第4話_告白のあとで

「ずっと好きでした」

山野井は俺の目を見つめて、そう言った。


「えぇ?」

聞き間違えたかと思い、マヌケな声が出た。


「上原さん僕と付き合ったらラクですよ。

いくらでも甘えさせてあげるし、

上原さんの都合のいいときだけ会えばいいんだから」

山野井は、そんなことを言う。


「とりあえずお前、シャワー浴びてきたら?

頭冷やしたほうがいいって」


「頭はスッキリしています。

失恋した上原さんにつけ込むようで悪いけど。

こんなチャンス逃せないし」


「失恋?」


なぜか山野井は、俺が梨央に振られたと思っているようだった。


「とりあえず水を飲んで酔いを覚ませ」

俺はミネラルウォーターを山野井に手渡した。

「酔っ払ってるのは上原さんのほうでしょう?」

山野井は、くすっと笑った。


困惑しつつも俺は落ち着いていた。

男に告白されたのはこれが初めてではなかったからだ。

学生時代、男子校だった俺は、空手部の先輩に告白された。

クラスのやつにも好きだと言われたことがあるし。

わりと慣れていたのだ。


しかし俺は、山野井がそっち系だということに

全く気づかなかった。

だから困惑した。


空手部の先輩は俺のことを「可愛い」とか言っていた。

山野井も俺のことをそんな風に思っていたのだろうか......。



「山野井。そうだったのか」

「そうです。上原さんは気分悪いですか?

絶対、無理!受け付けない!って人、結構いるじゃないですか」


「いや。そんなことないけど」

山野井を傷つけたくはなかった。

梨央に引き続き山野井まで。

自分の言動で、人を不幸にするのは、嫌だった。


俺は誰にでも好かれたい。

そんな気持ちが結構強い。

人に嫌われたり、嫌な気分にさせることを

できるなら避けたい。


相手になるべく好感は持ってもらいたい。

八方美人で優柔不断。


「蓮は優しいね」

そんなふうによく言われるけど。


優しいわけじゃない。

人から嫌われないようにして自分を守る。

俺は自己中で弱い人間なのだ。


梨央と別れたのだってそう。

これ以上付き合ったら、梨央に嫌われてしまう。

そんな予感があった。


別れることで結局、傷つけることになってしまったのだが。


いくら傷つけたくないと言っても、

山野井を、そういう対象として見れるか?

と言われると、想像できなかった。


「上原さん」

黙り込んだ俺をみて、山野井は「良い返事」

と思ってしまったのだろうか。


ヤツはジリジリと俺の方に近づいてきた。

俺も床に座ったまま、後ずさった。


背が高い山野井は威圧感があった。


「山野井!考えさせて欲しいんだけど」

壁際まで追い詰められた俺は山野井に懇願した。


ヤツは俺の頬に触れて、ニヤリと笑った。


「上原さんは押しに弱い。

だからグイグイ来られると断れないですよね

僕はそれを利用してしまう。

悪いなと思うけど好きだから、そうするしかないんです」


そのまま、何かを語り続けるのかと思ったのだが

山野井は素早く俺にキスをした。


あっという間の出来事だった。


「今日は帰りますね。

このまま泊まったら、止められそうにないから」

山野井はそんなことを言いながら、俺のアパートから出ていった。


山野井が出ていってくれて、心底ホッとした。

確かにグイグイ来られたら、

俺はハッキリ断ることができただろうか。


そのときの俺は山野井に対し、

傷つけないように断るしかないなと思っていた。

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