第6話_山野井は女に興味がない

「上原さ~ん。いま昼メシですか?」

会社のオープンスペースでひとりパンを食べていると

山野井が話しかけてきた。


近くの席で弁当を食べていた女子社員グループが

山野井の声に一斉に顔をあげる。


山野井は整った顔立ちと長身、明るい性格なので

社内の女子に人気がある。


山野井は

「うわ、リナちゃん。美味しそうなお弁当だね~っ

はるなちゃん、それ手作り?すごーい」

などと、女子社員にちょっかいを出している。


「山野井さん、卵焼き食べますかー?

これ自信作なんですぅ」

などと、楽しそうにやり取りしている。


さすが山野井。

俺にはできない芸当だ。


話しやすくて明るくて、しかもイケメン。

しかし一切、浮いたウワサがない。


まあまあモテるのに彼女がいないので

「なぜだろう」と俺も思っていたのだが。


この間の夜で、その謎が解けた。

ヤツは女には興味が無いのだ。


告白してキスまでしてきたくせに、

あいつは、その後も平然と俺に接してきた。


案外、気に入ったヤツがいれば

すぐに、ああいうことをしてるのかもしれない。


どうやって傷つけずに断ろうかと考えていたんだけど、

真面目に受け取る必要はないのか。


あの夜のことは、無かったこととして

胸にしまっておく。

優柔不断で人を傷つけたくない俺にとって

それはベストな選択だった。


山野井は、ひととおり女子社員と楽しんだあと

俺のほうにやってきた。

「上原さん、何食べてるんですか~」


「みれば分かるだろう。パン食ってる」

コンビニで買ったパンを見せる。

ジャムパンひとつ食べたら、仕事に戻るつもりだった。


「えっ?昼、それだけですか?

うわー、僕なら1時間後にまた腹減りそう」


こいつからかってるのか?


「お前みたいに痩せの大食いじゃないから。

俺は、燃費がいいの。なんか用?」


「あっ、そうそう!香苗ちゃんから連絡があって。

今度四人で遊びませんかとか言ってるんですけど」


「4人って、梨央も?言ったよね、俺、梨央と別れたって」


驚いた。

俺と会って、梨央は気まずくないんだろうか。


「向こうが会いたがってるし。いいんじゃないですか?

向こうは友達としてこれからも仲良くしたいって」


山野井は何かと「女子と友達」みたいなことを、すぐに言うけど。

俺は女との友情なんて、あり得るのか?と思ってる。

とくに別れたあと友人関係になるとか、

そんなことあり得るのだろうか?


しかも山野井は、仮にふざけていたとしても、

俺に告白をしてきた。

その告白した相手が付き合っていた彼女と

再び、つながりを持たせようとするとは

どういうことなんだろうか。


これってなんだか、ややこしくなりそうな気がするんだけど?

ていうか、すでにややこしい?


とにかく山野井の考えかたは理解不能だった。


それでも俺は梨央にもう一度会いたいと思っていた。

だから

「いいよ」

と返事をしてしまったのだった。


別れた彼女と、たぶん俺のことが好きな男。

そんなメンバーで絡むなんて

どう考えてもおかしいのに。


俺は、やめておけばいいのに

泥沼のなかに足を踏み入れてしまったのだった。


とりあえずは、仕事終わりに4人で飲もうということになった。

梨央はまだ19歳だから酒は飲めないが、香苗さんは20歳になったらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る