四人一組


 腕相撲が終わり、二人で外に逃げ出たが視線が痛かった。


「視線が辛い視線が痛い視線が辛い…」


 ユーリがシノの髪を使って顔を隠そうとする。


「私も一回戻ってちょっと鎧を着たい…」


 共に顔を隠しながら賞品のある所へ二人で向かっていると、物欲しそうに酒を見つめる男がいた。そう、三回戦でユーリに圧勝したあの小柄な男だ。ユーリは酒に興味がなかったので、自分に勝った男に譲ろうと思い声をかける。


「あのぉ…、お酒が欲しいんですよね?」


 男に声をかけると、彼は勢いよく振り返ってきて「そうなんだよね」と笑った。


「お金はあるんだけど、僕お小遣い制でさ…お酒買いすぎて仲間に全部取り上げられちゃって。お酒が賞品だというこの大会のチラシを見て、自分の体で稼ごうと参加したら登録が無いと出られないって言われちゃってさ」


「君、優勝した子だよね?おめでとう」


 そう言うと男はまた笑った。


「ありがとうございます、お強いんですね。私なんてまだまだで…良かったらお酒いりますか?」


「えっ!?いいの?」


 男が食いつくように返事し、ユーリの手を握る。


「あ、はい。私、貴方に負けちゃったんで」


 男と話をしている最中、ユーリは既に集まる騎馬戦の選手達に目がいった。その時、ある考えが過ぎる。


「あの…ちなみに冒険者だったりしますか?」


「なんで?」


「この後騎馬戦があって、私のチームは一人足りないんです。Dランク以下の人しか出られないんですけど…良かったらお酒が賞品なので出ませんか?」


 男は少し考えると二回頷いた。


「なるほど…いいよ!僕も冒険者には、最近なったんだよね!冒険者登録をした国はこの国じゃないんだけど、それでもいいなら僕はまだGランクだよ」


 Gランクと笑う彼だがそんな訳は無い。ユーリは最近Gランクの昇格試験を飛ばしたばかりなので内容は鮮明に覚えていた。他の国で冒険者登録をした冒険者という事は、確実に都市結界から出ているはずだ。

 男は近くの係員に何かを伝え、話終えると戻ってきた。


「他の国で登録していても、Dランク以下なら大丈夫らしい!僕は問題ないってさ、仲間に入れてくれるかい?」


「Gランクというのは嘘じゃない?他の国から来たと言う事は都市結界から出ているはず。Fランクへの昇格条件は都市結界から出る事です」


 ユーリが思っていた事をシノが代わりにズバッと切り込む。男は少し考えると


「どうやら国によって昇格条件が違うらしい。僕がFランクに上がる為の条件は魔法でスライム2体の討伐だから」


「なっ!?」


 シノは彼の言葉に驚く。それもそのはず、この国のEランクへの昇格条件より他国のFランクの昇格条件が難関というからだ。


「まぁまぁ!どうやらそちらのお嬢さんも質問が沢山あるみたいだ、だけど時間があまりない気がするのは僕だけかな?」


 ユーリの方を見ながら男はウインクをした。男の言う通り、ユーリは気になることがいくつかあった。彼の馬鹿げた魔力量と、この国より危険な昇格条件。それはおそらく彼が同郷アクロトから来たということだと推測する。あの国なら有り得る。


「それで?もう一人の仲間は何処にいるのかな?」


 男はキョロキョロと人混みを見渡す。男の話に夢中になり、アリエルの事をすっかり忘れていた。


「おや?まさか彼だったりする?」


 男が指した指の先に、もみくちゃにされながら手を振るアリエルの姿が見えた。


「そうですね」


 ユーリは男に返答しながらアリエルに手を振り返した。


「何!あの見た目で彼は治癒師なの?面白いね最高!」


 そう言いながら笑う男に、初見でアリエルを怖がらない度胸に二人は感心する。


「二人ともお疲れ様やで!おじさん感動したわ!!……この人ってユーリちゃんに勝った兄ちゃんやんけ、どないしたん?」


 アリエルはすごんでいる訳では無いのだが、知らない人から見ると脅している様に見える。


「そのサングラスカッコイイね」


「めっちゃええ人やんけ…」


 無邪気に笑う男にアリエルは照れる。


「この後の騎馬戦に出場しようと思ってて、そこでスカウトしました」


「なるほど?でも三人じゃ一人足りんくないか?」


 アリエルは自分以外のメンバーを1.2.3と数え首を傾げる。


「あー…足りない分にはセーフらしいです」


 ユーリはあえてメンバーとチーム名を言わない。


「なるほど?おじさんも協力したいのは山々なんやけど、力ないから一生懸命応援するわ」


 小柄な男が不思議そうに首を傾げるがアリエルの見ていないうちに「しー!」と口に人差し指を当てる。すると男は閃いた顔をして二度頷いた。


「そろそろ騎馬戦の参加者の方はチーム事に集まって下さい!」


 係の人の声掛けを聞くと、ユーリは小柄な男とシノを呼んだ。


「ちょっと作戦会議をしたいので、アリエルさんは招集が締め切られそうになるまで様子みていてくれませんか?」


 ユーリはアリエルにそうお願いすると、アリエルはガッツポーズをし「まかせとけ」と言って係員の様子を伺いに少し三人から離れる。


「私の名前はユーリです、こちらはシノさん。貴方のお名前をお伺いしてもいいですか?」


「僕は…レイス。よろしくねお嬢さん達」


 ユーリは彼が名前を名乗るまでの少しの間が気になったが、とりあえず今は保留にした。


 そうして三人で打ち合わせをする。

 誰がどこの位置でどう戦うかだ。騎馬戦を唯一見た事のあるシノからアドバイスを貰い、四人の位置が決まった。


「ユーリちゃん!そろそろ行かなまずそうやで!このハチマキを頭に代表者が着けて、騎馬く組んで中に集合らしい!誰がつけるんやこれ」


「私に下さい」


 ユーリはアリエルに手を出す。


「ユーリちゃんが代表か!それがええな、いちばん小柄やもんな!頑張れよ!!」


 そう言い、アリエルは力強くハチマキをユーリに渡した。それをユーリは受け取るとアリエルの耳元で「スリプル」と囁いた。

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