第40話 理不尽
石田三成は秀吉の使いとして聚楽第に行き、秀次に伏見城への出頭要請をする。
秀次
「わざわざ奉行衆が来て出頭しろとは、いったいどう言う事だ…」
石田三成
「太閤様は、関白秀次様に逆心があるのではと心配しています…」
秀次
「なんだと‼…言い掛かりにも程がある、誰が太閤にそんな出鱈目を吹き込んだ!」
石田三成
「情報の出所は、聞いてませんが… 心当たりは無いと…」
秀次
「当たり前だぁー!!!」
いきり立つ秀次を落ち着かせようと三成は秀吉が謀叛を疑う経緯を話して、今直ぐ伏見城に行き秀吉に会い潔白を証明するべきだと諭す。
秀次
「…石田殿も知っての通り、今の太閤は昔と違う…」
石田三成
「…確かに変わりました」
秀次
「きつい性格になられた… 毛利輝元との連判状は事実だ、それが原因なら潔白の証明は難しいな…」
石田三成
「正直私は、関白が大名と連判状を交わし平定を鑑みるのは自然の事だと思いますが…」
秀次
「そうだろ、そりゃそうだ連判状を交わしたのは毛利輝元だけじゃない… しかし、参った…逆心など誰かの陰謀かと思えば、その陰謀を言い出したのが太閤本人じゃ弁明など受け入れまい…」
石田三成
「…難しいかも知れませんが、太閤様の不安を取り除かないと… 二人は親子の様な親族関係です直接会って話せば通じるはず」
秀次
「…たぶん、太閤には子が出来ない…だから、養子縁組なども大切に扱うが、その大切とは、太閤が信じてる時だけ… 要するに太閤にとっての絆は自分自身が相手を信じるか信じないかだけの事だ…」
石田三成
「…二人の真の関係性は分かりかねますが…この件は迅速かつ慎重に進めないと、命に関わる事です」
秀次
「やれるだけの事は、やるさ…」
その後、秀次は神道家に神降ろしさせその前で、秀吉への誓書を七枚書いて送り、信頼を取り戻そうとした。
伏見城
石田三成
「秀次様から誓書が届いたそうですね…」
秀吉
「あれか…」
石田三成
「……?」
秀吉
「もうそんな物はどうでもいい…お前も秀次を調べてるんだろ?」
石田三成
「はい」
秀吉
「なら、秀次が謀叛者だと理解したんだな」
石田三成
「…太閤様に言われてから秀次様を調べてますが不審な点は特に無いはず…」
秀吉
「金の事は、お前も確認済だと報告を受けてるぞ…」
石田三成
「金…? まさか、朝廷の事ですか?」
秀吉
「そうだ、金で朝廷を抱き込もうとしている」
石田三成
「…あれは、太閤様から引き継いだ関白としての朝廷への献金です」
秀吉
「甘いな、それは表向きの理由だ…」
石田三成
「……!」
… なんて事だ、謀叛者が前提で秀次様を調べてるのか…もう何を言っても聞く耳持たずか …
秀吉
「秀次に使者を送れ…」
秀次の元に改めて使者が来て秀吉の手紙を渡した。 手紙には親子の様な二人なのだから会って話せば良いではないか、と言う内容であった…
しかし、これは秀次を誘き寄せるための手紙で秀吉は既に秀次を殺すと決めていた。
聚楽第
秀次の家老
「やはり、太閤様と面会して誤解を解きましょう…」
秀次
「太閤が誤解してるだけだと思うか?」
秀次の家老
「…それは、しかし親族の秀次様を本気で疑うとも思えませんが…」
秀次の重臣
「秀次様…もしも、野心があるのなら私に一万の軍を預けて下さい、先陣を切って戦いましょう…
しかし、何も無いのであれば、堂々と面会して事実を語るべきです」
重臣
「我々も戦います…この命、秀次様のために燃やし尽くす覚悟です!」
家臣達が次々に秀次への忠誠を口にして戦う事を誓う。
秀次
「…よく言ったそれでこそ我が家臣… だが、心配するな太閤の誤解を解きに行ってくる!」
家臣達の忠臣に心を打たれた秀次は秀吉との面会に向かう。
【理不尽】
秀次が伏見城の近くまで来ると待ち構えていた秀吉の家臣達…
秀吉の家臣
「お待ちしてました」
言葉とは裏腹に威圧的な態度の家臣。
秀次
「太閤の呼び出しで来た…通るぞ」
秀吉の家臣
「太閤様から、まず高野山に入山しろと命令です」
秀次
「なんだと!関白の私に隠居でもさせるきか…?」
