第33話

「ニャリス、チャンネル登録者数を増やす方法を話す」

「絶対だよ!」

「絶対だ。俺を揺さぶるな、手を放してくれ」


 やっとニャリスが落ち着いた。


「受付嬢、すまない。手続きは後にしたい」

「分かりました。会議室が開いています。使いますか?」

「使う」


「アクリスピ、来るか?」

「行かない」


 だろうな。

 こいつは会議と聞いた瞬間につまらなそうな顔をした。




【会議室】


 まずはニャリスだ。

 

「おほん、ニャリスの登録者数が10万越え、カノンとアクアマリンが15万越えだ。ニャリス、2人の動画を最近見てないだろ?というか寝ずに配信と動画作成ばかりやっているから分からない」


「何?何したの?」

「結論から言う。お色気ぬるぬるで登録者数を増やした。イートトードとうな竜の粘液を浴びて何度もスリップしながら戦った。それが良かったんだろう」


「そういうこと!?」

「それと、健康な女性は人気が出る!だがお前は目にクマが出来て不健康だ。よく寝てよく食べて一緒に2人とパーティーを組んでみてくれ。それだけで15万登録を突破する」


「お色気には勝てないかあ。ミニスカ装備を新調して、うん、うん、見えて来た」


 ニャリスはチャンネル登録者数に異常な執着を見せている。


「ニャリスは解決で、次はアクアマリンだ。奴隷解放をしようか」

「い、いえ、カノンとニャリスの解放を手伝います」


「分かった。手伝うのは良いと思う。だが奴隷解放をしてからだ」


 アクアマリンは手を引っ込めた。


「……」

「……」


「ふ、2人が開放されるまでいいです」

「いや、その気持ちだけあれば十分だ。解放しよう。解放された事を動画で報告すれば100人の奴隷少女に希望が生まれる」


 アクアマリンが手を出さない。

 ええ?

 どういう事?

 意味が分からない。


 いや、まずはやる事を1つづつ減らそう。


「カノン、秘密があれば聞く」

「やめておきますわ。今は時期が悪いようですわね」

「カノン、子供が気を使う必要はない」


「気を使いますわ。ご褒美になでなでして欲しいですわ」

「うん?分かった」


 俺はカノンの頭を撫でた。


「それで、アクアマリンとカノンはCランクに上げるだろ?」

「いえ、ニャリスがCランクになってから上げます」

「わたくしもそうしますわ」

「お前ら、大人すぎるだろ」


「みんな、ありがとう!私のチャンネル登録者数を増やすのも手伝ってえええええ!!」

「ニャリスは遠慮しないのか」

「いいですわよ」

「私も大丈夫です」


「あ!」

「どうした?」

「ぬるぬるになるには、アクリスピが使っていたアイテムで魔物をおびき寄せる必要があります」

「無理して魔物をおびき寄せてぬるぬるにならなくてもいいんだぞ?」

「ええ!困るよ!ぬるぬるになろうよ!特にアクアマリンはぬるぬるぬならないと駄目だよ!!」

「いやおかしいだろ!言っている事がおかしいだろ」

「ですが、3人で戦うなら魔物が少ないと物足りませんわ」


「パープルメアの特性アイテムより威力は落ちるけど、俺のがある。使ってくれ」


 俺は魔呼びのポーションを箱で取り出した。


「おお!助かるよ!」


 アクリスピは沼地に飽きているようだった。

 ニャリスが加入するのはちょうどいい。

 このタイミングでアクリスピはパーティーから抜けるはずだ。


「ニャリス、今日は休んでくれ。不健康だと登録者数が伸びにくくなる。あれだ、不健康だと魅力が落ちる。魅力が落ちると登録者数が伸びにくくなる」


 ニャリスにはここまで言っておかないと駄目だろう。


「うん、今日は眠るよ」

「俺は奴隷少女の困りごとを聞いて回る。今日はもう終わりで良いな?」


「色々助かりましたわ」


 カノンが礼をした。


「ありがとうございました!」

「またねえ」


 小さいカノンが一番大人に見える。

 みんなが困っている事を聞いて回ろう。

 その日は相談を受けて終わった。




【次の日・ギルド】

 

 ニャリスは防具を変えていた。

 全身タイツから水着のようなスカートのついた防具……男性登録者数を取りに行く気だ。

 完全に配信を意識した沼地仕様だ。


「ニャリス、恥ずかしくないか?」

「恥ずかしいより登録者が欲しい!!」


「そ、そうか。気をつけてな」

「行ってきますわ」

「行ってきます!」

「えへへへ!登録者、ゲットだぜえ!」


 大丈夫か?


