第44話

 歩くと子供が声をかけてきた。

 確か、奴隷として買って奴隷解放をした子だ。



「イクスさん、おはようございます」

「おはよう。いい天気だな」

「え?え?雪が降っていますよ……寒くないんですか?」


「ああ、修行したから大丈夫だ」

「凄いんですね」


 そう言って少し動きにくそうな防寒具を着たままギルドに走って行く。


「い、イクスさん!風邪をひきますよ!」


 受付嬢が後ろから声をかけてきた。


「問題無い」

「頭に、雪が積もっています」

「ああ、失礼した」


 俺は雪を払い落とす。


「いえ、そうではなくて、寒くないんですか?」

「調子がいいくらいだ」

「呪いが、消えました?」

「そうだな」


「でも冬ですよ?」

「昔、修行をしたからな。寒くは無いし、防寒具を持っていない」

「皆には十分な防具を与えてイクスさんは最低限で済ませるんですね」

「いや?俺はミニマリストなだけだが?」


「ミニマリスト!え!そういう問題じゃない気がします」

「む、話し込んでしまった。遅刻をさせてしまうか。今からギルドに向かうだろ?今は人が少ない、力を使うには都合がいいか」

「そうですけどゆっくりでも大丈夫ですよ」


「大丈夫でも、使いたい気分だ」

「わ、分かりました」


 俺は風魔法で俺と受付嬢を空中に浮かせる。

 そして炎魔法で温かい風を作り循環させた。


 ギルドの入り口に飛んだ。


 


 受付嬢がギルドの扉を開けると俺が入って行く。


「ありがとうございます。まだ営業時間前ですが、イクスさんなら入ってもいいでしょう」

「うむ、早すぎた。お詫びに暖炉の火をつけておこう」


 俺はストレージから薪を取り出して巨大な暖炉に放り込んだ。

 そして炎魔法で一気に火を付け、薪を最大火力に持って行く。


「わあ、凄く暖かいです。才能の無駄遣いですね」

「うむ、勢いよく燃やしすぎた。力が有り余っているようだ」


「営業時間前か、街を歩いてくる」

「え?え?用があるなら聞きますよ?」

「いや、今用は無い。みんなの様子を見に来たが、早すぎたようだ」

「そうですか。子供みたいなことを、いえ、失礼しました」

「はっはっは、自覚はある。大丈夫だ」


 俺はギルドを出て街を歩く。

 いつの間にか、奴隷解放の為に買った土地にたどり着いた。

 ここには奴隷と元奴隷が住んでいる。

 最近奴隷解放をされた子が増えた。


 子供が出てくる。


「あ!イクスさんだ!」

「お母さんが来た!」

「お母さんって言っちゃかわいそうでしょ!」

「そうだよ、イクスさんがいる前で言っちゃ駄目なんだよ!」

「ええ、アクアお姉ちゃんはお母さんって言ってるよ」

「アクア姉は良いの」

「シー!聞こえるよ!」


 全部聞こえている。


「寒くないの?」

「修行をしたからな」


「修行をすると寒くないの?」

「修行にもよる」

「修行をすれば僕も寒くなくなる?」

「そうかもな。でも、時間がかかる」


 アクアマリンが出てきた。


「ご主人様、おはようございます」

「ああ、おはよう」

「所でアクアマリンの奴隷解放だが」

「今日は暖かいシチューがあります。一緒に食べましょう」


「そ、そうだな。それでアクアマリンの奴隷解放だが」

「あ!呪いが治っています!」


「あ!本当だ!」

「お母さんの呪いが治った!」

「治ってる!」


 アクアマリンの言葉で子供が騒がしくなる。


「シチューを持ってきますね」

「う、うむ、頼む」


 みんなで食事が始まるが、とにかく騒がしく、アクアマリンに奴隷解放の話をする事が出来なかった。


 1人がシチューの皿を落とした。


 たくさん質問に答えた。


 椅子に座りながら二度寝をする者が現れた。


 最近風邪が流行っているらしい。


 更にニャリスがその様子を配信し始める。


「ニャリス、食事はしっかり摂ってくれ」

「食べるよ。配信をしながら」

「何も起きないぞ」

「いいからいいから」


 ジェンダとアクアマリン、そしてカノンは小さい子供の世話と風邪を引いた子供の世話をする。


「みんな忙しそうだ。配信は世話が終わってからの方がいい」


「お姉ちゃんは仕事してるよ」

「ニャリスちゃんはやってるよ」

「今だけは言う事を聞かないんだよ」

「配信の時以外はちゃんとやってるよ」


 みんなが一斉に話し出す。

 ニャリスは配信の時以外は仕事をするらしい。

 むしろ配信の時以外はまともらしい。


 こいつの配信に対する執着は何なんだ?




 食事や手伝いの様子を観察しつつスライムのダンジョンに行く。

 今日はアクアマリンのパーティーがサポートを行う日らしい。


 みんなを後ろから観察する。


「皆、寒そうだ。防寒装備を作る」

「ええええええ!お母さんがそれを言うの!お母さんが一番寒そうだよ!」


 ニャリスがゴレショを向けながら叫んだ。

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