第66話

【グランド視点】


 星制度が導入される当日の朝。

 開く前のギルドに向かった。


 すると奴隷解放済みの子供たちが集まっていた。

 私を見るとみんなが揃って挨拶をした。


「「おはようございます!」」


「おはようございます。皆さんは受付待ちですか?」


「はい!星1つを取ります!」

「僕ねえ!星をいっぱい取って一番になるよ!」

「回復魔法のボランティアに参加します!」

「農地開拓ボランティアに参加するよ!」

「俺ポーションを寄付する!」


 みんなが一斉に話し出して何を言っているか分からなくなる。

 その後みんなが笑った。


「ああ!出遅れたぜ!」


 ニャリスが配信をしながらこの光景を映す。


 カノン・ジェンダ・アクアマリンは皆を整列させていた。


 流石イクスさんです。

 イクスさん、あなたは素晴らしい人材を育てました。

 皆が目を輝かせて人を助けようとしている。


 ギルドの扉が開くとギルド員が出てきた。


「まだ1時間ほど早いですが、今日は早めにギルドを開きます!すぐに受付を開始しますので奴隷購入の方は1番に、無償クエスト受注の方は2番に、寄付を希望される方は3番に並んでください。繰り返します。奴隷購入の方は1番に、無償クエスト受注の方は2番に、寄付を希望される方は3番に並んでください」


 皆が整列していく。

 みんなが星を取得するために動いてくれている。

 私の目から涙が溢れ、立ったままその光景を見つめていた。



 ◇



「奴隷購入と無償クエストの受付は終了しました!これより受付をすべて寄付コーナーに変更します!」


 無事奴隷購入と無償クエストを受注できた子は笑顔でギルドを出ていった。

 だが、残された子の表情は暗い。

 私の出番のようですな!


「コーヒーを」

「丁度持ってきました」

「ありがとうございます」


 私はコーヒーを飲み干した後、みんなに声をかけていく。


「どうしましたかな?」


「クエストを受けられなかったです」

「奴隷を買えませんでした」

「残るは寄付です。寄付をしても星を取得できます」


「でも、助けている気がしなくて」

「……なるほど、分かりました。寄付の使われ方について説明不足だったようです。寄付をされたお金は他の地域から奴隷をこの地に運ぶ為にも使われています。つまり、寄付をすればするほど奴隷購入の呼び水となるのです。更に農地開拓のボランティアもただではありません。開拓用の器具、皆の昼食費用、様々なコストがかかります。そのコストは寄付によって賄われます」


「このように寄付は様々な事に使われているのです。一見助けているのか分かりにくく見える寄付ですが、重要な役割を果たしています。そして今寄付を受け付けています。イクスさんは寄付によっても星を取得できる仕組みを考えていました。こうは考えられませんかな?イクスさんも寄付を大事にしていると」


「お、俺、寄付しようかな?」

「ええ、クエスト報酬や納品報酬から一定割合を自動で寄付に回す設定がおすすめです。無理をせず、長く、遠くまで行きましょう」


「俺、寄付する!してくる!」

「私もする!」


 多くの子供たちが受付に並んでいったが、それでも残された者もいた。

 私は元奴隷の子に声をかけた。

 周りにいる子も会話に耳を傾けている。


「レッド君、何か引っ掛かりがあるのですね?あなたは優しい」

「お、俺、不器用で、並ぶように言われた時もすぐに並べなくて、俺、ううううう」


 レッド君が泣き出した。

 彼は人づきあいが苦手だ。

 人生について悩んでいるのが分かった。

 レッド君のパーティーも受付に並ばずにレッド君を気遣っている。


「レッド君、あなたは素晴らしい。あなたには強力な強みがあります」

「で、でもお、おれええ、何も出来なくて、ううううう」


「それは違います!レッド君!あなたは仲間が魔物に囲まれたらすぐに前に出て壁になっていました!レッド君には勇気があります!レッド君は体格に恵まれています!レッド君は他の人より優れた体力があります!」


「でも俺、でかいだけで鈍いどんくさいって、家族に言われて、それで奴隷に売られて、奴隷になってからも、鈍いって、言われてて。俺、ただでかいだけなんです。ううううう!」


 私は胃が熱くなり、喉にこみあげてくるような感覚を感じた。

 私はまだまだだ。

 レッド君は幼いころから呪いの言葉をかけられながら育ったのだ。

 奴隷として買った時点でそのケアを行うべきだった。


 すべては私の落ち度!

 何と自分の情けない事か!

 商会と奴隷解放は違うというのに!


 私は商会の経験を生かしているつもりだった。

 違う!私は商会の経験を使って楽をしてきたのだ!


 ……ああ、そうか、イクスさんはだから私に任せたのか。

 私はまだ成長できると!

 私にはまだやれることがあると!

 イクスさんは言葉ではなく行動で示しているのだ!



「レッド君、大きい事は才能です。その大きさと体力のおかげでその立派な大楯を使う事が出来るのです。その大楯はイクスさんが作った物です。イクスさんはレッド君ならみんなを守れると、その大きな盾を使えると、そう判断したのです!何度でも言います。レッド君、あなたは素晴らしい!!レッド君には強みがある!!」


 私はレッド君を褒め讃え続け、そして私の落ち度について何度も謝った。



 ◇



 私の話が終わるとレッド君は皆に励まされながら寄付の受付に向かって行った。

 そして周りから拍手が送られる。

 私は汗を拭うと追加で差し出されたコーヒーを飲んだ。


 ギルド職員が私を褒める。


「感動しました!」

「素晴らしいお話でした。僕も頑張ろうと思えました」


 私はイクスさんに導かれているだけだというのに。

 ですがネガティブな言葉を言うのも良くない。


『グランドの言葉に感動した』

『グランドは本気で元奴隷の心まで救おうとしているのがわかった」

『これは、お母さん協会が伸びるわけだわ』

『エムリアも来たぞ』


「エムリアさん、今日はここで皆の相談に乗ろうと思います。書類仕事は終わってからにします」

「ええ、ええ、配信を見ていました。私もその為にここに来ましたから。少しでもみんなの心を救いたいのです」


「心のもやもやを抱えている方は集まってください!1人1人、時間をかけて吐き出しましょう。個室を用意します!エムリアさん、今日から相談コーナーを設置します。心のケアはまだ始まったばかりです」


『あれだけ喋って、戦いはまだ始まったばかりだ感を出してる!』

『グランドのテンションはずっとあんな感じで高いのか?普通じゃないよな』

『元奴隷は色々抱えてたりする。長くなるぞ』

『しかも終わった後書類仕事って、正確にはネット管理してるんだろうけどタフすぎるだろ』


「ええ、始めましょう。イクスさんに冒険者として育てていただいて感謝しています。この体力が無ければ仕事をこなすことなど出来なかったでしょうから」


 エムリアさんが両手を組んで祈った。


「そうですね。私もイクスさんに多くのモノを貰いました。後は子供達に返すのみです!始めましょう!」

「はい」


『2人がかっこいい』

『まるで決戦に向かうまなざしだ』

『命を燃やしているよな』

『もっと見たいけど、個室で相談を受けるならこれで終わりか』




 グランドとエムリアのきめ細かいサポートに感化されたギルド職員やお母さん協会職員は問題点を探し潰し始めた。

 この事が動画配信で何度もバズって多くの寄付が集まり奴隷解放は進んだ。

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