第37話 愚民



天正二十年

 四月十二日朝鮮討伐開始


朝鮮討伐を、秀吉に先鋒で戦うと約束した小西行長と宗義智は、大小合わせて700の船団で朝鮮領の釜山に上陸した…



宗義智

「念のため、道を貸し出せと書状を出したのですが無視です…」


小西行長

「死に急ぐとは、馬鹿な奴等だ…」


宗義智

「釜山は見せしめに殲滅しては…」


小西行長

「仕方ない…日本軍の強さを知ったら素直に道を貸すかも知れん」





釜山城


 朝鮮軍は、イクサで戦闘慣れした日本軍に圧倒された…


 日本軍は逃げる兵士の背中を切りつけ殺し、隠れている兵士はもちろん、降伏して平伏す兵士も踏み殺すなど容赦無く朝鮮兵を殲滅して釜山城を制圧…






 釜山を制圧した一番隊は一晩だけ休み、翌日には東莱城を包囲した…


 小西行長らは、例によって降伏する様にと東莱城の城主宋象賢宛の木札を城に投げ入れる…


   「戦則戦矣不戦則仮我道」


 抗うなら即戦え、それとも道を退くかと言う、小西行長の降伏勧告に対して宋象賢も木札を返して来た…


     「戦死易仮道難」


 〝戦死は易し道を仮すは難し〟


宋象賢は命懸けで戦うと日本軍の要求を拒否した。




宗義智

「やはり、降伏はしないか…宋象賢」


小西行長

「…知ってるのか?」


宗義智

「はい…」


 宗義智と宋象賢は、朝鮮貿易の関係で交友があり、誠実な男だと言う事を知っていたので、国に忠誠を尽くす事を予想していた…


小西行長

「そうか…なら捕虜にして生かしたらどうだ」


宗義智

「そうですね…兵士達には城主を生け捕りにするよう伝えます… 殺すには惜しい男です」





 日本軍は圧倒的な強さであっさりと東莱城に乗り込み城兵を次々に討ち取る。


 東莱城城主宋象賢は敗けを覚り楼閣で日本兵を待ち受ける…日本兵が楼閣に雪崩れ込み宋象賢を取り囲んだ…



一番隊武将

「生け捕れ!!」


宋象賢

「……」


兵士

「刀を捨てろ!」


宋象賢

「!…何だと?あいにく日本語に興味が無いし…聞く気も無い!!」


兵士

「誰か、朝鮮語を話せるか?」


一番隊武将

「かまわん…刀が持てぬよう腕を叩き折れ‼」


 兵士が宋象賢の腕を峰打ちするより先に、宋象賢が一番隊武将に切り掛かった…しかし、剣に不慣れな宋象賢の一撃はかわされて、慌てた兵士に刀で切り付けられた…


一番隊武将

「ちっ、馬鹿が生け捕りだと言われたろ…運んで治療しろ」


 急いで治療しようと兵士が宋象賢を運ぼうとする…


兵士

「…すみません! まだ息はありますが…助からないと…」


一番隊武将

「…仕方ない、報告は俺がしとく…外に出しとけ」



 宋象賢死亡の報告を受けた宗義智は、交友のあった宋象賢の死を悼み碑を建て弔った…だが、結果的には東莱城も城主もろとも日本軍は朝鮮軍を殲滅した事になる。




一番隊が制圧した釜山港には、二番隊三番隊四番隊と次々に日本軍が上陸して、朝鮮半島に更なる緊張が走る…





 日本軍による釜山城、東莱城の殲滅に朝鮮軍では日本軍を恐れ戦意喪失する兵士が続出した。


 周辺の朝鮮軍は戦わずに逃げ出す有り様、僅かに残った勇敢な兵士達は玉砕覚悟の戦いをするが、剣先さえ届かず鉄砲隊の餌食になる…




…殺しの螺旋は海を渡り 大陸で禍々しくうねり出す…






         【愚民】



 日本軍の侵攻は、各隊が各方面に別れて制圧して行き朝鮮国王の居る首都漢城府を目指した。




 李氏朝鮮は国政を仕切れる様な人材が少なく、国力も軍事力も日本に比べて遥かに劣る、とうぜん外敵の襲来などの対策も無い…


 そのため防衛の準備もままならず日本軍の侵攻に城主が真っ先に逃げ出す有り様。 身分制度の格差が激しい朝鮮では、領民を奴隷にしており死のうが生きてようが城主は気にも止めて無かった…

