第13話 それぞれの物語 side 紅葉沙耶
side 紅葉沙耶
これは、私、紅葉沙耶がファミールに合格するまでの話。
私は昔から、歌が好きでした。
子供の頃は、よくテレビでやっていた子供用番組の歌を聴いていて、小学校中学校へと上がると、アニメソングやボーカロイドにハマっていった。
高校に入れば、テレビの歌番組を見はじめ、さまざまなアーティストの歌を聴き始めていった。
それぐらい、私は歌が好きだったのです。
けれど…
「…やっぱ歌は聴くのが一番ですね…、歌うのは難しいです」
そう、歌を歌うことに関しては、あまり得意ではありませんでした。
カラオケとかに言っても、周りが90点台を出している中、私は80点あたりをうろちょろとしており、良くて85点が出るぐらい。
よく周りから、『80点も出てれば十分上手だよ!』みたいなことを言われますが…昔から歌を聴いている身からすれば、そんなことないです。
やっぱり、90点…いや、それ以上はないと私がみてきた人たちのようにはなれない。そう感じています。
私も、結構練習してはいたんです。
家でも、ミューチューブなどを見て、どんな歌い方をすればいいのか、どんな練習をすればいいのかをたくさん調べて、実践してきました。なんなら、お風呂でも歌ったりしていました。
それでも…上手くはいきませんでしたね。
何度カラオケで歌おうとも、点数は少し上がるだけで、鬼門である90点を超えることはありませんでした。
そこで…私は気づいてしまったんです。
あー、歌の才能が無いんだと。
やっぱり、歌は聴くのが一番いいんだなと。
「はー…ミューチューブで、なんか見ようかな」
何をみるのかも決めていないが、私はミューチューブを開く。
いつも通り、何か歌を聞こうかな?
それか、適当に出てきた動画をみようかな?
はたまた、ショート動画でもみようか…。
「ショート動画にしますか」
短い間隔でたくさんの動画を見ることができますしね。
気分転換にもちょうどいいです。
…この時の私は何も考えずに、動画を見ていましたが…このショート動画が大きな命運を分けたんです。
私はこのショート動画で運命…と呼んでもいいほどの出会いをしました。
そう…それが、
「vtuber?」
これが私の、vtuber…
いや、
「椿のぞみ?」
vtuber事務所 ファミール シーズン所属の椿のぞみさんとの出会いでした。
———————————————————————
椿のぞみさんは、ゲームや雑談をメインにしている方でした。
ショート動画で流れてきたのも、ゲーム実況の切り抜き動画というものであり、私はそれを見て、少しずつ椿のぞみさんの動画や配信を見ていきました。
ただ、激ハマりしたのかと言われると、正直そんなことはありません。
少し面白いなーって感じて、たまに切り抜き動画を見ていたぐらいで、ずーっと動画を見続けているようなことにもなっていません。
暇になったなーって感じたら、少し調べて、動画を見る。夜少し時間があったから、短くて面白そうなものを見る。出かける時の電車の中で、見れそうなものを見る。
そんな感じで、時間があったら見るぐらいの間隔で見ていました。
「少し暇ですし…見ましょうか」
そして、今も…私は時間があったので、椿のぞみさんの動画を見ようとしています。
いつも通り、切り抜き動画を見たり、配信のアーカイブを見たりしましょうか。
そして、私は”椿のぞみ”っと、ミューチューブで調べ動画を見ようとしていましたが…ちょうど、椿のぞみさんが配信をしていました。
配信をしていることはよくあることなんです。たまに私だって見たりしています。
けれど、今日の配信に限ってはいつもと少し違う感じだったんです。
「…生誕祭ライブ…?」
私は、サムネに書かれている文字を見ました。
綺麗なサムネイルに、とても上手に描かれている椿のぞみさん。そして、そのサムネイルには、ゲストと書かれて、一部のファミールメンバーも描かれています。
どう考えても、いつものゲーム配信や雑談配信とは違います。
ライブっていうことは…歌を歌っているんでしょうか。
「歌を聴くことは好きですし…少し見て見ましょう」
私は少し気になり、今日はそのライブを見ることにしました。
そして、私はそのライブを見て……驚きました。
正直なことを言うと、とても上手っていうわけでは無いのです。