戦国時代では武将を引退する時、仏門に入る事が習わしになっている…入山しろとは引退しろと同義語だ。
秀吉の家臣
「それは存じません…入山の支度をする御屋敷に御案内します」
案内された屋敷で秀次が入山の支度を始めるが、辺りは不穏な空気に包まれる。
秀次の家老
「おい!太閤様が高野山に居る訳ではなかろう、秀次様との謁見はどうなってる」
秀吉の家臣
「それは太閤様が決める事、我々が口出しする所では無い」
秀吉の家臣の言葉に苦い思いを噛み締める秀次の重臣達、今は謀叛の疑いが晴れると信じて待つしかない…
秀次
「行くぞ」
秀次の重臣
「しかし、太閤様はどういうつもり何んだ」
秀次
「案ずるな、私は潔白だ…」
秀次達が高野山に出発しようとすると秀吉の家臣から、お付きの人数を制限され家臣十人と僧侶一人を連れて入山する事になった。
高野山では青巌寺に留め置かれ、状況は秀吉の兵士が寺を取り囲み監禁状態で扱いは既に罪人だ。
七月十五日 高野山
秀吉小飼の大名福島正則が青巌寺に訪れ、秀次に切腹の命令が出た事を告げた…
… やはり、そうなったか…俺の全てが秀吉様で始まり秀吉様で終わるか…秀吉様が天下人になったから関白にも成れた…全てを委ねよう …
秀次は、秀吉ありきの人生だと悟り切腹を受け入れた……しかし、元服したばかりの者も居る小姓達は愕然としていた…
怯えた表情の小姓達を見かねて秀次の近臣雀部重政が場を仕切り喝を入れる。
雀部重政
「秀次様の心は決まった…ならば家臣の我らが先に逝くのが筋…全員、切腹の用意をしろ!」
戦国では当たり前の殉死だ、切腹の作法は幼い時から知っている…だが、秀次の小姓衆はイクサの経験も無い少年が三人…
武士として関白秀次に仕え、武士として死ねる事を誇りに家臣達が切腹する、介錯は雀部重政が勤める…
家臣達の切腹が始まると、その凄惨な光景に怯え泣く不破万作…
「あうっ…ぐっ…うっ…うっ…」
小姓頭 山本主殿助
「泣くなぁーー!!まんさくぅー!貴様それでも秀次様の小姓かぁーー!!」
すでに五人の家臣が切腹、その光景は凄惨なものだ…
秀吉への抗議か、腹を十文字に切り裂き内臓を掻き出して死ぬ者…
介錯が要らないほど深く切り裂き絶命する者…
介錯された者も首を跳ねられ白装束は、噴き出す血で赤黒く染まる…
その全てが人を超越したサムライの鬼の様な有り様…小姓が泣き震えるのは当然の地獄だ。
小姓山田三十朗
「万作!私を見ろ…」
小姓不破万作
「うっ…くっ…」
山田三十朗
「私も怖い…手が震えてる…」
不破万作
「うっえ…くっ…」
山田三十朗
「だが…私は秀次様の小姓に選ばれた時、嬉しかった…そして誇らしい気持ちになった…」
不破万作
「わたしうっも…ですぅ…」
万作の目を見て小さく頷く三十朗…
山田三十朗
「その時に私は、武士として誓った!主君に命を捧げると…」
山田三十朗もまたイクサの経験が無い、勿論人を殺した事も無いが切腹の恐怖を幼いながらも精神力で押さえ込んでいる…
山田三十朗
「そして死ぬより、恐ろしいものは…武士の誇りをなくす事だ…」
不破万作
「わっ、分かってぇる…これでもうっ…武士の…はしくれっ…うっ…なのにっ…かぁらだかぁ…かってに…ううっ…」
山田三十朗
「関白秀次様に殉ずる…これが山田三十朗の・武・士・の・誇・り・だ!」
万作の心に三十朗の言葉が刺さる… そうだ自分も武士として生きて武士として死ぬと心に決めたはず…なのに情けない、体が震える…
山田三十朗
「万作…お前なら出来る…よく見てろ!!」
勢いよく脇差しを自分の腹に突き刺した!想像を超えた痛みに叫びそうになるが、三十朗は痛みと戦った…
… 痛い…いや苦しいのか…だが、こんな痛み武士なら笑い飛ばせ!これが俺の武士道だぁ! …
激痛に歪む顔を万作に見せない様に下を向き万作に話しかける…
山田三十朗
「己を信じろ…万作は…ぐっ立派な…武士だ…」
山本主殿助が涙を堪えて、秀次に介錯を頼む…
山本主殿助
「秀次様!お願いです! 介錯をしてやって下さい!!」
秀次が立ち上がり太刀を抜いた…
秀次
「見事だ、三十朗あの世でもお前が必要だ…先に待ってろ!」
ザシュッ!!
