第47話

「……と、言うわけでまとめだ。ドラグを消耗させずにカイザーに当てられればカイザーには勝てる。欲を言えばドラグとアクリスピを万全の状態でぶつけられればベストだ。逆に言えばドラグが序盤から前に出れば消耗して終わる。解説は以上だ」


 俺は配信を終了させた。

 戦闘中に余計な事を考えたくない。


 戦闘が始まりドラグが前に出ないと批判をぶつける者も出てくるだろう。

 特に竜が攻めてきた恐怖の中では人はパニックを起こすものだ。

 そういう間違った認識は事前に潰しておくのだ。


 パープルメアとアクリスピの役割も伝えておいた。

 これで何故3英雄がすぐに動かないか分かって貰える。


 今出来る事は全部終わった。

 後はたっぷり眠って明日に備える。


 コンコン!


 アクアマリン達が訪ねてきた。


「パーティー4人でどうした?」


 アクアマリンが少し下を向いた。


「どうした?」


「お母さんが、ドラゴンに突撃しそうな気がして、怖くなりました」


 そう言って俺の服を掴んだ。


「わたくしも、いやな予感がしますわ」

「僕もだよ」


「ニャリス、こういう時に配信はやめてくれ。今日はゆっくり休みたい」


『応援してるぜ!』

『お母さん、無理はしなくていい。最悪街に攻め込ませて人を襲わせてから戦ってもいいんだ』

『↑普通ならあり得ない事だけど、言っている事は分かる。頑張っている英雄が真っ先に死ぬのが嫌なんだろ?』

『お母さんは、強いとは思う、でも、見ていてたまに心配になるぜ』


「今日はたっぷり休みたい」


 アクアマリンは手を離さない。


「アクアマリン、大丈夫だ。明日、もし駄目なら、全力で逃げる。ドラゴンを引き連れて逃げる。英雄の中で逃げるのだけは得意だった。何キロでも何百キロでも逃げて逃げて生き延びる事が出来る。そうやって生き延びてきた」


「……嫌な、感じがします。お母さんが、ドラゴンの群れに飛び込みそうな気がします」


 アクアマリンは同じことを言った。

 勘が鋭い。

 俺の役割を見抜いたか。


「アクアマリン、大丈夫だ。そうだ、終わったら何かご褒美をあげよう」


 残りの3人が俺を見た。


「……4人全員にご褒美をあげよう」


 俺を掴むアクアマリンの手にそっと手を添えると、アクアマリンの手から力が抜けた。

 やっと、俺の服を放した。


「約束しよう。帰って来る」


 俺は皆の背中を押して、部屋から出した。

 俺はまた、アクアマリンの質問に答えなかった。


 ベッドに入って目を閉じる。


 こんなに心配されたのは、昔4人で戦った時以来かもしれない。


 あの時、俺は、もっと弱くて、よく、心配されて……




 ◇




 ドラゴン戦前日でも、眠れるものだ。


 体の調子がいい。


 厄災の呪いは消えた。


 装備を一番良い物に変える。


 昔使っていた剣を取り出す。


 ダイヤグラム。

 剣でサーベルのように刃に反りがある剣で軽めに作られている。

 刀身には細かい線が網目のように張り巡らされている。

 ダイヤグラムの青い輝きで昔を思い出す。



 街の外れに立って空を見上げた。


 レッドドラゴン・カイザーの周りを125体のレッドドラゴンが飛んでいる。


 カイザーは街の近くで地面に降りた。

 それに続くように他のレッドドラゴンも地面に降りて止まる。

 何かを察したのかもしれない。


 カイザーがもっと傲慢で突出して前に出てくれれば一気にドラグが倒す事が出来た。

 そうなれば後は全員でレッドドラゴンに総攻撃をかける事が出来たかもしれない。

 俺達4人が前に出る。

 後ろからアクアマリン達は心配するような目で俺を見る。

 ニャリスは相変わらず配信を行っている。

 変わらないな。


 ドラグが俺を見た。


「イクス、カイザーが突っ込んで来なかった。あいつだけおびき寄せることは出来ないか?」

「無理だな。カイザーは何かを感じて、多分ドラグのやばさに気づいた。1体だけで馬鹿みたいに突っ込んでくることは無いだろう」


『なんか、いつもと雰囲気が違う。こっちまで緊張して来た』

『俺もだ、さっきから手に汗が出ている』

『レッドドラゴンが連携してるのが怖い』

『お母さんの声がいつもと違う。声や表情でやばさが伝わって来る』


「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


『何十体かこっちに向かって来るぞ』

『25体だけで襲い掛かって来た』


 やはり、カイザーは慎重だ。

 俺達の様子を見る気か。

 しかも、仲間を捨て石にしている。


「飛んでくるか。イクス、1人で突撃してくれ」


『お母さんだけ?冗談だよな?』

『いや、ドラグの目がマジだ』


「じょう、だん、ですよね!お母さんだけ!おかしい!おかしいです!」


 アクアマリンが叫んだ。


「こんなのひどいよ!」

「わたくしも納得できませんわ!」

「皆も怒ってるよ!」


 俺は4人を見た。


「静かにしてくれ」


 4人が俺の迫力で後ろに下がる。


『今日のお母さんは怖い』

『そりゃドラゴン戦だからな』

『今回厄介なのはカイザーより125体のレッドドラゴンだ』

『ドラグとカイザーの1対1、出来ればアクリスピとドラグVSカイザーに持ち込みたいらしいからな』


「イクス、突撃だ」

「分かっている」


 俺は前に出た。


 25体のレッドドラゴンが飛んで街に迫る。


 俺は風魔法で空を飛ぶ。


 そして、ダイヤグラムを抜いた。


 青い刀身が光り輝く。

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