第12話

「う、うっかりしていた。今日は帰って休むのだ」


 俺は速足でギルドに帰り、魔物の処理をお願いしてギルドを出た。

 ギルドを出て宿屋の部屋に入り扉を閉める。


「くおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 部屋に入って一人で奇声をあげる。


 まずいまずいまずい!

 俺は何を話した!


 全部駄々洩れか!


 投げ銭がたくさん飛んでいるが無視して動画を確認した。

 



 顔が赤くなる。

 恥ずかし!

 恥ずかしすぎる!


「くおおおおお!」


 俺はベッドに入ってゴロゴロと転がる。




 俺は朝になるまで俺・アクアマリン・アクリスピ・パープルメアの動画を狂ったように見て策を練り続けた。




 ◇




【次の日の朝】


 俺は宿屋でコーヒーを貰いに行く。


「おはようございます。魔王さん、今日は早いんですね」


 宿屋の娘が元気に声をかけて来た。



「ああ、おはよう。すまん、コーヒーを頼む」


「はいはい!」


 コーヒーを飲んで落ち着く。


 昨日寝ずに考えた結果、無理だな、リカバリーできない。


 俺のチャンネルを見ると投げ銭が飛んでいる。

 動画チャンネル自体にコメントとレビュー、そして投げ銭を送る事が出来るのだ。


 1万ゴールド

『魔王さん、応援してます』


 いやいや、一気に1万ゴールドとかおかしいだろ。

 コメントを見ていく。


 1万ゴールド

『前にイクスさんに助けて貰った者です。まだ駆け出しですが気持ちを受け取ってください』


 駆け出しならまず自分の装備を揃えろ!


 10万ゴールド

『奴隷は良くないと思うので少しでも役に立ててください』


 10万、だと!


 10万ゴールド

『くっくっく、金貨の殴り合いだ!』


 5万ゴールド

『実際に奴隷を買うのは無理ですが応援は出来ます。使って役立ててほしいです』


 こうして今も投げ銭は続く。


 俺の登録者数は20万人を超えて投げ銭は1000万を超えた。

 アクアマリンの登録者数を増やすのが目的だが俺の方が増えている。

 おかしい。


「お代わりはいりますか?」

「ああ、頼む」

「大人気ですね。私も見てますよ」


「……そうか」

「仮面は外さないんですか?すっごくいじられてますよ?」

「検討しよう」

「顔がもやもやしててすっごく目立ちますよ?」

「検討しよう」


「仮面を外しても笑われちゃいますよね?」

「そうだな」

「でも顔を見せて少しすれば落ち着くと思いますよ?」

「うむ」


「食事の用意をしますね」

「頼む」


 そう、俺はネットで話題にされている。


 パープルメアの500万人登録はマジで影響力が大きい。

 アクリスピはパープルメアとちょくちょくコラボしてダンジョンでは無双している。

 登録者数が伸びないわけがない。


 2人はたまに俺をネタにしてアクリスピは直接俺に絡んでくる。

 もうすでに切り抜き動画が出回っている。

 切り抜き動画は自動的に収入の半分が俺に来るが、俺の動画は少ないはずなのにすでに切り抜きや解析動画が大量にアップされている。


 昨日の放送事故動画を消しても手遅れだ。


 俺が改変した英雄の話も覆されつつある。


 隠せない。

 隠せない前提で考える。


 今は奴隷はいるにしてもそれ以外は平和な時代だ。

 かつて暗黒の時代、批判を受けた権力者は何をやったか。


 そう、あの手で行こう。


 俺は食事を摂ってギルドに向かった。




 ギルドに向かうと中が騒がしい。


「こんなに美人になるとはな。流石魔王様だぜ」

「小さくても可愛い顔をしてたわよね。進化すれば可愛くなるのよ」

「これならすぐに借金を返せるんじゃないか?」


「なんだ?何があった?」

「魔王か、アクアマリンを見て見な。見た方が早いぜ」


 アクアマリンが大きくなり、大人の女性になっていた。

 装備が合わない為かバスローブを着ている。


 そして、たくさんの食事をテーブルに置き食べつくそうとしていた。

 アクアマリンが俺に気づく。


「ご主人様、私、進化しちゃいました」 


 新しい事を始めると、いつも予想外の事が起きる。

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