第2話_初めてのキスで

れんさんの家に行ってみたい」


あるとき

彼女はそんなメッセージを送ってきた。

彼女から「デートの行き先」を提案してくるのは

珍しかった。


俺の家かぁ。

一人暮らしだから遊びに来てもらうのはかまわないんだけど。

そのころ、めちゃくちゃ忙しかったのもあり、

俺の部屋は荒れ果てていた。


掃除機かけたのいつだっけ。

そんなレベルだった。


だから

「外で会わない?俺の部屋、散らかってて」

って返事を送った。

そしたら

「片付けてあげるのに」

って言ってくれた。


「いや、引くレベルで散らかってるから恥ずかしい」

って、ちょっと大げさに返事しといた。


彼女が部屋に来るのを拒絶する理由。


まだ彼女に手を出す気になれないから。


部屋が散らかってるっていう理由の他に

これも、彼女を部屋に呼びたくない理由だった。


部屋に入れたら当然、彼女に手を出すことになる。

彼女が部屋に遊びに来て、なにも起きないわけがない。


梨央の見た目とか中身がもう少し「遊んでる風」

だったら良かったのかもしれない。


だが彼女は見た目が地味で、

いかにも真面目そうな子だった。


しかもまだ19歳。

梨央って誕生日いつなんだろう。

20歳過ぎたら、なんとなく大丈夫な気もする?


唐突だけど聞いてみた。

「梨央って誕生日いつ?」

「12月20日、まだまだ先ですよ?」


そのとき5月だった。

ほんとに、まだまだ先だな、と思った。

成人年齢は過ぎてるけど。

部屋に入れるのに、どうも抵抗を感じた。


なんでこんなに、抵抗を感じるのだろう?

そう。

原因はあれだ。


3回目のデートだった。


カーシェアした車でちょっと遠出した。

千葉の方まで行ってイチゴ狩りした。

今思えば、俺もけっこう頑張ってたよな。

イチゴ狩りだなんて。


それなりに彼女を楽しませようと頑張っていたんだ。

でも考えてみたらこのイチゴ狩りデートをさかいに、

力尽きた気がする。


その直接の原因。

イチゴ狩りの帰り、別れ際。

彼女の家の前まで車で送った。


「楽しかった、送ってくれてありがとう」

と彼女が言った。

俺は彼女をじっと見つめ返した。


お互い無言になって、そういう雰囲気になったと感じた。


シートベルトをサッと外して、彼女の方に身を寄せた。

優しく髪をなでて、頬に触れて、そっとキスをした。

舌とか入れてない。

ほんの軽いキスだった。


だけど彼女は目をぎゅっとつぶって、かなり緊張してた。

ヤバいなって思った。


彼女はこういう経験が無いんだって思った。


それで、いよいよ「これは手が出せない」って思った。

そこから、忙しくなったのもあって、

デートの間隔が空いていった。


要するに頑張らなくなった。

力尽きた。


男慣れしていて平然としてるのも

ちょっとな、って思うんだけど、

あまりにも緊張されると、俺も疲れる。


「初めて」とか「緊張してる」とか

そういう様子を可愛いなって思う余裕がなかった。

「これは重そうだ」って感じてしまった。


俺が悪い。

俺自身に懐の深さというか、

大人の余裕がないのが、一番の原因。

26歳にもなって、情けない。

落ち込んだ。


彼女をリードするのも、彼女に対して甘えたり弱音が吐けないのも、

そしてやたらと緊張されるのにも、疲れてしまった。


彼女はなにも悪くない。


だったら、なんで付き合った?

って言われると耳が痛いんだけど。


付き合ってみないとわからないことって結構あると思う。

ある日のデートのとき、別れ際。

「俺たち別れようか」

とうとう、彼女に告げてしまった。

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