第35話 欲望



 秀吉からの朱印状を読んだ軍艦黒田官兵衛は、九州各地の武将の調略を始める…



 黒田官兵衛は書状で、秀吉軍本隊が九州を進軍するさい、味方に成れば領土の没収はしないが敵対すれば、容赦なく攻撃すると言う内容で、各武将に寝返りを迫った…



 これは、朱印状の風を秀吉に置き換え、木の葉を九州の武将に例えた黒田官兵衛の解釈…


 風の秀吉が進むと木の葉の武将が風に散る、つまり秀吉になびき寝返ると言う事だ。


 黒田官兵衛の書状は、二十万以上の圧倒的兵力で押し寄せる秀吉軍だから成せる脅迫状だった。






 黒田官兵衛の思惑通り、秀吉軍本隊の進軍に合わせて次々に島津義久から秀吉側に寝返る武将達…秀吉は戦わずして配下の武将を増やして行く。



秀吉


「さすが官兵衛、まさに〝風に木の葉が散るごとく〟ワッハハッ」



秀吉近臣


「秀吉様に逆らう者など、日本には居ないと言う事ですね」



秀吉


「…もし居たら、殺すだけだ」







 九州の島津家を服従させるだけの為に、なぜ諸国の大名を動かし秀吉軍本隊も出陣して二十万以上の大軍で攻めたのか…


 秀吉の狙いは、この国で豊臣秀吉に楯突く事は破滅に等しいと、日本中に知らしめると同時に大軍での進攻練習だった。





 大阪に戻った秀吉は、関白豊臣秀吉としての本邸を建設して聚楽第と名付けた…


 聚楽第には後陽成天皇を招いたり、諸国大名を呼び出し、秀吉に忠誠を誓わせるなど日本の国王として振る舞うが、その姿に疑問を抱く者はいない…







         【欲望】


大阪城


秀吉が発令した、大名同士の争いを禁じる惣無事令を、関東の北条勢力が破り、他国に侵攻した…


秀吉

「北条はバカか!たかだか五万程度の兵力で俺に逆らうだと…」


黒田官兵衛

「…調度良いじゃないですか、また大軍での進攻練習になる」


秀吉

「練習…そう思えばいいか… まぁ…分かってるだろうが、戦闘は極力避けてくれ」


 秀吉は、既に朝鮮や中国など大陸征服を視野に入れている…先を見据える秀吉は、国内の戦力を少しでも減らしたくなかった。





天正 十八年



 各国の大名が秀吉の命令で集結し、北条家の領土を包囲した…




 北条は五万の兵力を持つ大大名だが現状を把握出来ず、豊臣秀吉と言う男を甘く見ていた。



 全国から北条討伐に来た大名達は、各々攻撃対象の城を北条勢の十倍以上の兵力で包囲して降伏させて行く…






六月某日 通称一夜城



 秀吉は北条一族の本丸小田原城を一望出来る山頂に、僅かな日数で城を作り上げた…

 城は小田原城からでは大木が視界を遮る場所で建築して出来上がると夜の内にその大木を伐採して、あたかも一夜で作り上げた様に見せ掛け北条側を驚かせた。


秀吉

「北条の様子はどうだ?」


秀吉軍武将

「かなり動揺してるようです…何人かが一夜で城を造る我等の力を恐れて降伏して来ました」


秀吉

「そうか、時間の問題だな… 明日、一夜城で茶会を開く千利休主宰だが…北条氏直も呼んでやれ」


秀吉軍武将

「はぁ?…ご冗談を……」


秀吉

「ハッハッハァ、本当に来たらその場で首を跳ねてやるがな…」



 秀吉は、一夜城に側室を呼んで温泉に行ったり、茶会を何度も開いたり完全に遊び半分で北条一族討伐を楽しんでいた。





 いっぽう黒田官兵衛は、圧倒的な兵力差で城を取り囲み北条側に開城を勧告するが、北条一族と重臣達の会議は降伏するか徹底抗戦するかで紛糾して結論が出ない状態が続いた。

 痺れを切らした官兵衛は使者を送りタイムリミットの宣告をする…





小田原城


北条家当主 北条氏直

「期限迄に開城しないと総攻撃をすると…」


秀吉軍使者

滝川雄利

「そうなれば、城に居る大半の者が死ぬ事に成ります…北条家の存続のためにも開城して、秀吉様への忠義を…大勢の家臣のためにも降伏を決断するべきです」








 北条氏直は、降伏する事を一族の会議で決定事項として伝えると、滝川雄利の下を訪れ、自らの切腹と引き換えに家臣達の助命を願い出た。



一夜城


秀吉

「そうか、自分の命と引き換えに家臣を助けろと…」


黒田官兵衛

「なかなか、骨があるじゃないですか」


秀吉

「そうだな…後々使えるかも知れないな」


黒田官兵衛

「…助けますか」


秀吉

「どうせなら、俺のために死んで貰おう」


黒田官兵衛

「…なら、責任は前当主の氏政に取らせます」



 秀吉の北条一族討伐は、計画通り戦力の減少を抑えるため戦闘をなるべく回避する戦い方で勝利して国内での秀吉の力を見せ付ける結果で幕を閉じた。











九州平定Wikipedia

小田原征伐Wikipedia参照

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る