第2話 絵図


【絵図】



信長に祈祷師を連れて来るよう命じられた利家が不機嫌な顔をする…


「信長様あの祈祷師はまがい物です、あんなもの会う価値がありません」


利家は信長に祈祷師だろうが何だろうが男が近づくのが気に入らない嫉妬深いたちだ。


「価値があるか無いかは私が決める事…

さっさと連れてきて、 貴方にも協力してもらうわよ。大切な仕事だから」




信長に、協力してもらう“大切な仕事だから”と言われ気を良くした利家は直ぐに祈祷師達を連れて来た。


この祈祷師達は詐欺集団だが、尾張では まだ詐欺だとばれて無いので、何かの祈祷依頼だと思いにやけ顔の祈祷師は信長から大金を稼げると思っている。


「若様何かお話があるとの事で」


信長が何時になく真剣な表情をして利家に尋ねる。


「私達以外は誰も居ないな?」


「はい…すでに人払いもしてありますので」


「……みな近くによれ」


大うつけから大金が稼げると思いにやけている祈祷師達に予想外の話を始めて脅す信長。


「この話に拒否権は無い!あるのは、必ず成功させると言うことのみ… 裏切者は生かしておかない‼」


信長の狂気に満ちた眼差しが祈祷師に突き刺さる、金縛りにあった様に固まる祈祷師。


「だが仕事の報酬は相応の金を払う、そして殿様の側近として我が物顔で尾張を歩ける… 」


断れば殺される…引き受ければ夢の様な報酬…祈祷師もそれだけヤバい仕事だと悟り腹を括り聞き入る。


「貴方達にやって貰う仕事は……


“織田信秀の暗殺”だ… 」



!!!!!!!!!


皆が驚いて息を飲む… 辺りを静寂が支配する。



… うつけだと思っていたが…自分が殿様に成る為なら実の父親でも殺すとは…とんでもなくイカれたヤツじゃねぇか …




祈祷師は信長が、殿様になるための計画だと思っているが、これは 父親信秀への復讐の様な物だ…

一方 利家の方はと言えば信長に愛されたいだけの恋の奴隷…文字通り言いなりである。




「なるほど、若様の狙いは分かりました… しかし…」


目的は分かったが疑問をぬぐえない祈祷師が尋ねる。


「…この様な重大な計画に何故我々を選んだのか…」


小さく微笑んで信長が祈祷師に答える。


「貴方達が詐欺集団だから…」


!!!!!

ざわつく祈祷師達…


「私がその気になれば虚偽の罪で打ち首よ…」


信長の言葉に祈祷師達は顔を引き吊らせ反論する。


「お待ち下さい、私達は咎められる事は何もありません!神仏と同化して神力を得る、その為の修行を日夜 努めております… 何故その様なことを言われますか…」


「そんな建前はどうでも良い、私の目は節穴じゃないの」


「… しかしそんな根も葉も無い事を…どうか そんなに脅かさないで下さい」


「まぁ待て、話を最後まで聞け、要するに貴方達は犯罪者、罪を犯すのにためらいが無い、共犯者としては頼もしい! ……そして貴方達は嘘偽りを暴かれたく無いから裏切ったり密告したりしない……」



… なるほど、確かに若様からすればそうかも知れない、そこは納得がいく…こちらとしても共犯者ならお互いが相手の弱味を持つため表面上は五分の関係になれる、次期殿様と共犯…だから金も名誉も手にはいると言う訳か ……


「話は分かりました… しかし暗殺は我々の専門外です、剣豪で知られた信秀様を我々の手で葬るとなると…何か良い策でもあれば良いのですが… 」


弱音を吐く祈祷師を見て、自分を売り込む利家…


「信長様 俺なら一刀両断にして見せます! 何もこいつ等に頼まなくても… 」


利家の見下した発言で、祈祷師が悪人の顔をみせ脅す。


「こいつ等だと‼ ガキが舐めた口聞くじゃねぇか、若様の言う通り我らは詐欺集団だ今までに何人殺した事か分かりゃしねぇ…てめぇもぶっ殺すぞ!!」


利家が刀に手を掛ける‼


祈祷師達も仕込み杖に手を掛ける‼


信長がいきり立つ両者を制する。


「静まれぇ!! 暗殺と言ったでしょ… 信秀には、あくまでも病気で死んでもらう…… この計画には祈祷師が相応しい …確かに信秀は強い、まさに尾張の虎! しかしイクサの前などは戦勝祈願など欠かさない… 縁担ぎが好きらしい」


信長の意図を祈祷師が理解した…


「 ……! なるほど我々祈祷師が近付き易いと…」


「そう言う事… でも、まずは尾張一の祈祷師になってもらう、信秀の信用を買う為に」


信長の緻密な計画に感服した祈祷師達が頷く。



「 利家 皆にも手伝わせて、有ること無い事を事実として広め祈祷師達の評判をあげるの、ただし暗殺の件は皆にも一切内密だ!祈祷師達で大金を稼ぐ為だとか適当に言っといて」


