第12話 嘲笑は復讐の味

 ワープした先に待っていたのは……巨大な扉。

 

 赤と緑を基調として、見るからに分厚い金属の素材でできた、まるで地獄への入口であるかのような、異様な威圧感のある扉だ。

 

 そして、扉の前に立つ、複数の人物。見覚えのある人物……。


「おやおや、エドワールさんじゃないか!」


 魔術師カエサルが、驚いた表情をこちらに向ける。彼だけではない。

 暗殺者セバスター、剣士ハンス、それから、聖女クレナまでもが、扉の前に立っている。

 

 なんと偶然、ダンジョン最奥地で、自分を理不尽に追放した攻略パーティーのメンバーと鉢合わせしたのだ。


「よくここまで一人で来れまちたねー。えらい、えらい」


 魔術師カエサルは、相変わらず人を小馬鹿にしたような口調で、そう言う。

 なんだかパーティーの男たちは、少しやせたように見える。

 色を失くした頬は落ちくぼんでおり、肌艶がない。

 もしや彼等は今、食料が底をつき、非常に弱っているのではないだろうか。ざまあみろ。

 

 そんな中でも、聖女クレナだけは肌艶をしっかりと保っており、格別の美を放っていた。


「エドワール、追放したことを覚えているな? 貴様はもう、赤の他人も同然だ。こちらに泣きつかれても、何もすることはない。分かっているな?」


 剣士ハンスが、パーティーの総意を代表するかのように、言い放った。


「もしかして、攻略パーティーに所属していたんですか?」


 エドワールの隣に立つ、美女エルネットが、不思議そうに尋ねる。


「ああ、過去の話だよ」


 エルネットは、瞳をキラキラさせながら、エドワールを見上げた。


「オイ、そこの美女は、どこの誰だ? 貴様とは、どのような関係なんだ」


 魔術師カエサルが、下半身をもぞもぞさせながら聞く。


「赤の他人に説明する義理はない」


 魔術師カエサルは、悔しそうに歯をギリギリ鳴らすと、ぷいっとそっぽを向いた。


「我々は、今からダンジョンのボスに挑むんだ。邪魔はしないでもらいたい」


 暗殺者セバスターが、ぐっとこちらを睨みつける。

 聖女クレナも、まるで虫けらを見るような目つきで、こちらを睨む。

 

 そんな表情すらも、エドワールにとっては、可愛く見えてしまった。


「奇遇だな。こちらも今から退魔の剣を貰いに行くところなんだ」


 次の瞬間、張りつめた風船がパチンと弾けるみたく、パーティーに大笑いが起こった。


「アハハハ! どこで知ったのかしらねえが、あんた一人で退魔の剣を取りに行くだって? 飯を喰うしか能がない、低レベル弱者エドワールちゃんが、一人で中級ダンジョンのボスに挑むだって? 片腹痛いわ! もう一回、自分のステータスを見直して来いよ。うわっはっは!!」


 ふたたび大爆笑。パーティーの奴らは皆、腹を抱えてエドワールを指さしながら、笑い転げている。


 ……誰も知らないのだ。固有スキル〈大食い〉に秘められた、恐ろしいほどの実力を。


「まあいい、勝手に犬死でもしてろ。くれぐれも、こちらの邪魔をしないように」


 笑い過ぎて目から吹き出た涙を拭きながら、剣士ハンスはそう言った。


 すると、魔術師カエサルが、固有スキル〈氷界針山〉を発動する。

 たちまち吹雪がふきあれ、巨大な扉がキンキンに冷えてゆく。

 

 ああ、ザコい。ザコ過ぎる。なんて生ぬるい魔法攻撃なんだ。

 こんな鉄製の扉、エドワールの力量があれば、木端微塵に粉砕できただろう。

 

 だがあえて、エドワールは黙っておくことにした。楽しみは、後に残しておくのである。

 

 扉が、轟音を立てて、ゆっくりと開き始めた。

 なるほど、一定のダメージを受ければ、自動で開く仕組みになっているのだ。

 

 攻略パーティーの面々は、剣士ハンスに続いて、扉の奥へ進んでいく。


「じゃあ、僕らも行こうか。さっさと退魔の剣を頂いて、お姉さんを探そう」


「……あの、本当に、大丈夫なんですか」


 エルネットは、心配そうにエドワールを見つめる。


「ステータスオープン」


 エドワールは、自信満々に唱えた。エルネットの肩に触れて、情報を共有してやる。


 エドワールの輝かしいステータスを見て、エルネットは感嘆ともつかぬため息を吐いた。

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