第49話

 俺はドラグを見た。

 超狂化を使ったか、骨がきしんでしばらくまともに戦えないだろう。

 パープルメアは魔力切れ。

 アクリスピはブレス攻撃を受けすぎて血が足りない。


 みんなに、無理をさせ過ぎた。


「アクリスピ!ドラグを背負って下がれ!パープルメアも下がれ!邪魔だ!」


 ここまで言わないと引き下がらないだろう!

 アクリスピはまだ少しだけ動けるが、ドラグを背負わせることで下がるしかなくなる。


『ゲームと同じだ!もうお母さんしか残っていない!』

『今回は無理がある!無茶だ!』

『ドラグも、アクリスピも、パープルメアもボロボロだ』

『まともに動けるのはお母さんだけか』

『カイザーを倒しても、レッドドラゴンは引かない。引かなかった!』

『最初125体だったけど、まだ半分以上残っている』


 俺は魔法弾を手から撃ちだした。


 レッドドラゴンすべてが俺を睨む。


 俺はブレスで狙われた。


 だが、ブレス攻撃は飛距離が長いわけではない。


 俺は全力で後ろに下がった。


 そして範囲外から更に魔法弾で目を狙う。

 目を狙われれば魔物は怒りやすい。


「「グオオオオオオオオオオオオ!」」


「ついてこい!鬼ごっこだ!」


『お母さんも逃げていく』

『違う!確かに逃げてはいるけどその認識が違う』

『ターゲットを取ってからおとりになっているんだ!街に戻ればみんながやられる』

『これが、万能の救い手、死ぬ事を分かって、それでも、みんなを守る気だ』

『イクスが、遠くに走って行く』

『涙が出てきた』


 俺は逃げた。


 逃げるのは得意だ。


 レッドドラゴンは俺を追って来る。


 今まで何度も逃げて生き延びてきた。


 鬼ごっこも、かくれんぼも得意だ。


「さあ!かかってこい!」


 そう言いながら俺は逃げた。





【アクアマリン視点】


「おか、おかあさん!」

「僕達で助けに行くよ!」

「そうですわ!」

「私も行くよ!」


「待ちな!ここから先には行かせねえ!」


 ギークさんが斧を構えた。


「痛めつけてでも先には進ませないわ」


 エルナさんが杖を構える。


「僕も全力で止めるよ」


 セインさんが大楯と剣を構える。


「何で!何でですか!みんなお母さんに育てられて!お母さんのおかげで立派になったって言いました!何でお母さんを助けに行かないんですか!」


「お前らを通さないようにお願いされた!一生のお願いを始めてされた!絶対に通さねえ!」


 3人が泣きながら私を見る。


「やめ、ろ!武器を下ろせ!ここで待て!俺達を回復させろ!」


 ドラグさんが間に入った。


「アクアマリン、回復だ!お前じゃ力不足だ!俺とアクリスピだけを回復させろ!お前が行っても助けにならない!俺とアクリスピなら間に合うかもしれない!」


 そう言いながらポーションを飲んだ。


 何も言えなかった。

 私はまだ弱い。

 その通りだ。


 周りにいた冒険者が集まって来る。


「私の回復魔法で癒すわ!」

「俺も少しなら使える!」



 みんながドラグさんとアクリスピさんを回復する。

 英雄は、生命力が強い。

 HPが高すぎるのだ。

 中々回復が進まない。


 アクリスピさんは傷が癒えても血が足りないようだ。


「アクリスピさん、兵糧丸です!あるだけ食べてください!」


 アクリスピさんが水を飲みながら兵糧丸を食べる。


 ドラグさんの傷がなかなか癒えない。


 私もドラグさんを回復させる。


「ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!」


 回復魔法を使って分かった。

 ドラグさんは、体の中までダメージを負っている。

 いくつも骨にひびが入って、内臓にまで負担が達している。


 2人とも休息が必要なのが分かる。

 でも、それでも助けに行こうとしている。


 2人が立ち上がってお母さんが逃げた方角を見つめて歩き出す。

 




 ……お母さんの匂いがした。


 お母さんが走って来る。


「イクス、無事だったか」

「心配、した」


「いやあ、思ったよりは大丈夫だった。パープルメアのサイクロンであいつらのほとんどがまともに飛べなくなっていたんだ」

「分かった。もう無理せず休め」


「飛ぶレッドドラゴンを倒すだろ?その後は飛ばないレッドドラゴンを地道に倒した。俺はかなり疲れたけどドラグとアクリスピなら楽に倒せたと思う」


 ドラグさんとアクリスピさんが呆れた顔でお母さんを見た。


『ぬるっと帰って来た!』

『今までの感動が全部ぶち壊しだ。でも無事でよかった』

『イクスっていつも予想外の動きをするよな』

『レッドドラゴンはどうなったんだ?』

『ドラグとアクリスピは呆れてるぜ』


 違う、お母さんは無理をしている。

 ドラグさんもアクリスピさんもそれに気づいたんだ。



 お母さんの髪を見ると、焦げていた。

 

 武器を見ると、剣がボロボロになっていた。

 お母さんに余裕があればダイヤグラムを直しながら戦えた。

 ゲームやパープルメアさんの話でお母さんの情報はまとめられていて、武器の解説動画もあった。


 余裕が無かったんだ。

 

 他の英雄を悪く言われないように気を使っているのかもしれない。

 きっと色々な事を考えて、用意して話したんだ。


「焼き鳥、いや、焼きドラゴンパーティーをしたいけど、今日は疲れた」


 お母さんの為に何も出来なかった。

 何かしたいと思った。

 お母さんは空気を変えようとしている。


「私が切って焼きます!」

「僕もやるよ!」

「わたくしもやりますわ」


「おお!ニャリス以外はみんなやってくれるか。ニャリスも手伝ってくれないか?」


 そこで笑いが起きる。

 お母さんは無理をしているように見えた。

 お母さんを突撃させたドラグさんが批判を受けないようにしているんだ!


「私は焼きドラパーティーを配信するよ」


 お母さんと、3人の英雄はパーティーに参加せず宿屋に向かって行った。


 私達は、お母さんが出した大量のドラゴンを串に刺して焼いた。

 素材は代わりに売却してお母さんの口座に入れて貰った。




 ◇




【3日後】


 お母さんは3日間も宿屋で過ごした。


 そこで、お母さんが無理をしていたのがはっきりと分かった。

 他の冒険者は何も言わなかったけどそれを分かっているようだった。


 でも、戦わない人は、きっと気づいていない。


 私達は街はずれの魔道列車に乗り込む。

 ワイドアイランドの冒険者は、皆頭を下げていた。

 少しだけ嬉しくなった。


 魔道列車に乗りこむとみんなが頭を下げたまま見送った。

 ニャリスがお母さんにゴレショを向ける。


「また配信か」

「ニャリスだよ!ドラゴンを倒した英雄に話を聞くね。4英雄は今どうしてるの?」


「それぞれ分かれて魔物退治だ」

「お母さんは次何をするの?」

「列車の中ではゆっくりしたい。取材を拒否する」


「約束のご褒美は?」

「む?」

「レッドドラゴンと闘う前にご褒美をくれるって言ったよね?」


「ご褒美は今日の取材拒否をしないでいいか?」

「いいよ」


 お母さんが少しだけ安心したような顔をした。

 

「だがあまり無茶な質問には答えない。皆も何がいいか考えておくのだ」

「お母さんと2人だけで配信するね」


「ん?」



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