魔王の巫女救出編(6 / 8)
まるで、首を絞めつけられているかのような苦しさが、俺を襲っていた。
呼吸ができない……いや、吸い込む空気がないのだ。
『テツトさんっ! 中へ!』
トプッ。
頭の中へと響くマヌゥの声とともに、足首が床に浸かる。
マヌゥの力によって沼と化した石の床……そこへと俺は沈み込んだ。
その手に、巫女の少女の腕を掴んで。
「──ぷはっ!」
床を抜けた先は、どこかの大広間の高い天井だった。
呼吸はできる。
大きく空気を吸い込みつつその大広間を見下ろせば、そこは確かに城と呼ぶにふさわしい豪華なシャンデリアや赤い絨毯などが敷かれていた。
そして当然のごとく、そんな要所には見張りの魔族たちもいるというものだ。
「クセ者っ!?」
「なぜ天井からっ!?」
いち早く俺と巫女の姿に気づいた二体の屈強な魔族たちが、その手に持つ武器を構えていた。
「仕方ないっ! コガネッ!」
『わかってるわ!』
黄金鎧の足から金色の火が噴いた。
俺の体は天井からの自由落下からさらに加速して、またたく間に魔族たちとの距離を詰める。
「悪いけど、おまえたちの相手をしてるヒマはないんだ」
俺は破滅剣ティルヴィングによって魔族二体をまたたく間に斬り裂いた。
すると、その直後。
「──逃がすとでも?」
天井が粉微塵に切り刻まれ、その上からあの青い男が再び姿を現した。
「魔界の安寧のため──尊い犠牲になれ」
「はぁっ!?」
魔界の安寧のため、だと?
まるで意味がわからなかったが、首を傾げているヒマもない。
その青い男が手を掲げた瞬間、再び俺の周りの空気が消え失せた。
……またか!
『テツトさん! また沼へと!』
マヌゥが俺の頭の中にそう呼びかけてくる。
だが……ダメだ。
いくら隣接する部屋へと逃げ続けても、きっとあの青い男は追ってくるだろう。
それに、俺たちはこの魔王城の構造に詳しくない。
いつかは袋小路に追い詰められてしまう。
ならば……覚悟を決めて、戦うしかない!
「──ッ!!!」
巫女の手を離し、そして俺が一人で飛ぶ。
青い男のもとへ。
その間合いを一瞬で詰める。
「ぷはっ!」
案の定、男の周りから空気は消えていない。
そりゃそうだろう。
息ができなければ、いくら魔族といえども生きてはいけないはずだから。
俺はティルヴィングを横なぎにして青い男の首を狙う。
が、しかし。
「無駄だ。その程度の一太刀、避けるにすら値しない」
俺の剣はその手前で違うものを斬る。
目撃したのは、ミルフィーユのように何層にも折り重なってできた青い壁。
「空気の層か……!」
「ご明察だが、コレで終わりだ」
青い男が腕を振るう。
するといなや、見えない刃が目前へと迫った。
それらは俺の額、俺の腕、俺の胴体、俺の足へと、それぞれ正確にその刃を通らせようとして──だが、そうはさせない。
──無限の試行。
俺は、俺の内面にある∞の世界へと意識を凝らす。
そして、体感時間を引き延ばした。
……風の刃の位置、数、速さ、把握完了。あとはどう対処するか、脳内での思考と試行の繰り返し。ひたすらにトライ&エラーを重ねる。
数百のシミュレーションの内から、完璧な解を導き出す。
「ッ!?」
目の前で、青い男が目を見開くのがわかった。
それは全ての見えない刃を、俺が一瞬で叩き落としたからだけではない。
その上で、反撃の準備まで済ませていたから。
「言葉を返すようで悪いけど、コレで終わりだ」
見えない刃を叩き落とすと同時、俺は壱の太刀でこの大広間へと暴風を起こし、それを破滅剣ティルヴィングへと宿らせていた。
そして、返す弐の太刀で呼び起こすのは大いなる一撃。
「粉々に砕け散れッ!!!」
それが魔王城の大広間の天井もろとも、青い男を包み込み、破壊の限りを尽くす。
「よし……!」
直撃だ。
これは魔国幹部モーフィーのチェスボード世界を砕き、そして最強の魔国幹部オロチをも屠った奥の手だ。
さすがに倒せたハズ。
俺は元の場所まで戻って、飛び交うガレキの破片から巫女の少女を守りつつ様子を見……。
──しかし。
「なるほど。
大災禍が吹き荒れたその場所で、青い男はなお、健在。
その身をすっぽりと囲うように青い空気をまとわせて、平然と高い位置で腕を組んでいた。
空中に立っていられるのは、その足元に空気の地面を作っているからだろう。
「敬意を表するよ。オレの名はウーノ。魔王教幹部の中では最高座──第一席を預かる者だ。それで人間、おまえの名は?」
「……テツト。冒険者だ」
「冒険者……ホウ。勇者ではないのか。魔王伝説に現れる人間といえば、忌々しき勇者と相場が決まっているものなのだが」
「魔王伝説?」
それを言うなら、勇者伝説なんじゃないのか?
なんて俺が考えていると、ウーノはフッと鼻を鳴らして、
「まあいい。テツト、おまえの名前は憶えておく……オレたち魔界の平和と安寧の犠牲になった、哀れで勇敢な人間の冒険者としてな」
そう言って、再びその腕を構えた。
どうやらまだ戦いは続くらしい。
だが、その前に。
どうにも解せないことがある。
「さっきからなんだよ、『魔界の平和』だとかなんとかって。まるで『自分たちが被害を受けている』みたいな物言いじゃねーか! 人間を襲いに魔王軍を動かしたのはおまえたちの方だろっ!?」
「……ああ。そうだな、その通りだ」
ウーノはその手を下ろすことなく、答える。
「仕掛けたのはこちら側だ。だが、今さら突き出した矛は収められない。民衆の<魔王復活>への熱はもはや、冷めることはないだろうから」
「はぁ?」
「こちらの世界を負のエネルギーで満たし切るまで、われわれは前進を止める気はない。ゆえに、その悲願達成の障害となる人間……ましてやこの
「魔王復活? 入り口……?」
「──こ、ここには、魔界への入り口が開いているの」
俺の後ろから、儚げな声が響く。
巫女の少女が、その肩を小刻みに震わせながら言葉を紡いでいた。
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