第28話

 俺は次の日からアクリスピに2人を任せて動画作成に取り掛かった。




 ◇



 俺はハイファイアの威力を調整してスライムを倒す。


「くっくっく、ファイアではない!これはハイファイアだ!」


 テイク13で、やっと納得のいく動画が撮影出来た。

 編集もばっちりだ!

 丸一日かかり、動画をアップした。

 動画をチェックする。



 俺は薄暗い部屋に一人で座る。

 テーブルにはどくろ型のキャンドルを2つ置き、どくろの頭が燃えている。

 どくろキャンドルは手作りだ。


『くっくっく、魔王だ。今日からお前たちに炎魔法講座を行う』


 俺が話すたびにどくろの炎がゆらゆらと揺れる。


『俺はDランク冒険者だ。そんな俺でも死なずに生き残る事が出来たのは遠距離の攻撃手段を持っていたからだ。これから炎魔法について解説していく。くっくっく』


 俺はリンゴを取り出して不気味な笑顔を浮かべながらシャリ!っといい音を鳴らしつつリンゴをかじった。

 そしてカメラ目線で更に笑う。

 画面が切り替わる。


 動画は明るい日中に切り替わる。


『ここはスライムのダンジョン、の前にある場所だ。ここにはスライムが出てくる。いくら魔王と言えどDランク冒険者の俺にとって魔物に囲まれる事は脅威だ』


 Dランク冒険者である事実を全面に押し出しつつ進行を続ける。

 スライムのダンジョン前であることもポイントだ。


『あそこにスライムが1体いる。まずは見て貰った方が早い』


 俺は小さな炎を飛ばしてスライムを倒した。

 そして言う!あの決め台詞を!


『これはファイアではない!ハイファイアだ!!』


 俺は笑顔を作った。


『くっくっく、ファイアだと思ったか?そうではない。ファイアの上位魔法、ハイファイアだ!このようにDランクで才能がない俺は見栄を張らず、確実に倒せるハイファイアを使ったのだ!!!』


 キリ!

 俺は決め顔をして炎魔法の解説が始まる。



 俺は動画を閉じた。


「ふ~!やりきった!」


 頑張った自分を褒めてやりたい。


 嘘も500回言えば真となる。


 俺の弱さをアピールするいい動画になった。

 魔力の弱さを証明するのは難しい。


 アクリスピに一言で論破される事は無いだろう。


 今日は眠ろう、動画を作っていたら暗くなってしまった。








【次の日】


 俺は動画のコメントをチェックした。


『いやあ、笑わせて頂きました。流石魔王様です!』

『ウケる!あの決め顔は無いだろwwwwww』

『いつもネタ動画、楽しく見させていただいております』


 うんうん、そうだろう。

 反応は予想通りだ。

 俺はコメントを読み進めていく。


『さすがお母さん、強者だからこそできる余裕、感動しました』

『魔王の底が知れない!マジで怖くなってきた!』

『さすがお母さんです。見栄を張るな、このメッセージが心に響きました。尊敬しかないです』

『ちっちゃくておっきい人から来ました。アクリスピとパープルメアの解説が無ければ、私はお母さんの凄さが分からなかったと思います』


 ん?んんん?


 俺はすぐに他の動画をチェックした。


 アクリスピ、お前か。


 またお前か!


 タイトルを見る。


『(ファイアではない!ハイファイアだ!)お母さん魔王は諦めが悪い。自分を弱く見せようと必死なのがバレバレ』


 これだ。

 絶対にこれだ。


 動画を見る。


 パープルメアとアクリスピがリモートで話をしていた。

 窓が暗い、アップ時間を見ると俺がアップしてすぐに潰しに来たことが分かる。


『パープルメア、お母さんの動画、見た?ファイアの件』

『見たわよ。もう何をやっても無理なのにね。諦めないあの性格を奴隷解放の為に使って欲しいわ』

『ん、色々ばらして、お母さんに社会貢献をさせる。変な事をしたら、すぐ潰す』

『ふふふ、悪い顔してるわよ?』



『お母さんハイファイアの解説、頼んでいい?』

『いいわよ。結論から言うわね。レベルの高い高度な魔法使いは魔法の威力をあげる事も下げる事も出来るわ』

『そう、つまりお母さんの弱い弱い詐欺』


 アクリスピ!やりやがった!


『もっと言うと詠唱時間無しで、皆に見えないように魔法を使えるのはかなり高等技術よ。それを出来るお母さんが弱い魔法しか使えないはおかしいわね。これで騙せるのは子供だけね』


 やめろ。

 俺が弱いと思っている=バカの構図を作るな!


『それにアサルトアント・ソルジャーキャプテンを一瞬で倒せるお母さんの魔法が弱いのもおかしいわ。他の動画を見ればすぐにわかる事よ。騙される子はいないと思うけど』


 やめとけって!

 お前の発言で騙されなくなるんだ!


『魔法の威力を押さえられる、それは魔法を自由にコントロールできるという事よ。魔法の最終形態は一瞬で、自由自在に魔法を使う事よ』


 パープルメア!やめとけって!


 パープルメアが手の平に炎魔法を発生させて炎をハート型に変えて、その後鳥の形に変えた。

 その後炎を大きくしたり小さくしたりして強弱もコントロールする。


『こんな感じね。初心者はただ炎を撃ちだすのが精いっぱいなの。威力調整はあまりできないわ。でも熟練の魔法使いは魔法を自由に使えるのよ』

『お母さん、偽装は無駄、あきらめて奴隷を助ける事に力を使うのが賢い選択』


『私は色々な魔法を使えるけど、お母さんみたいに自由自在に使うことは出来ないわ』


 その後俺の動画を再生しつつ2人で俺の動画を笑う。

 完全にやられた!

 終わった。


 もう切り抜き動画も上げられている。


『悲報、お母さんの弱い弱い詐欺がバレる。これは高度なハイファイアだ!キリ!』

『お母さんのハイファイア、無限ループ』

『ハイファイア!お母さんは魔王だった。魔法の最終形態は一瞬で、自由に使う事よ』


 批評チャンネルでも俺のネタが取り上げられていた。

 動画を再生する。


『お母さんは諦めない力を奴隷解放に注いだ方がいいですよ!!その方が社会の為になります!!才能の無駄遣いですよ!!!』


 動画を閉じた。


「ふ~!」


 落ち着こう、一旦まとめよう。


 今まで何がバレた?


 俺の過去がバレて、奴隷講座の目的も俺の実力も素顔もバレた。

 ……だが、もう隠す事は何もない。


 今後何か動画をあげればアクリスピがすぐにカウンターを食らわせてくる。

 ネット時代になって隠蔽できなくなった。


 時代が変わってしまった。

 買った3人の奴隷は皆優秀だった。

 もう結果が見えている。


 次は……奴隷を買うか。


 俺はギルドに歩き出した。


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