多分、昔見ていた歌い手方の方が上手だったとは思います。
ならなぜ、驚いたのかと言いますと…
「……楽しそう」
そう、とっっても楽しそうに歌を歌っていたんです。笑顔で歌いながら、ダンスをして、少しでもみんなを楽しませられるように披露をしているんです。
…もしかしたら、これは当たり前のことなのかもしれない。
笑顔で歌を歌って、楽しそうにするのは普通のことなのかもしれないです。
けど、
「私って…歌を歌うことを楽しんでましたっけ…」
少し思い出しても、上手く歌を歌うことを意識しすぎて、歌うことそのものを楽しむということを忘れていたような気がします。
私は、もう一度、椿のぞみさんのライブを見る。
「笑顔で歌って…楽しそうで…、全てのことを楽しんでいるように見える…」
私は、知らぬうちに、そのライブを見続けており…
『みんなー!今日はありがとうーー!楽しんでくれたかな?私は、そこまで歌が上手では無いんだけど、少しでも私の歌を楽しんでくれたなら私は嬉しいです!今日は本当にありがとうーーー!」
私が気づかないうちにライブは終わりを迎えており、椿のぞみさんが最後の挨拶をしていました。
最後まで、笑顔で楽しそうにしながら。
あーー…そっか。私に足りなかったのって、とっても単純なことだったんですね…。
私は今まで、歌を聴くことが好きで、歌うことはあまり得意ではなかった。
けど、これは上手くなろうと意識しすぎていたから。そこまで意識しすぎなくていい。楽しく歌えばそれだけで、自分も楽しくなり、周りも笑顔にできる。そして…そうすれば歌を歌うことでさえも好きになれるのかもしれない。
「…もう一度…もう一度見ましょう…!」
私はこのライブをきっかけに…、椿のぞみさんの大ファンとなり、そして、ファミールのファンにもなったんです。
それからのことは、ほぼ椿のぞみさんや、他のファミールのメンバーの配信を見てばっかでした。
椿さんの配信を見る。コラボ配信で椿さんが出ている配信を見る。他の人の配信を見るようになる。
椿さんのライブを見る。過去にやっていた椿さんの生誕祭ライブや、周年記念ライブを見る。他の人のライブを見てみる。
こんなことを続けていたら、たくさんいたファミールのメンバーも全員覚えて、配信も見るようになりました。初めは、100を超える人たちを覚えれるはずがないと思っていましたが…ハマってしまえばすぐに覚えられました。色々な切り抜き動画やコラボ配信、ライブなどをみていれば意外と頭に入ってくるものです。
けど…!一番は椿さんです!
私がここまで、ファミールにハマったのも全て、椿さんのおかげなので、一番の推しは椿さん。
これは、絶対に揺るがないです。
そして…
私がvtuberというものを知り、椿さんにハマって約半年の月日が経とうとしていました。
この半年間もほぼ変わらずファミールのメンバーの皆さんの配信やライブを見て、過ごしており、なんなら、時間があるときはファミールに関係する動画や配信を必ず見ていました。
けれど…私は今日決意しました。
私はファミールの皆さんの配信を見て思ったんです。
私もこの輪の中に入って見たいなって。
他にも、配信をして、視聴者のみんなと話して見たい。ゲーム配信をして見たい。コラボをして見たい。ライブをやって見たい。
などなど、配信や動画を見ていくにつれて、このような気持ちが強くなってきたんです。
だから…私は決めたんです。
ファミールの新人募集に応募しようと。
…正直受かる確率はだいぶ低いだろうと思っています。けれど..募集しなければ何もはじまらない。
私は夢を叶えたい。
「応募するからには…全力で頑張ります…!」
私は、応募サイトに貼ってあったPDFを印刷し、その書類に自分のことについて書きはじめた。
——————————————————————
私が書類を送ってからは、あっという間に時間が過ぎていきました。
まず初めに、書類選考よる一次審査を通過して、次に面接があると書かれた封筒が届いたのだ。
その時の私は……
「え、え、え?通ったの?嘘でしょ?つ、次は面接?!い、いや、もしかしたら見間違いかも…、…ほ、本当に書いてある…」
大パニックでしたね。
まさか、一次審査である書類選考でさえ通るとは思っていませんでしたから、本当に驚きました。
