第33話 見える過去
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「そう!
「お姉ちゃんのお陰だよ。」
「そんなことないよ。凄いのは私じゃなくて、大翔君だよ。キリが良いし、一回休憩しよっか。」
あの日、翔真が公園で大翔君を助けたところに居合わせた次の日。
私は何気なく公園に向かうと、大翔君が一人でバスケの練習をしているのを見つけて、声を掛けてからこうやって一緒にバスケをする仲になった。
私は近くの自動販売機で、飲み物を2本買い、ベンチに腰かけていた大翔君に1本渡して、隣に腰かけるとたわいもない話をしばらくした。
「お姉ちゃんはさ、どうしてバスケを始めたの?」
そして、大翔君が何気なくそんな質問を問いかけてきた。
「大翔君は、この前ここで一緒にバスケをした翔真って眼鏡のお兄さん覚えてる?」
「うん、覚えてるよ。すっごく上手だったから、僕もあの人みたいになりたいと思ってここで練習を始めたんだ。」
「そっか。お姉さんもね、バスケを始めた理由はあのお兄さんなんだ。」
―――あれは、中学二年生の頃。
私はたまたま自分の中学校で行われていた、バスケットボールの試合を観戦しに来ていた。
その日は県大会決勝。
残り時間も少なくなってきて、点差は十点以上開いていた。
そんな中、負けているチームの一人の男の最後まで諦めずに戦い抜く姿に感動し、そのプレーに心を奪われた。
彼はそれまでのチームメイトたちとの連携とは違い、並外れた個人プレーで点を積み上げていく。その姿はまさに魅力的で、試合が終わるまで彼のプレーに釘付けになっていた。
そして、ブザーの瞬間、彼の放ったシュートは綺麗な放物線を描いてゴールに吸い込まれていった。試合後の彼の笑顔はまるで星空に輝く一つの星のように美しく、私は彼に、彼のプレーに一目ぼれしてしまったのだ。
試合が終わり、帰宅する彼の姿が目に入り私は思わず声を掛けてしまった。
「優勝おめでとう!すごい試合だった!」
私の言葉に、彼はただ「うん。ありがとう。」とそっけなくだが、答えてくれた。
私もそれからバスケを始め、翌年の同じ大会を迎えた。
しかし、去年見た中学のチームの中に彼の姿は無かった。
名前も、連絡先もどこに住んでいるのかも分からず、会うことなく中学を卒業した。
時が流れ、高校の入学式の日。
あろうことかあのバスケの彼が同じ学校に通っていることを知った。
名前は角田翔真。
運命のような巡り合わせに、私は胸が高鳴るのを感じた。
しかしその後、聞いたことによれば、翔真はバスケットボールをやっていないと、そして、入学してすぐに彼女が出来たという事実が判明した。驚きと共に、私は心の中で複雑な感情を抱えることになった。
だから、彼女と別れたと知ったとき。
連絡先を交換し、一緒に過ごす仲になれたとき。
クラスマッチのバスケに出場すると聞いたとき。
バスケをしている姿を見たとき。
私がどれだけ嬉しかったか。
始めは一目惚れだったけど、一緒に過ごしていくうちに、私の気持ちはどんどん深まっていった。彼の笑顔や優しさにも心惹かれたんだ。
―――これが私がバスケを始めたキッカケと現状かな。
「お姉ちゃんはお兄さんのこと好きなんだね。」
「そうだね。大好き、だね。」
「そっか。」
少し長い沈黙が続いた。
「ごめん、長話しちゃったね。お母さん心配するからもう帰らないとね。」
「うん。お姉さんの気持ち、伝わるといいね。」
「伝えようとはしてるんだけどね。朴念仁だからな~。」
「ぼくねんじん?」
大翔君は私の言葉をオウム返ししてくる。
「鈍いってことかな。大翔君はそんな男になるんじゃないぞ。」
「分かった。バイバイ。」
「またね~。」
元気よく帰って行く大翔君を見送り、私も帰ろうと腰を上げたとき、横から「坂原さん?」と私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
そちらに目を向けるとそこには、眼鏡を掛けた
「松浦さん!?まさか、今の話……。」
「たまたま、聞こえちゃったっ。坂原さんがそこまで翔真のことを好きだったなんて知らなかったな~。」
「お願い。誰にも言わないで欲しい。特に翔真本人には。」
私は両手を合わせて彼女にそう頼んだ。
「大丈夫。誰にも言わないよ。ん~、その証拠として私の秘密も教えてあげる。」
「秘密?」
案外すんなり約束してくれた上に、自分の秘密も教えてくれようとする彼女は少し優しい人だなと思った。
そして、手招きする彼女の方に近づき、口元に耳を寄せた。
「私、今も翔真の事諦めてないんだ。」
「えっ。」
「誰にも言わないでよ。私たちライバルだね。」
そう言って彼女はすぐに、公園から出て行ってしまった。
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