36話


「――んー、これにするかな……どう? リサとミリルも頼む?」


「ほぇ? うん!」


「きゃうっ!」


 メニューを見せてやると、リサとミリル(また人型に戻った)が目をキラッと光らせて即座にうなずいてきた。


 そりゃそうか。普通のコーヒーにしようかとも思ったものの、それだと僕だけが楽しむことになっちゃうので、『心も体も超リフレッシュ! 特選トロピカルココナッツジュース!』っていうのを注文することにしたんだ。


 ノーマルコーヒーと同じく、ランクが関係ない非戦闘用のメニューっていうこともあるのか割高の600円×3人分だけど、まあいっか。


 まもなく、美味しそうな青色のジュースが僕たちの目の前にフッと出現した。見た目がもう美味しそうで小さな海を思わせるから、飲むのがもったいないとさえ思ってしまう。


「ズズッ……おっ、おいちいいぃっ!」


「ジュジュッ……きゃうぅっ!」


 ストローで飲んだリサとミリルがなんとも恍惚そうな表情になってるし、頼んで正解だったね。しかもその際、スパチャ【カケル、幼女最高と言え!】という赤文字の台詞とともに1万円も飛んできた。すごっ……。


「……よ、幼女最高!」


『《幼女マスター》マタキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』


「ははっ……」


 ちょっと抵抗を感じつつも、なんとか言えた。またロリコン扱いされそうで複雑だけど、まあこれくらいはね。1万円も貰ったんだし……。


 それにしても、このメニューに関しては闇鍋みたいな時間制限もないってことで、ゆっくり味わってみたら……なんていうか、異次元のジュースだった。


 飲んだ瞬間に逆に海の中に吸い込まれる感じがして、あたかも南国のビーチでじっくり肌を焼いて喉がカラカラに渇いたあとに飲む炭酸水のような爽快さと、選りすぐりの極上のココナッツの味がマッチして、まさに極楽にいるかのような気分になっちゃった。


 多分、味が上昇するっていう【料理】スキルの影響もあるんだろうけど病みつきになりそう。


 というか、なんかとても大事なことを忘れちゃってる気が……って、そうだ! これからテロが起こるから、怪しいやつを監視する必要があるんだった……ってことで、僕はココナッツジュースを味わいつつも周囲を【開眼】スキルで見渡すことに。これさえあればキョロキョロしなくても周辺の様子がわかるから便利すぎる。


 ん? 今向こうのほうでなんか動いたような……。僕はその方向を注意深く見やることに。いくら【開眼】スキルが万能といっても、完璧ってわけじゃない。【同化】スキルを持ってた誘拐犯がそうだったように、隠れる効果のスキルを使ってるハンターが相手だと、意識してよく見ないとわからないようになってるみたいだから。


 ――やっぱり何かいる! 黒い人影だ。【開眼】ではっきり見えないってことはやっぱりそういう隠蔽スキルを持ってるのかもしれないけど、一応スキルボードを調べてみる。


 名前:不明

 ハンターランク:不明

 所持スキル:(2)

【不明】【不明】

 称号:不明


 ……やっぱりそうか。名前から称号まで、不明ばっかり並んでてなんとも不気味だ。それでも、人影を捉えることはできてるってことで、僕はリサとミリルに小声で『ここで少し待って、1分くらい経ってからこっそり追いかけてきて』と伝えると、一応セーブしてから仕切りに身を隠すようにしてあとを追うことにした。


『カケル、何してんだ?』


『修羅場回避か!?』


『何せ、幼女二人とのダブルデートだもんなwほかにも幼女いるんだろ?w』


「いあいあ。かくれんぼしてるだけだよ」


 言い訳としてはこれで完璧なはず。こっそりついてきてと言ったからリサは宙に浮けないものの、ミリルは鼻が利くのでちゃんと僕がいるところまで誘導してくれるはずだ。


 座った姿勢で密かに追いかけるといっても、【神速】スキルがあるのでスイスイ進めるし、僕は怪しい人影にすぐ追いつこうとしていた。


 お、いきなり止まったってことで僕も近くで様子を見ると、人影の視線の先に仮面をつけた人物が座ってるのがわかった。あの人が、掲示板で自爆テロをやったんじゃないかって書き込まれてた噂のハンターか。上半分だけを覆った不気味な髑髏の仮面が特徴的だ。


 仮面の人はコーヒーを飲みつつ、メニューを眺めて何を注文しようかと考えている様子。人影はおそらく仮面の人が注文するタイミングをここで待っているのだと思われる。


 そうだ。多分犯人じゃないとは思うけど、あの仮面の人のスキルボードについても一応【開眼】スキルで調べてみよう。


 名前:秋野楓あきのかえで

 ハンターランク:A

 所持スキル:(3)

 SSRスキル:【死神】

 SRスキル:【料理】

 Rスキル:【体力向上・小】

 称号:《死神ちゃん》


「……えぇ……」


 ま、まさか、受付嬢のカエデちゃんがハンターだったなんて……。同姓同名かもと思ったけど、称号まで一致しちゃってるし、本人なのはもう間違いない。


 アオイさんの場合は元ハンターだけど、こっちは現役だから正真正銘の二刀流だ。確かこの『死霊のレストラン』の常連って話だったし、多分こっそりギルドを抜け出してここに来ることも多かったんだろうね。だからあのときいなかったのか。既にその時点でテロに巻き込まれて亡くなってた可能性が高い。


 ついでに、【死神】スキルってどういう効果なのかと思って調べてみる。


『対象が一秒ごとに4%の確率で、心臓発作、事故等、なんらかの原因によって死亡する。使用するには半径1メートル以内で対象の顔を直接見る必要があり、効果は180秒間続き、一定時間使えなくなる。なお、対象が死亡するか気絶するかはスキルの使用者が決めるものとする』


 うわっ……さすがダブルスーパーレアスキルっていうだけあって、僕の想像してたものよりずっとえぐい効果だった。


 4%って低いように見えて、結構引き当てそうなんて思ったけど、よく考えるとこれって攻撃系アクティブスキルなんだよね。しかも【料理】スキルで効果が倍になってるはずだから、半径2メートル以内、8%の確率で360秒続くのか。そりゃAランクハンターになれるわけだ……。

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