利家は、皆には内密を二人だけの秘密と恋する乙女チックに解釈して鼻息を荒くする…


「任・せ・て・下・さ・い!!!」


必要以上のボリュームで返事をする利家に唖然とする祈祷師達…


「 あと、ヤラセの神隠しをやるから、小さい子供が居る大店に目星を 付けといて」


「分かりました。直ぐに皆を動かします!」


俄然、ヤル気の利家が屋敷を飛び出した。


「貴方達はじきに来る尾張での祈祷依頼をどんどんこなしてもらう…一流の祈祷師としてね」


「おまかせ下さい!」




信長の号令で傾奇者や行き場の無い浪人達はあちこちに口コミで祈祷師達の評判をあげ予定通り尾張一の祈祷師をでっち上げた。


中でも一番効果的だったのは、ヤラセの 神隠し、信長の狙い通りだ…


大店の子供を天狗の面を被って拐い、町中に“天狗の神隠し”だ!と騒ぎ立て場を盛り上げた所で、祈祷師様の登場! 神の御告げがあったと、あらかじめ知っていた子供の居場所を言い当ててこの神隠し事件を解決!皆が称賛した。

晴れて、祈祷師達は織田信秀のお気に入りになり、城の出入りが許される様になった。


信秀が祈祷師と神事を共にする様になると、信長は祈祷師達に酒席などに呼ばれたら信秀に少量の毒を盛るよう指示した。

少しずつ体調を崩す信秀…最後は哀れなものだ、毒を盛っていた祈祷師達に心の中では早く死ねと逆の事を祈られながら死んでいったのだ。





織田信秀 葬儀



織田信秀の葬儀で喪主を勤めるのは家督を継ぐ信長だ。


名のある僧侶達を数多く招き葬儀は盛大に行われている。 なのに、喪主の信長がまだ来ない…


家臣達が焦りだし、弟の信行に挨拶させようとした時、真っ白な天女の衣装を着た信長が表れ真っ直ぐ仏前に行き、抹香を鷲掴みして位牌に投げつけた‼




… 良い様ね。父上…これからは、私が織田家の当主… 酒に毒を盛られたら剣術などなんの役にも立たないでしょフフフッ …




あまりの奇行に静まり返る葬儀場… 信長はなに食わぬ顔でその場を立ち去った。


これを見ていた参列者達は大うつけが殿様じゃ織田家もおしまいだと口々に話し出し葬儀場はどよめいた。






尾張某所 信長別邸



信長は鉄砲隊50人を引き連れ、祈祷師達を住まわせて居る屋敷に向かう。信秀暗殺の証拠隠滅の為、祈祷師達の口封じをするつもりだ。


祈祷師達を処刑する大義名分は信秀の体調を偽の祈祷で悪化させたり町民達をまやかしの神事で惑わしたため。



信長は屋敷の近くに鉄砲隊を待機させると、何食わぬ顔で門をくぐり屋敷の中へ一人で入っていった…




信長の訪問が突然だったため祈祷師達が慌てて出迎える。



「これはこれは信長様わざわざお越し頂かなくとも、こちらから伺いましたのに…何か急ぎの用でも?」



今回の件が上手くいったのは貴方達のお陰ですと、一人一人に丁寧に礼を言う信長に祈祷師達は信長様の計画のおかげだとお互いを称え成功に酔いしれた…しかし実は信長のこの行動は全員が居る事を確認する為のもので処刑の段取りに過ぎない…



「今日は、報告に来ました。貴方達の希望通り この屋敷を本堂に建て直します、もちろん費用は織田家が持つ。

明日からはしばらく城に泊まりなさい」



私達は仲間だと言わんばかりに本堂が尾張に出来る事を祈祷師達と喜んで見せる信長。



「しかし、こうも上手く行くとは流石 信長様です」



「貴方達のお陰です」



「信長様のお役に立てて何よりです」



「有難う。じゃー私はこれで城に戻るから」



腹黒い祈祷師はまず本堂の建設を要求していた、信長の弱味を握っているとたかをくくりその冷酷さを見謝って身の安全を確保する事を怠っていた。



「そうですか、誰かに送らせましょう」



「大丈夫よ、護衛を連れて来てるの… 」



「お城のお侍様ですか…それなら安心ですね」



「もう夜も遅いしゆっくり休みなさい」



「それではお言葉に甘えて休ませてもらいます」



… 貴方達はもう用済み、ゆっくり休みなさい永遠にだけどフフッ …



屋敷から出てきた信長は連れて来た50人の鉄砲隊に攻撃の合図を出した!


一斉に撃ち込まれる弾丸!轟音と火花が祈祷師達の断末魔…最後の祈り声を掻き消した。








※参考文献

織田信長Wikipedia

太田牛一・著・奥野高廣・岩沢愿彦校注、1969、『信長公記』、角川書店〈角川文庫2541〉 ISBN 9784044037017。

太田牛一; 中川太古 『現代語訳 信長公記』(Kindle版) 中経出版〈新人物文庫〉、2013年。ASIN B00G6E8E7A

岡田正人、1999、『織田信長総合事典』、雄山閣出版 ISBN 4639016328。

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