 朝鮮半島の城は次々に陥落して、日本軍の侵攻は首都漢城府の目の前まで来ていた。








文禄元年

 五月某日 朝鮮領民の暴徒化



 朝鮮国王は迫り来る日本軍に怯え首都漢城府を放棄して逃げ出した、国王に見放された領民は悲しみに暮れたが、やがて自分達を見捨てた国王を非難して朝鮮乱民として暴動に出る…



 朝鮮乱民の暴動は王宮で財宝などを奪い火を放ち、罪人達は犯罪歴を焼き捨て、奴隷は身分記録などを保存している掌隷院を放火して記録を消滅するなどの行為に及んだ。


これは朝鮮王朝を見限った朝鮮人民の日本への寝返りである…





 朝鮮国王が不在の首都漢城府に日本軍が到着すると、朝鮮乱民は自ら日本軍を招き入れ媚を売る様に接した… 侵略者の日本軍は、領民の対応に驚いたが直ぐに受け入れ避難した領民も戻るよう促した。



 朝鮮を僅か二十一日の短期間で首都まで落とした日本軍は、そのままの勢いで朝鮮半島を侵攻…朝鮮国王を追い詰める。





文禄元年

七月某日 明軍参戦


平壌制圧をした一番隊に、朝鮮からの援軍要請を受けた明軍の副総裁祖承訓が仕掛ける。



小西行長

「明軍が出て来たぞ」


宗義智

「朝鮮が明に泣きついたのでしょう…」


小西行長

「だが、たいした数じゃないな…一番隊だけで充分だ」



小西行長の言葉通り明軍五千は一番隊に一蹴され、日本軍を侮っていた明軍の副総裁祖承訓は敗走する。





 明軍から交渉人が訪れ日本軍との初めての会談が行われた、話し合いの結果50日間の停戦協定が締結…


しかしこれは明軍の罠で、実際は明皇帝が朝鮮に派遣した提督李如松が来るまでの時間稼ぎに過ぎなかった。





文禄二年 一月六日


明軍に朝鮮軍八千が合流して李如松は五万以上の軍勢で小西行長など日本軍一万五千が守る平壌城を包囲した。




日本陣営


宗義智

「あいつら、まさか攻撃して来ないだろうな…」


小西行長

「甘く見すぎたな…協定を反故にするのも、ある種の戦略だ」


宗義智

「戦略…? しかし、城下の朝鮮領民がこちらの人質として居る以上、脅しだけで手出しはして来ないのでは?」


小西行長

「…協定を罠にする奴らだ、民もろとも攻撃してくるな」


宗義智

「ちっ、籠城して援軍を待ちましょう」






平壌城開戦


明軍提督 李如松

「砲撃を開始しろ!」


李如松私設軍 隊長

「撃てぇー!!!!」



 平壌城は城の廻りが城下町で、その城下町を強固な外壁で守られている…外壁の中には大勢の領民が居る従って日本軍は戦闘にはならないと思っていたが、明軍は仏狼機砲、大将軍砲、霹靂砲などの大型砲で外壁を朝鮮の領民もろとも砲撃した…


この領民をも巻き込む無慈悲な砲撃に朝鮮軍は何の文句も言えないでいた…



外壁を破られた日本軍は、城に立て籠り火縄銃で防戦するが勝機が見えず平壌城を脱出して敗走する…


明朝鮮連合軍は火縄銃の威力に苦戦してしまい、城を奪還したものの日本軍を殆んど取り逃がしてしまう…



李如松

「城の奪還は当然の事だが、戦果がそれだけとは…」


 明王朝に派手な戦果を報告したい李如松は快勝とは言え戦果に苛立ちを見せる…


提督李如松の顔色ばかりを気にかける軍隊長が鬼畜な発想を提案する。


軍隊長

「朝鮮人の死体を日本兵の首に仕立てて見せましょう」


李如松

「…出来るのか?」


軍隊長

「朝鮮人の死体の前髪を剃り上げれば日本兵と何ら変わりません、日本兵の首を量産出来ます」


李如松

「なるほど、死んだ朝鮮人も私の役に立つなら浮かばれるか…」




この戦いで李如松が挙げた日本軍千三百の首は半数以上が朝鮮領民を偽造して作った首だった。


戦闘に巻き込まれて死んだ領民は一万人以上と李如松の平壌城奪還戦は朝鮮に甚大な被害を出した。


 明軍提督李如松は後に、朝鮮王朝からは戦勝の賛辞を浴びるが朝鮮領民からは激しい非難を浴びる事になる。










文禄の役Wikipedia参照

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る