21話
『うししっ……』
「…………」
顔を歪めていかにも邪悪そうに笑ってるのに、悪魔の姿をした幼女なもんだから、全然悪そうに見えない。
むしろ、心の底から可愛い、とさえ感じるモンスターが出現してしまった……。っていうか、なんか見覚えがあると思ったら夢の中に出てきたやつだ。あれはボスを予言するものだったのかと、僕はセーブしたあと【開眼】を使用してみる。
名前:リトルサキュバス(小ボス)
モンスターランク:C
特殊能力(1)
《吸収》
「うあ……」
やっぱりボスじゃないか。コウモリたちの親分がまさか、似たような黒い羽を生やしてるとはいえ、サキュバスだったなんて……。しかもこれ、視聴者にバッチリ見られちゃってるよね。【フェイク】じゃごまかせない。
『幼女キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!?』
『いや、待て。カケル、ダンジョンに幼女連れてきたのかよ!?』
『しかも悪魔の姿に仮装させてるし、露出しすぎてエロスwww』
『あらあら、可愛いですね』
「……ははっ……」
ボスなのに全然ボスだと思われてないという奇跡。まあここが退屈なほのぼのダンジョンの『虚無の館』だってのも影響しちゃってるんだろう。
っていうか、この幼女……いや、小ボスなんだけど、全然襲ってくる気配がない。むしろ、挑発的にウィンクしたり手招きしたりして、しきりに僕を誘ってる感じだった。さすが、『虚無の館』のボスなだけあって平穏だ。
特殊能力の《吸収》は、抱き付いた相手のスキル、生命、若さ、体力、お金、アイテムをランダムで吸い取って自分のものにできるんだとか。こわっ! そこはやっぱり腐ってもボスなんだね。
それでも、直近でセーブしてあるから大丈夫だ。
『現在、このダンジョンではSSRスキルが獲得できる状態です』
お、イベントボードにそんなメッセージが流れてきた。小ボスが登場したとで、ダークウルフのときみたいにスキル獲得の条件が整ったみたいだ。
『ボスモンスター、リトルサキュバスの《吸収》によって三種類のものを吸われたあと、ボスの頭を三回撫でれば習得できます』
「うあ……」
思わず声が出てしまった。つまりそれって、もしその三つの中にスキル――【セーブ&ロード】があった場合、ロードできなくなるってことだよね。その時点で下手したら詰んでしまうんじゃ……?
『おいで』
「え?」
モンスターが喋った! 悪魔だけど幼女の姿だからか?
『こっちにおいで、坊や。うししっ』
「……ははっ……」
まあ、姿は幼女だけど、悪魔からしたら僕なんて坊やなのか……っていうか、どうしよう?
SSRスキルを獲得するために、LRスキルやURスキルを失うことになれば馬鹿らしい。
それでも、この子を倒せばスキルボックスとして元に戻る可能性はあるし、スキルの中でも【セーブ&ロード】さえ吸われなきゃ大丈夫だってことで、僕は恐る恐る彼女のほうへ近づくと、待ってましたとばかりぎゅっと抱き付かれた。
『坊や、いい子いい子♪』
そのとき、『カケルってロリコンなのか』等、不穏なコメントが幾つか流れてきたけど、それどころじゃないので気にしない。なんせ《吸収》で【セーブ&ロード】を奪われると思うと気が気じゃなかったんだ。
『坊や、あたしに何か吸わせなさい。がぶっ』
「うっ……?」
ボスの体が怪しく光るとともに腕に噛みついてきたけど、不思議と痛くない。ただ、どっと疲れたので体力をかなり吸われたっぽい。だる……。でも、これくらいならまだ平気かな。
『ぷはっ。元気いっぱい! もういっちょ』
「…………」
また何か吸われたみたいだけど、今のところスキルボードにはなんの変化もない。あ……マネーボードがすっからかんになってると思ったら、ボスの手元に現金があった。あちゃ~……。でもこれならあとで取り返せるから問題ないか。
『お金いっぱい! あと、もういっちょ! ちゅうちゅう……ふぅ』
どうやら三回吸い終わったところで打ち止めらしい。これがボスの攻撃パターンっぽいな。自分の手がシワシワになってないところやアイテムボードを見れば、取られたのは明らかにスキルだってことで、僕は自分のスキルボードを確認した。
名前:時田翔
ハンターランク:F★★★
所持スキル:(4)
LRスキル【セーブ&ロード】
URスキル【開眼】
SSRスキル【神速】
SRスキル【フェイク】
称号:《ポリスマン》
「…………」
よしよし。【セーブ&ロード】があったのでホッとしたけど、一つ減ってるし何を吸われたんだろうってことで【開眼】でボスを調べる。
名前:リトルサキュバス(小ボス)
モンスターランク:B
特殊能力(2)
《吸収》《殲滅》
「あっ……!」
URスキルの【殲滅】がちゃっかりボスの特殊能力として移動しちゃってる。そのせいかモンスターランクがCからBまでランクアップしていた。まあ範囲系の瞬殺スキルだしね……。
さて、あとはボスの頭を三回撫でるだけだと思って近づくと、明らかに警戒されてしまった。あれ、こっちの欲望を勘付かれた? もしかすると角が弱点で、頭を触られるのは怖いのかも。
『や、やだ。角はだめぇ……』
「大丈夫。角には触らないから」
『ほんとぉ?』
僕は一応セーブしてから笑顔でそっと近づくと、角には触らないように慎重に頭を三回撫でた。下手すりゃ《殲滅》で即死だから。
お、その瞬間にスキルボックスが落ちた! そういうわけで早速開封する。
『SSRスキル【魔物使い】を獲得しました』
「おおおおぉっ」
遂に念願のジョブ系スキルを手に入れたぞ! 効果も調べてみよう。
『対象のモンスターの体力をギリギリまで減らし、魔石を1個与えることで100分の1の確率で従魔にできるようになります』
ふむふむ、普通はボス相手にテイムするなんて難しいけど、【セーブ&ロード】があるならいけるいける。
『ほわぁ……?』
悪魔の幼女は不思議そうに僕を見上げていた。可愛いなあ。三回吸い終わると大人しくなるっぽい。そうだ。どうせならこの子をテイムできないかな?
ただ、倒さないように少しずつ痛めつけるにしても、その間に《殲滅》を使われるのは目に見えてるし、どうしようか……って、そうだ。
『――ふ、ふわわっ……』
リトルサキュバスが口をあんぐりと開けて感動してる。というのも、僕がその周りを全力で回り始めたからだ。【神速】スキルもあるし、ボスの目には分身の術のように僕が周りに何人もいるように見えてるはず。
その隙に、バレないように少しずつ殴って体力を削る作戦だ。
『はうっ?』
僕の攻撃が速すぎて見えないのか、幼女はたまに不思議そうな顔をする程度だった。そのうち塵も積もれば山となるで、くたくたになった様子で座り込んだ。
そろそろいけそうだなってことでセーブして、100分の1ガチャにチャレンジすることに。
『――テイムに成功し、リトルサキュバスが仲間になりました』
「よしきたあっ! ひゃっほう!」
「ふえっ……?」
30回目くらいの挑戦で成功して喜ぶ僕に向かって、スキルボックス【殲滅】を落とした使い魔の幼女は、少しだけびっくりしたような顔になった。
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