43話
「僕の正体を知りたいって? そんなのどうでもいいだろ。さあ、ドラゴン、かかってこい!」
『グオオォォッ?(お前、何者かは知らんが、まさかドラゴンに勝てると思っているのか?)』
「ん? もちろん勝てると思ってるさ! 戦ってやるからとっとと来いよ。それとも、僕のことが怖いっていうのか……!?」
『グアァァァッ(くだらん。我は童の遊戯に付き合ってる暇などないのぢゃ)』
「あ、ちょっと……!?」
また電話が切れちゃった。おっかしいなあ……。一体、何がいけなかったんだろう? やっぱりドラゴンっていうくらいだし、プライドも高そうだから一筋縄じゃいかないみたいだね。普通に挑発なんかしたってまともに相手にされないのかも。
よーし、それなら罵倒の方向性を変えてみようってことで、僕は電話をかける前の時点にロードして再スタートすることにした。
『――グォォッ?(我に呼び掛けるのは誰ぢゃ?)』
「お前こそ誰なんだよ?」
『ガアアァァァッ!(我こそはドラゴンだ。さあ、正体を名乗るがいい!』
「ドラゴン……? ププッ……」
『グオオオッ?(何がおかしいのぢゃ?)』
「ご、ごめん。笑うつもりなんかなかったけど、つい。だって正直、ドラゴンなんて僕にとっては余裕だからね。ちょっと大きなトカゲみたいなもんだから」
こうして、まるで当たり前のように冷静に言ったほうが、相手の怒りは増すと思うんだ。
もう遥か昔のことのように感じるけど、掲示板じゃ僕がいつも《ひきこうもりハンター》で雑魚の代名詞みたいな言い方を普通にされてて、滅茶苦茶むかついてたからそれをヒントにさせてもらった。
『グウウゥッ……?(わ、我が、ちょっと大きなトカゲぢゃと……?)』
お、なんか声のトーンがいつもと違う。明らかにイラついちゃってるね、これは。もう一押しだ。具体的にトカゲのサイズをイメージさせて侮辱することでもっとむかつくはず。
「うん。アレだよ。僕からしてみたらドラゴンなんて、ワニ以下のサバンナモニターみたいなもんだね。なんか余裕すぎて萎えてきちゃった。戦う前からこっちが勝つのはわかりきってるし、もうそろそろ切ろうかな」
『グオオォォォォッ……!(待つのぢゃ。その台詞、決して後悔せぬようにな……!)』
おおっ。ドラゴンの怒号が耳元に響くとともに、電話ボックスが跡形もなく消失したかと思うと、まもなく僕たちは黒い影にすっぽりと覆われるのがわかった。え、これって……。
『ガアアアアァッ……』
「……う、うあぁ……」
探知効果もある【開眼】スキルのおかげで、僕はすぐにそれが超大型のドラゴンだと認識することができた。
あれは《巨大化》したフェンリルよりも遥かにでかいし、隣にあるビッグサイズの百貨店が小さく見えるレベルなんだけど……? って、今のうちにセーブしておかなきゃ!
「わぁ、ドラゴンだぁ♪」
「きゃんきゃんっ!」
「…………」
リサとミリルは全然動揺してないどころか、楽しんでるようにすら見えるし化け物だ……って、そういやどっちも元モンスターだったか。あ、珍しくコメントが来たと思ったらいつもの匿名さんだった。
『わわわ……またカケルさんの動画を見に来ましたが……もう私、とっくに夢の中にいるみたいですね』
「ははっ、そうみたいだね……」
いつもの匿名さんも僕の配信が夢だと確信してるみたいだ。そりゃ、この『炎の電話ボックス』ダンジョンにはドラゴンなんているはずがないのにいるんだからね。僕でさえ、市街地でドラゴンと戦うっていう、なんとも非現実すぎる状況下で呆然としちゃってるんだし。
とにかく、戦う前にまずはやつのステータスをチェックだ。
名前:クリスタルドラゴン(ユニークモンスター)
モンスターランク:S
特殊能力:(3)
《反射》《擬態》《クリスタルブレス》
うはっ……やっぱりユニークモンスターで、しかもモンスターランクはSだった。正真正銘のドラゴンということもあって正直足が震えたけど、怖がってばかりもいられないので続けざまに特殊能力をチェックだ。
《反射》は攻撃系スキルを100%、普通の攻撃もダメージの50%を反射するとかで、初っ端からとんでもない効果だ。《擬態》はあらゆるものを真似ることで自分を隠したり変化させたりできるんだとか。
最後の《クリスタルブレス》は、対象を即座に結晶化(生き物なら即死)させる息を吐く効果とのこと。さすがドラゴンなだけあってどれも凶悪な特殊能力ばかりだった。
『グオオオオォォッ……!』
って、あれ? ドラゴンが興奮してるのは伝わってくるけど、何言ってるのかさっぱりわからない……って思ったら、そうか。今は電話ボックスを通じて会話してないからだね。
ん、落ち着いてきたこともあってイベントボードをじっくり確認したら、コメントじゃないメッセージも流れてきてるのがわかった。
『現在、このダンジョンではSRスキルが獲得可能です。獲得方法は、自分の言葉ではなく行動によってモンスターの怒りを鎮めることです』
自身の行動によってドラゴンの怒りを鎮める? どうやればいいんだろう……って! ドラゴンがいつの間にか口を大きく開けて、中がキラキラ光り始めてるのがわかった。どうやら特殊能力の《クリスタルブレス》をやるつもりらしい。避けようと思えば避けられるけど、どうせなら食らってみようかな?
『――ガアアアアァッ……』
あ……なんとも生暖かい息が吐き出されて体が動かなくなったと思ったら、もう死に戻りしちゃったみたいだね。
さあて、仕切り直しだ。とはいえ、まだ倒すつもりはない。その前に、激怒してるドラゴンをなんらかの行動によって宥めてスーパーレアスキルを獲得しないと。
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