書類には私なりに、ファミールのことがこれだけ好きなんです!みたいなことをたくさん書いたつもりですが、それでもファミールという事務所は超人気なvtuber事務所であるため、通る確率は相当低いだろうなと考えていました。
だから、それが通ったという紙をもらった時は本当にびっくりでしたね。大パニックにもなりますよ。
そして、また時が経ち、面接の日。
私の面接をしてくれる人はなんと社長であり、その隣には鈴木さんという方が座っていました。
聞いた話によると、副社長や他の社員の方も、他の場所で面接をしているようでしたが…私が割り当てられたのは社長の部屋でした。
私はその面接でも、私なりのファミール愛を社長に向けて話しました。とても緊張していましたが…途中、椿さんの話しになった時には、私の緊張はほぐれており、椿さんの話をたくさんしてしまいました。…向こうは少し引いているようにも見えなしたが…。
次に、書類の自分の長所を書く欄に、笑顔で歌うことと書いたために、お二人の前で、歌うことになりました。しかも、そこに自分の得意な歌を書いたためか、その音楽も用意されていたんです。
ここまで、準備してくれるのは、本当に驚きましたね。さすがファミールだと感じました。
長所笑顔で歌うこと…そう、私は椿さんのライブを見てから、ちゃんと歌を歌うことを練習してはいたんです。
歌うことを楽しみながら、できるだけ笑顔で歌う。ライブの椿さんのように。
この二つを心がけながら、私は練習していました。
これのおかげか、歌うことに嫌悪感を感じることなく、歌うこと自体を楽しむことができるようになってきたんです。
まあ、正直まだ上手ではありませんが、私にはこれよりの長所がありませんから、長所の欄に笑顔で歌うことと書いたんです。
お二人の前で、一生懸命歌を歌ったんですが…私は思ってた以上に緊張していたのか、少しミスってしまう場面もありました。
けれど、自分なりに最高な歌を歌うことができたので、悔いはありません。
お二人の反応を見ても、少しは印象に残ったような感じがしたので、歌った甲斐があったと思います。
これで、合格していなかったとしても…悔しいけれど、その時は、自分がまだまだなんだと感じるでしょう。
そう……
だから……
合格と書かれた紙が封筒で届いた時には、本当に…
「うぅ……、グスっ…よかった…っ…本当に…よかった…」
嬉しかった。大泣きでした。
多分、ここ最近で一番泣いたと思います。
けど、これが嬉し泣きでよかった。
「…グスっ…、…っ…泣いちゃ…ダメだ…」
私は涙を拭う。
多分、私以上に泣きたい人だっていると思うから。
私は嬉し泣きだけど、中には悔し泣きだっているはず。
だから、そんな人たちがいる中で、自分が泣いたらダメだと思うんです。
私は合格したんだから…これからのことを考えよう。
「…1週間後に事務所に行くんですね」
書類には、今から一週間後の土曜日の午後2時頃に事務所に来てと書いてある。
だから、私はそのための準備をしよう。
まだ何やるかわからないけど…私にできる限りのことはしておきますか。
「…多分、そこで同じく合格した人にも会うんですよね」
少し緊張しますが…同期になる方達でもあるんですから、仲良くたいですね。
そして、今のファミールの方達のような冗談でもなんでも言い合えるような関係になりたいです。
ただ…
「…オタクのような、早口にならないようにはしないといけませんね…。特に…椿さんの話の時とかは、注意しながら話ましょう」
こうして…倉井静さんと伊東蓮くんに会い、vtuberとしての第一歩を踏み出すことができたんです。
これから、頑張っていきましょう!!
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読んでくれてありがとうございます!
久しぶりに、別の人の視点で書いたので、少し読みづらいところがあるかもしれませんので、もし有れば教えてください。
特に紅葉は、喋り方をどうしようか、色々と悩んでしまったので、変な部分があるかもしれません。
そこはごめんなさい。指摘があれば、少し直すので、バンバンと教えてください!
誤字脱字等あればよろしくお願いします!
星評価、ハート評価も引き続きよろしくおねがいします。
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