 俺はギルドの中で歩き回る。


 思わずギルドカードから配信の様子を伺った。


 3人が沼地に向かって走る。


『おお!ニャリスの装備が好きだ!』

『ワイもあんなスタイルになりたい』


 コメントが少ない。

 皆配信に集中しているのだろう。

 賢者のごとく。


『みんなあ!今から沼地に行くよ!でも沼地はもう飽きたかな?』


『沼地一択すぎる!!』

『沼地以外ありえないです。アサルトアントは危ないから沼地がいいですよ』

『沼地は泥だから滑っても痛くないし安全ですよ。たくさん転んで失敗して強くなりましょう』

『沼地希望』

『沼地以外の選択肢はありますか?無いですよね?アサルトアントはキャプテンが危ないですし、群れで襲い掛かってきて死ぬかもです。トレントは狩場が遠くて効率が悪いです。スライムは初心者がいっぱいいます。泥にまみれる事を嫌がっていては大成できませんよ。どんどん転んで、粘液にまみれる下積み期間は皆を成長させてくれます!沼地一択ですよ!』

『みんな必死すぎてウケる』


 ニャリスの言葉により一気にコメントが流れる。

 

『いいねえ!しばらく沼地で特訓するよ!じゃーん!秘密兵器!お母さんから魔物を呼びよせるアイテムをいっぱい貰ってあるよ!』


『ここで修業しろ、そういうメッセージですな』

『うな竜に挑むニャリスは立派だ』

『イートトードも楽しみにしています』

『安心して見ていられるのはいいですな』

『うな竜を食べながら配信を見たいぜ』



 ニャリスが進行しつつ沼地にたどり着く。


『おりゃあああああ!』


 ニャリスが魔物を呼びよせるアイテムを3つ投げた。

 

「あ、1つだけ投げろよ」

「ふふふ、魔王さん、本当にお母さんみたいですね」


「わあ、イートトードがいっぱい集まってきましたよ」


 受付嬢は髪をかき上げて俺のギルドカードを覗き込んだ。

 胸が当たってるんだけど、言うと俺だけ意識しているみたいになる。

 俺は冷静を装い、動画を見続けた。


 受付嬢は集中して配信を見続けている。


『前に出ます!』


 アクアマリンが前に出る。

 そしてカノンも前に出た。


『サンダーチェイン!』


 雷撃が連鎖するように他の魔物に感電して一気に複数のイートトードを痺れさせた。


『今です!』

『いっくよおお!おりゃああああ!』


 ザンザンザンザンザンザン!

 バシュンバシュンバシュンバシュン!


 イートトードが全滅した。


『魔物が足りない』

『もっと奥に行かないと駄目だね』

『ここはまだ戦うべき場所ではない』


『そうだね!もっと奥に行こう!』


 3人は奥に入って行く。

 そしてニャリスは魔物を呼びよせるアイテムを5本投げた。

 だから投げすぎだ。



『来たよ!うな竜18体!』

『後ろからイートトードも来ますわ!』


『アイス!』

 

 アクアマリンが氷の塊をうな竜にぶつけた。


『ハイサンダー!』


 更に雷撃で追い詰める。


『いっくよおおおおおお!』


 ニャリスの銃撃でうな竜が倒れる。

 連携は悪くない。

 いいパーティーだ。


 魔物を追い詰め、全滅させていく。

 



 ◇




『はあ、はあ、終わり、ましたわ。はあ、はあ、』

『はあ、はあ、疲れ、ました』

『はあ、はあ、これで、配信を、終わるよ。はあ、はあ、じゃあ、ね』


 3人とも粘液と泥で汚れたまま息を切らしながら配信が終わった。

 ニャリスがはしゃぎ過ぎた部分以外は良かった。


 ニャリスからメッセージが来る。


『帰ったらシャワー下さい』

『分かった。次から魔呼びのポーションを投げすぎるのはやめろ』

『ごめんね』


 俺は帰って来た3人にシャワーと温風乾燥をして休ませた。




【カノン視点】


「出かける前よりきれいになりましたわ」


 服を脱ぎ、腕輪を外した。


 少女の姿から大人の姿に変わる。

 粘液のおかげか肌がつるつるして潤いがある。


「秘密はお預けで、もう少しこのままでもいいですわね。ふふふふふ」


 私は鏡を見て腕輪を付け、少女の姿に戻った。



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