第23話 女神様、ひとりでお留守番①
「どうして! どうして! 行ってしまわれたのですか!」
女神は6畳1Kの小さなアパートで、この世の終わりかのように項垂れていた。
「もう二度と……お会いできなかったら、私は。私はっ!」
そんなことはない。たった1週間で颯人は帰っている。
「私、おかしくなってしまいました。天界では1人が当たり前でしたのに」
◇
遡ることわずか1日。
「いってらっしゃいませ! 何十年、何百年でもお待ちしております」
「そんなにかかりませんよ。1週間で帰ってきます。セラフィーラさん、家のことよろしくお願いしますね」
「はい! 私にお任せください! 守護神として務めを果たします!」
「ゴールキーパーみたいですね。安心しました。その調子なら大丈夫そうですね」
「では!」
私は手を広げました。
「あっそうか」
大切な日課のハグを忘れてはいけません。
はやとさんの匂い。温もり。一生忘れないように刻みつけます。
もう少し。もう少しだけ……。
はやとさんが私から離れます。
「じゃあ、行ってきます」
はやとさんは旅立たれました。
このお家は私に託されました。私、はやとさんの分まで頑張ります!
私は、いつもより胸を張りました。
◇
午前中はお部屋をお掃除しました。
床と窓を拭きました。もちろん窓の溝と金具もお掃除しました。
次に換気扇と呼ばれる物を解剖し、仕組みを学びながら、汚れを落として戻しました。
午後はエリス様の魔法陣の調律と張り込みです。
今日は新しい道で向かいます。
何か新しい発見があるやもしれません。
発見です!
見たことない標識を見つけました。今度はやとさんにお聞きしましょう。
公園までもうすぐ、ということろで、甘〜い香りがしてきました。
どうやら、クレープという食べ物のようです。
「お嬢ちゃん、おひとついかが」
「では!」
はやとさんからお預かりしているお金を使いました。使って良い目安は伺っているので大丈夫です。
先日、不思議なジャングルのような素敵なお店でお買い物をして「買う前に相談してください」と注意を受けたばかりですから。
クリームたっぷりの苺クレープを買いました。おそらくこの赤い物が苺なのでしょう。
ベンチに腰掛け、頬張ります。
「まぁ! 甘酸っぱくて美味しいです! はやとさんもぜひ一口いかがで」
はっ。私としたことが! 今は1人なのでした。
はやとさんが戻られたらクレープの感動をお伝えしなくては!
次ははやとさんと食べたいです。
◇
公園に到着しエリス様と合流しました。
「そうか。水谷殿はしばらく留守か。セラフィーラ殿はマイペースだから心配だな。家事はできているのか?」
「はい! 一通り教わりました!」
「本当か? 食事は栄養バランスに気をつけろ。騎士団でも栄養不足は度々問題になった。侮ってはいけない。あと、最近は寒い。夜は暖かくして寝るんだぞ?っとすまない」
エリス様は心優しい方ですね。
「ご安心ください。こう見えて経験豊富なめがっ。サキュバスですから!」
「サキュバスの経験……。あまり聞こえは良くないな」
いけません。女神ということは秘密なのでした。
女神に食事は不要なので、栄養というのは良く分かりませんが。私を気遣ってくださることが嬉しいです。
それから魔法陣の調律をしたあとは、日没まで張り込みをしました。
残念ながら、今日も先日の魔法陣を破壊した犯人は現れませんでした。
「もう上がっていいぞ。あとは私が見る」
「いえ、まだいけます!」
「水谷殿から家を託されているんだろ? 帰るべきだ」
丸一日、家を空けていては守護神の名が廃ります。
「承知しました」
「いつもありがとう」
「いえ、こちらこそ」
帰り道で、ラーメンの屋台を見つけました。よくはやとさんと食べている屋台です。
新メニュー激辛ラーメンの看板が気になります!
せっかくですから今日は我慢して、はやとさんがお帰りになったらお願いしてみましょう。
◇
家に到着した私は、異常がないことを確認しました。クローゼットの中も、引き出しの中も誰も隠れていませんでした。安心です。
最後に2人分の布団を敷きました。
食事は不要ですが、先日の後遺症で睡眠は必要になってしまったのです。
布団に入り、目を閉じました。
カチカチと時計の音が鳴っています。
なぜでしょう。眠れません。
いつもより肌寒い気がします。耐寒スキルがあるというのに。
横を見ても、隣のお布団は空っぽです。
いつもどんなに帰りが遅くても、必ず眠る時は一緒でしたのに。
私は隣のお布団に入りました。少しでもはやとさんを近くに感じたくなってしまいました。
はやとさんのお布団に入ると、朝のハグを思い出します。
まるで、はやとさんに包まれているかのようです。
「はやとさん……」
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