52話


「てかサツキ。如月詩織って人、掲示板でもほとんど話題になってなかったからよく知らないんだけど、どういう人なのかわかる?」


「それが……『虫食いの図書館』ダンジョンの受付嬢で、お嬢様口調であることくらいしか知らない。今まで目立たない存在だったことは確かだ」


「ってことは……大人しいけど欲望だけは物凄くて、激レアスキルを獲得して暴走してるって感じなのかな?」


「……おそらく」


 一番考えたくない事態だ。どんなことをしでかすのかまったく想像がつかないけど、それがとても良くないってことだけはわかる。


「どうすれば……って、そうだ。がある!」


「あの手?」


「リサに吸わせればいいんだ。如月詩織の【ノンフィクション】スキルを!」


「な、なるほど、その手があったか! さすがカケル。よーし待ってろ。私がギルドへ【瞬間移動】し、気絶させてここに運んでくる!」


「頼んだよ!」


「わかった……って、あれ?」


「サツキ?」


 なんだ? サツキが全然飛ばない。


「おかしい。スキルが使えない……」


「え? 何かの間違いじゃ?」


「それが、本当なんだ」


「ってことは、まさか……」


「そのまさかかもしれない」


 僕たちは神妙な顔でうなずき合うと、掲示板を覗いてみることに。



【底辺専用】第17支部のダンジョンについて語るスレpart1441【荒らし厳禁】


 132:プリンセス◆pRInCEsS93o


 本日、あたくしが叶えたことですわ。


 1.エロ男爵逮捕。

 2.あたくしを除いて全員スキルを使えない。

 3.襲撃、解雇、窃盗等、誰もあたくしを害することはできない。


 134:名無しのハンター


 うげ、マジだ。マジでスキルが使えねえ・・・


 136:名無しのハンター


 ガチでスキルが使えん。。。詰んだわ、これ。。。


 137:名無しのハンター


 >>132

 お姫様、お願いします。私だけでいいのでスキルを使わせてください><;


 139:名無しのハンター


 >>137

 おい、抜け駆けは狡いぞ!?

 >>132

 自分、前から貴女のことを尊敬してたので、どうかスキルを使わせてください、お願いです!!


 142:プリンセス◆pRInCEsS93o


 オーッホッホッホ!!!!!

 醜い争いですわねえ。なんとも滑稽ですこと。

 その調子で愉快に踊っていてくださいまし。

 あたくし、日付が変わるまでハンターどもの絶望配信でも見学してきますわ。

 

「…………」


 うわあ、如月詩織がコテハンになってると思ったら、もうダメだ。しっかり対策されちゃってる……。しかも、【襲撃、解雇、窃盗等、誰もあたくしを害することはできない】の一文はかなり幅があるし賢いと感じた。


 それはなんでかっていうと、襲撃することはもちろん、【ノンフィクション】スキルをリサに《吸収》させることも窃盗と同じだからできないんだ。


 ただ、それだと一つの文章で複数の願望を叶えてるわけで、ほかのも併せたら三つ以上になるからおかしいって思ったけど……そういえば、エロ男爵にも謝らせた上で罪を自白させ、逮捕されるように仕向けてたんだっけ。


 ってことは、一つの文章内に色んな願望を入れ込んだとして、それが軽いものであればまとめて一回としてカウントされる仕組みなのかもしれない。


 こうなると全てのスキルを封じられてるようなもんだし、もうどうしようもない。完全に詰んだ。ハハッ……。


「このままだと、如月詩織の思うツボになっちゃうね……」


「だな……」


 僕の住むボロアパートで、久々といっていいくらい重い空気が流れる。みんなで和やかに夕食を囲んでいたときは、まさかこうなるなんて想像もしなかった。


 これから一体どうすればいいのやら……。どんなに考えても正解がわからないまま、時間だけが刻一刻と過ぎていく。


 僕が『虚無の館』ダンジョンに引きこもり始めて大分経った頃、ふと空しくなって実家に帰ろうかなって思って荷物をまとめていたときと同レベルだ。


 結局、その翌日も頑張ってダンジョンへ行ったんだけどね。もうその時点で習慣化してたし、そのほうが楽だったっていうのもあるけど。


 そんで、めでたくアルティメットレアの【開眼】スキルをゲットしたんだ。諦めなくて本当によかった。


 ちなみに、リサたちは開拓された異次元の中で遊んでる様子で、時折空いた扉の向こうからキャッキャと楽しそうな笑い声が聞こえてきた。一人だけ取り残されてたオグも、《自然の恵み》をサツキに酷使させられて痩せた影響で、ギリギリだけど中へ入れるようになったんだ。


「――なあ、カケル。お前はノースキルなんだろう?」


「え……? そ、そうだけど?」


「例の、【得体の知れない力】でどうにかできないのか?」


「得体の知れない力……」


 そういや、サツキは僕の能力についてそういう風に解釈してたんだっけ。でも、スキルが使えないことにはどうしようも……って、待てよ?


 そうだ。僕のスキルをリサに吸わせればいいんじゃ? 特殊能力はスキルとは違うし封じられてないわけだから。一つだけしか無理だけど、上書きさせるか吐き出させれば元に戻るし、今使いたいスキルがあるなら、それを吸わせるだけでいい。


【セーブ&ロード】をリサに吸わせて時間を元に戻す、なんてことも思いついたけど、使用者のセーブした時点に戻れるスキルだから、リサが使っても意味がない。ただ、これからは彼女が使えるようになるし、それだけでも大きい。


「うん、その得体の知れない力でなんとかなりそうだよ、サツキ!」


「お、おおぉっ! さすがカケル!」


 サツキが感激した様子で抱き付いてきた。こうして間近で見るとユメさんの双子なだけあって、本当に可愛いんだよなあ……って、何か視線を感じると思ってたら、リサたちがいつの間にか戻ってきてて、僕たちをじっと見つめてた。


「じろじろっ」


「きゃうきゃう!(仲良しだ~!)」


「なんぢゃなんぢゃ?」


「ブヒイィイッ!(親分、羨ましいぜっ!)」


「こ、こらこら、僕たちは見世物じゃないから!」


「そ、そうだ! 子供はそろそろ寝る時間だぞ!?」


「「「「うー……」」」」


 僕たちが注意すると、みんな少し不満そうだったものの、すぐに何事もなかったように扉の向こうへと帰っていった。やっぱりみんなモンスターだし、ダンジョンと同じ構造の異次元が楽しいんだろうなあ。


「そ、それじゃ、サツキ……もう夜も遅いし、久々に一緒に寝よっか?」


「……そ、そうだな。ちょっとだけなら、お触りもしてもいいぞ……?」


「え、今なんて言った?」


「き、聞こえてるくせに、意地悪っ……!」


「ははっ……」


 まあ昔から急がば回れっていうし、急ぎすぎると逆に警戒される恐れもあるしね。もうすぐ12時だから日付が変わってまた願望を三つ叶えられるようになるし、相手も僕のような勢いのあるハンターの配信には目を光らせるはず。なので、何かやるにしても明日から行動に移したほうがよさそうだ。

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