第35話 見える二度目
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学校の授業が終わり、皆帰りの支度や部活の準備に追われている中私は兄からのメッセージを見て固まっていた。
『翔真が倒れて夏祭り会場近くの病院に運ばれた。303号室。ただの熱中症でだけど、一応明日の朝まで病院で様子を見るらしい。』
その内容を見た時、私はあの時のことが思い出された。
―――――あれはまだ私が中学三年生の夏の頃。
私は行きたい高校などないが、受験生と言うこともあり、夜遅くまで親に言われるがまま塾に通い勉強をしたその帰り道。
夜の静かな街路、孤独な足音が寂寞を切り裂いて響く。月の光が薄暗い道を照らし、影がひとつふたつと伸びている。心地よい風が微かに通り過ぎ、その中に漂うのは深い静寂と緊張感だった。
私は鞄をしっかりと抱え、歩幅を速めていたが、どこかで視線を感じる。
振り返るが、何もない。
けれど、彼女の背筋には何かが触れたような感覚が残った。
途中、私は自分の足音だけが響く寂しさに耳を澄ませていた。
すると、後ろから近づく足音が聞こえてきた。
私は速足になり、不安を振り払おうとしたが、後ろからの足音も徐々に加速していく。
私は背後に気配を感じ、恐る恐る振り返った。
そこには見知らぬ男が立っていた。
彼の瞳は暗闇の中で光るように見え、どこか妙な興奮がそこに宿っているようだった。
「こんばんは、美しい夜ですね。」
その声はどこか上品で、しかし同時に不気味な調子が感じられる雰囲気で男は微笑みながら声をかけてきた。
私は緊張の中で微笑み返し、少しでもこの場を離れようと思った。
しかし、男は歩み寄ってきて、私の前に立ちはだかった。
「ずっと君を見ていたんだ。君はとても特別な存在だ。僕についてきてくれませんか?」
男性は穏やかな口調で言ったが、私の心臓が高鳴り、全身の血が凍りつくような感覚が広がった。何もかもが異様な空気に包まれ、私は必死に自分を守ろうとした。
しかし、どこかで声を失っていた。
「どうか、僕についてきて。君のことをもっと知りたいんだ。」
男は近づき左手で私の髪を指で撫でるように触れてきた。
左手に目を向けると、そこにはキラリと街頭に照らされたナイフが見えた。
その瞬間、彼女は自分の足元に力が入らなくなった。
怯えと無力感が彼女を襲い、逃げ出すこともできない状況に立たされた。
深夜の静けさが、私とストーカーの間に張り詰めた緊張感を増幅させているようだった。その一瞬一瞬が永遠に思え、どうすればいいのか、どこに助けを求めればいいのか、絶望的な思考が頭を巡った。
その時。
「何やってんの?警察呼ぶか?」
街路の向こうからそう言い放ったひとつの影は、あたかも闇を切り裂く光のように輝いていた。
その声にストーカーの男はチッと舌打ちすると、そのまま救世主の影の方に全力で走って行き一度ぶつかった後、どこかに逃げて行ってしまった。
私は動かないその影の方に向かって歩くと、どうやら格好的に兄と同じ制服のため高校生らしい。
「本当に助かりました。あなたがいなかったら、私…。」
「……いや、君が無事で何よりだ。…今は怖いだろうから家まで送るよ。」
少し息が荒いのが気になったが、彼のその言葉に、私はほっと胸をなでおろした。
それから道中、ささやかな会話を交わしながら私の家まで帰った。
名前は角田翔真と言うらしい。
「着きました。」
「…ここって。はぁ、はぁ。大樹の家か?はぁ、はぁ。」
「兄の事、知ってるんですね。」
「ちょっと、はぁ、呼んできて、はぁ、貰えるか?」
最初の時よりも息の粗さがひどくなっているが、何度聞いても大丈夫と言うので私は言われた通り家の中にいる兄を呼びに行く。
「お兄~ちゃん。ちょっと来て~。」
「なんだよ。」
「角田さんって人が、私をストーカーから助けてくれて、なんかお兄ちゃんと知り合いなんでしょ?呼んでくれって言われた。」
「角田って、翔真か?」
「うん。」
そんな30秒も掛からない会話を交わして、兄が外に出て行った数十秒後あと、私の想像とは違う、兄の叫びが聞こえて来た。
「翔真、おい翔真!」
「お兄ちゃんどうしたの?」
「麻衣、救急車呼べ。右横腹から大量に血だ。」
「え?」
「早く!」
それから、救急車を呼び角田さんはすぐに運ばれて行った。
詳しく話を聞くと、ストーカー男が逃げてぶつかった際にナイフを刺してきたらしい。
でも、さっきのさっきまで怖い思いをしたであろう私にこれ以上心配させないべく我慢していたそうだ。
そう聞いた時私は、この人について行きたい。この人に恩返しをしなければそう思った。
こんな思いは初めてで、私はこれを恋だと感じた。
「――――――ちゃん、麻衣ちゃん。帰ろうよ。」
友達にそう声を掛けられ、我に返ると断りを入れてすぐに翔真先輩がいる病院に向かった。
ノックして病室に入ると、そこにはベッドに横になりすやすやと眠っている翔真先輩の姿があった。その顔を見るとなんだか込み上げてくるものがあった。
「先輩…。」
私は小さな声で翔真の名前を呼びかけた。
私の心は、翔真の安否を気遣う気持ちと同時に、兄に伝えたい思いが詰まっていた。
翔真は熟睡しているようで、その眠りには安らぎが宿っているように見えた。私は一旦深呼吸をして、自分の思いに勇気を持ちながら再び口を開いた。
「翔真先輩、私…。」
私の声は小さく震えていたが、翔真の耳に届くことを信じて続けた。
「私、実はずっと前から…。」
私の胸の奥で鼓動が激しく高まり、言葉を続ける勇気を振り絞っていた。私は翔真の手をそっと握りしめ、その温かさに支えられながら、思い切って告白の続きを口にした。
「ずっと前から…先輩のことが、ずっと好きなんです。いつも優しくて強くて、私にとっては一番頼りになる存在だから…。」
言葉が途切れることなく、私は自分の気持ちを吐露していった。私の声は静かだが、その中には確かな想いが込められていて、自分の気持ちを翔真に届けるために、心の底から語りかけていた。
「私ってずるいですね。いつも先輩が寝ているときにこんな事言って。でも、これだけ許してください。」
私はそう呟くと、寝ている翔真の顔に自分の顔を近づけ、翔真の唇にそっとキスをした。
その瞬間、病室の静寂を破るように、兄の寝息が少しだけ乱れた気がした。
それから、私は恥ずかしさでいたたまれなくなり1つ置手紙を置いて病室を後にした。
★★★★★
この度は
「LOVE GLASSES ~俺への好感度が0の彼女と別れたら、学校のマドンナ達が言い寄って来た。~」
を読んでいただきありがとうございます!!!!
皆様のおかげで好評のまま35話まで書くことが出来ました。
続きが読みたい!など思った方はぜひ、★やコメント、♥などを
今後こうなって欲しい、どの子がかわいいなどコメントを残してくれると嬉しいです。
みっちゃんでした( ´艸`)
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