第25話 青天の霹靂
豊臣軍 精鋭部隊
池田恒興と合流するより一足先に精鋭部隊100人を連れ秀吉は阿弥陀寺に向かった。
豊臣軍精鋭部隊長
「明日の朝には、阿弥陀寺に到着します」
「少し急ごう…暗いうちに着きたい」
「わかりました」
【青天の霹靂】
夜明前に阿弥陀寺に到着した秀吉は精鋭部隊を寺の近くに忍ばせて、部隊長一人を連れ阿弥陀寺の門をくぐる。
信長と信忠を前にして少し緊張気味の秀吉が忠臣面で挨拶をする…
「遅くなりました…後はまかせて下さい。光秀の首きっちり取って見せます」
「…よくこの早さで戻れたわねぇ」
誉められた様な、勘ぐられてる様な言葉に動揺してる事を悟られないように気をつけて答える秀吉…
「黒田が機転を利かして毛利と和睦したお陰です…」
「兵の数は?」
「本隊が来るのは2、3日後で池田恒興と合流して来ます…三万以上になると」
刺客の僧侶が、お茶を持って来た…
「あら?こんな時間に、寝てて良かったのよ」
「お気遣いありがとうございます。このくらいはやらせて下さい」
刺客には秀吉の到着が暗殺の合図になっていた…
部屋では奥の中央に信長が座り右隣に信忠が座りその横に小姓が三人、信長の左隣には蘭丸が座りその横に二人の小姓が居る…
この状況では信長をうまく殺しても刺客は絶対に助からない…
黒田が送り込んだ刺客は元侍の僧侶で家族を人質に取られている、信長を殺さなければ一族郎党皆殺しにすると黒田に脅された…
もっとも信長暗殺の話を聞いた後では何をしようが何もしまいが自分の命は無い、出来る事は信長を殺して家族を助ける事…それだけだ…
刺客の僧侶は最初に信長にお茶を出して、続いて信忠にお茶を出す素振りからお盆の裏に隠した短刀で信長を襲うはずだったが…異変が起きた…
一瞬の閃光が走る
“ドス”
鈍い音がして信長の身体に刀が突き刺さった!心臓をひと突き…
〝森蘭丸が〟!!
〝 信長を刺した〟!!!
!!!?!!!!?!!?
突然の出来事に、信長本人はもちろん信忠も状況を理解できず刀に手を掛けるが一瞬動きが止まる…
その刹那を見て取った
〝秀吉が〟
〝信忠の首をはねた〟!!!!
森蘭丸が呟く…
「これで良いのだな…」
秀吉が応える。
「よく決心した‼」
秀吉は阿弥陀寺に向かう前、忍に蘭丸への手紙を託し届けさせていた、これは秀吉から蘭丸への二度目の密書だ。
最初の密書を秀吉が蘭丸に送る切っ掛けは、今は亡き竹中半兵衛だ…
先の魔物退治で信長に疑問を抱いている大名に半兵衛は働きかけ決起させようとしていたが、その中で暗殺しやすい者にも目を付けていた、信長の愛人で小姓の蘭丸は暗殺に適任者であるが、近すぎて信長に悟られる可能性が高い危険な存在だった… しかし、半兵衛が見聞きする分に信長暗殺の適任者だと思い一度秀吉には話していた。
秀吉が半兵衛に聞かされた蘭丸の現状とは…
侍としての気位が高い蘭丸は傾奇者を嫌っている…しかし今や天下人同然の信長は特別だと愛人兼小姓をしている…だが、本心は男同士でまぐわう傾奇者が天下人に成るのを認めたくない…
これは半兵衛の洞察で本人に聞いた訳では無いが半兵衛の能力を信頼している秀吉は、一通目の密書を蘭丸に出した…
〝今の織田家は、対立した大名を領土の民もろとも殲滅して我が物にする有り様、大名は民あってのもの天下の織田家は武士としての誇りを持ち道を外してはならない!天下の織田家に傾奇者は要らない貴殿の本心を知りたい〟
傾奇者は当然信長の事、文書は忍が織田家重臣からの密書だと言って渡したが署名も印も無い…
森蘭丸は、誰からの手紙だか様々な詮索をする。
… 私に、この書状を出せば普通なら信長様にバレると思い出さない… なのに、何故出せたのか?