三十朗の頭を首の皮一枚残し完全には切り落とさない正式の介錯、剣術の腕前が一流でなければ出来ない技だ…
山本主殿助
「秀次様…私もお願いします…」
秀次
「……ひとつ、聞きたい…未練は無いか…」
未練と聞かれて主殿助は真っ直ぐ秀次の目を見て曇りなく答える…
山本主殿助
「未練などありません!!秀次様に仕え、武士としての自覚を持ち…サムライの尊厳を知りました…」
秀次
「……」
山本主殿助
「主君に殉ずる!武士の誉れです!!」
秀次
「よく言った…俺も直ぐに逝く」
主殿助が白装束を右腕だけ脱ぎ脇差しを手に取ろうとした時に、万作が叫んだ…
不破万作
「待って下さい!!」
その声に秀次、雀部重政、山本主殿助の三人が振り向き万作を見る…
そこにはもう、怯え泣いていた万作は居ない…
幼きながらも武士の魂を奮い立たせたサムライが脇差しを手に懇願する…
不破万作
「先に逝かせて下さい…もう…大丈夫です…」
山本主殿助
「…万作…」
秀次
「介錯は任せろ…」
不破万作
「武士の…覚悟、見届けて下さい!」
〝武士の誇り〟友が残した言葉……自分を信じて死んで逝った友の為にも…
自分は武士だと堂々と言う為に…
誇り高い武士として死ぬ…
切腹を成し遂げる…
万作が、上半身を露に脇差しを構えた…
三人が見守る中、万作が勢いよく脇差しを左脇腹に突き刺す!
ドカッ
不破万作
「がっ…ぐぅ…」
その時、皆が何かが違うそう思った…
万作は顔面蒼白で身体を痙攣させている…
何事か、いち早く気付いた雀部重政が秀次に進言する…
雀部重政
「秀次様、早く介錯を!あばら骨に刃を取られたようだ、小姓には耐え難い痛みのはず…」
山本主殿助
「頑張れ!万作!!直ぐに秀次様が介錯してくれるぞぉー!」
不破万作
「だぁめっだぁー…まだだ…」
… くそぅ~! 最後にこんなへまを…これじゃあの世で三十朗に会わす顔が無い…あばら諸とも横に引き裂いてやる! …
強引にあばら骨ごと引き切ろうと渾身の力を入れる万作…
不破万作
「ぐぅ…おぉーー!!」
バキッ
折れたのは骨ではない…食いしばる歯が折れ、口から血が滴る…
山本主殿助
「もういい、じっとしてろ…」
あばらごと引き切ろうと、激痛に耐える万作の姿に、堪えきれず涙が溢れる主殿助…
山本主殿助
「秀次様、介錯を…」
不破万作
「まだでづぅ…やりどげぇますぅ…」
さらに、力を込める万作… ゴリッと鈍い音と共に右脇腹まで切り裂き切腹を成し遂げた。
秀次
「関白豊臣秀次は、不破万作を一人前の武士と認め介錯する!」
不破万作
「…いぢに…んまえぅ…」
秀次
「よくやった!最後までお前を気に掛けてた三十朗の言う通り… 万作は立派な武士だ、しかと見届けたぞぉ!」
ザシュッ
秀次の介錯で戦国の少年が命を燃やし尽くした…秀次も介錯が終ると直ぐに切腹してこの世を去った…
そして、理不尽に切腹を命じられた秀次の首は検分の為、秀吉の居る伏見城に運ばれる事になる。
不破万作Wikipedia
秀次切腹事件Wikipedia参照
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