 その機体はジャンプ能力が高く、何度も飛び跳ねては数十メートル上の別の地下道へ逃げようとする。しかしさすがに期待の何倍もある高さのため届くことはない。ぐるぐると広間を回りながら、逃げ続ける。

「まずい」

「どうしたの?」

 高峯くんは慌ててウィンドウを開く。

「あいつ、こっちに来る」

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