私が信長様を良く思ってないと確信してるから…? ばかな…確かにそうだ私は傾奇者を嫌っている…だが、傾奇者でも信長様は人を超越した存在、信長様には敵意は無い…心の奥でくすぶる物はあるが…
私の心のそんな些細な事に気付いたのか…そんな事を見抜ける人物か…この密書の主は織田家重臣の誰かで間違いないな …
蘭丸は手紙の主が誰か調べだが、蘭丸の調査網では尻尾を掴めなかった…
人の心を見抜くほどの人物なら自分の能力も見抜かれているはず…
そうなると、尻尾を掴めなかった自分が、そろそろ観念して返事を用意してると思い、近いうちに忍を寄越すだろうと蘭丸は考えていた…
予想通り忍が返事を受け取りに現れた…蘭丸は用意していた返事を渡した。
〝私は何も見ないし聞かなかった、この事は誰にも言いません〟
この返事で、秀吉は蘭丸の心中を察した…
… なるほど、中立か…まぁその時点で反信長と言う事だ …
秀吉の密書は無かった事にすると言う蘭丸、これを信長に伝えないと言う事は信長が襲われても構わない… それは、謀叛を阻止する気はないと言う事にもなる…
賛成も反対もしない蘭丸は迷いはあるが反信長と秀吉は考えた…
秀吉はその後とくに連絡はせず、今回の光秀謀叛で二度目の密書を蘭丸が反信長と確信を持って阿弥陀寺に送った…
〝今回の討伐は、貴殿しだいです! 豊臣秀吉の到着が傾奇者討伐の合図。京の混乱は避けられないため母上様と弟君は甲賀の安全な場所に非難して頂きましたので御安心下さい。貴殿が動かなければ、これからも多くの民が虐殺され傾奇者に天下が汚される!今こそ決断すべし〟
体裁を整えた内容の文章だが、母の妙向尼と弟の忠政を人質にしての強迫でもあるが… 秀吉は民百姓のためと、侍としての大義名分が成り立つ理由も付け加えて蘭丸の心を揺らした…
そして、森蘭丸は動いた…
信長を刺した…
戦国時代と言う暗黒の闇が…
激しく渦巻いて秀吉に宿る…
その時、心臓を貫かれ死んだと思った信長がしゃべり出した‼
!!!!?!!?!!!
「これは…なぁ何の真似だ!!蘭丸!答えろぉー‼」
「…私は侍…誇りを持っています…
織田信長の小姓に成った時、心の底から誇らしく思った…だが」
「何の話だ…何故…なぜ私をお前がぁ…」
「だっだから…私は侍…侍は男を漁ったりしない! 女の舞など踊らない! だから…だから、貴方の様な傾奇者を天下人にはさせない!!」
「…私のケツを舐めたその口で」
「黙れ!!!」
「私に抱かれ泣き叫んでいたガキがぁ!!」
「黙れぇーー!!!!!」
グリッ
蘭丸が信長を刺した刀を引き抜き、まだ息のある信長の首を跳ねた‼
ザシュ
!!!!!!!!!!!
誰もが凍り付くなか秀吉の高笑いが響く。
は~はっはぁはっははっは~ぁ!!
秀吉に何も聞かされて無い部隊長が青ざめて秀吉に目を向けると、秀吉が叫んだ‼
「皆殺しだ、殲滅しろぉー!!!
だれ一人逃がすなぁー!」
青ざめていた部隊長だが、秀吉軍の精鋭部隊を任されるだけあって、瞬時に笛を吹き部隊に合図する…
闇に紛れていた精鋭部隊が即座に集まって来た。
「きさまぁー!!」
殲滅しろと叫ぶ秀吉に激昂する蘭丸だが、状況はすでに秀吉の意のままにしかならないと判断してすぐに冷静さを取り戻す…
「皆殺しとは、どう言うつもりだ…」
「悪いな、実は世直しなんて綺麗事じゃない…俺が天下を取る為の策略だ…信長様の仇を討って織田家に君臨する…」
「…光秀を唆したのか…」
「光秀は信長様に逃げられたが、お前のお掛けで…信長様は本能寺で光秀に殺された事になる…そして俺が、仇討ちで光秀を取る…
世の中には分かりやすい結果が必要だ」
「その嘘の手柄で織田家を乗っ取り…我らは口封じ…」
「安心しろ、お前の事は最後まで信長様を守って死んだ立派な侍として伝えてやる…」
蘭丸の弟の坊丸と力丸に目を向ける秀吉…
「こいつらは無理だが、何も知らない甲賀の母と弟…それに兄の長可は優遇を約束しよう」
「…騙しておいて、また約束だと…勝手な事を…」
「信用出来ないのも無理はないが、お前とはこれでお別れだ…もう話す事も無い」
秀吉は右手を上げ、その手を降り下ろす…殺せの合図だ。
蘭丸は弟と信忠の小姓を入れても六人と僧侶達、秀吉の精鋭部隊は100人…
夜明け前の襲撃に目を覚ました僧侶達は、逃げ惑う者…許しを乞う者お経を唱える者様々だが、容赦無く殺される…武芸に達者な蘭丸兄弟も、秀吉の精鋭部隊には歯が立たず殺される…戦国の世は非情だ、幼き者も戦意なき者も悪意によって亡き者にされる。
「死体を纏めて油をかけろ、寺ごと焼け!跡形も無くな…」
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