第12話 おっちゃんの家族の行方

 アニスモーン伯爵家から受け取ったドラゴンのお礼は、二十万クオート分の金貨だった。オークウォーリアーを討伐して得た報酬二百万クオートもあるので、おっちゃんの娘と孫を探す活動資金は十分だろう。


 俺は町へ出て、あちこち聞き込みを始めた。商店で買い物ついでの世間話を装い、居酒屋で酔っぱらい同士の馬鹿話を装う。数日経つと、段々何が起きたのか、わかってきた。


 この町は、カーナという。

 グレアム伯爵家が代々治めていたが、政変によってグレアム伯爵家からアニスモーン伯爵家に支配者が変わった。

 アニスモーン伯爵は、税金を上げ、領民に威張り散らしているらしく、とにかく評判が悪い。政変の勝ち組だから、調子に乗っているのだろう。

 そういえば、冒険者ギルドのギルド長もアニスモーン伯爵家の執事ウォルトに嫌そうな顔をしていた。アニスモーン伯爵家は、どれだけ嫌われているのだろう。


『グレアム伯爵様の頃は良かった』


 そんな声を聞くことも多い。

 おっちゃんは、貴族としてがんばっていたんだなと感心する。


 今日は、雑貨屋で買い物をした後に、店番のおばさんと話し込んでいる。デップリと太った雑貨屋のおばさんは、俺に言葉の雨を降らせていた。


「へえ、すると、前のご領主の家族は、処刑されたのかい?」


「そうだよ! 門に吊るされたのさ! かわいそうだったよ!」


「そりゃ、むごい!」


 ああ、おっちゃんの家族は、処刑されてしまったのだ。俺が異世界に来たのは、無駄足だったか……。

 俺はガッカリして心の中で手を合わせたが、雑貨屋のおばさんには笑顔を向けるようにした。雑貨屋のおばさんは、俺の気持ちに気づかず話し続ける。


「グレアム伯爵様と奥様と息子夫婦の四人がね……。門のところに、ぶらーんと……。恐ろしいったらありゃしないよ!」


 おや?

 雑貨屋のおばさんは、グレアム伯爵本人が吊るされたと言った。グレアム伯爵とは、おっちゃんのことだ。おっちゃんは、違う世界にある日本へ逃げてカップ酒を飲んでいた。この町で吊るされるはずがない。


 身代わりか?

 多分、身代わりに誰かが吊るされたのだろう。


 昨日、他所の領地から来た商人に聞いた話だが、政変後の粛正は凄まじかったらしい。

 王弟と王子が王位継承権を争って、王弟が勝った。王弟は王に即位すると、それまでの政敵を根絶やしたそうだ。王子はもちろん、王子の派閥についた貴族たちも一族もろとも処刑され、領地は王弟が接収したり、配下の貴族に分け与えたりした。


 ここカーナの町にも粛正の嵐が吹き荒れたのだ。おっちゃんは日本に逃げたが、おっちゃんの家族は処刑された。

 処刑は見せしめでもあるのだろう。新しい王様に逆らうと……こうだぞ! と、国中に示したわけだ。『和を以て貴しとなす』とは、正反対の行いだな。


「でもね。一番かわいそうなのは、孫娘のソフィア様よ」


「孫娘のソフィア様? 一緒に処刑されたんじゃないの?」


「それがね! アニスモーン伯爵に手籠めにされてから、奴隷商に売られたらしいのよ!」


「そりゃヒドイ!」


 おっちゃんの孫娘が生きていた!

 名前はソフィアね。覚えたぞ。それにしても酷い扱いだ。ソフィアは、あの廃屋にあった絵に描かれていた少女だろうか?


 あの少女がアニスモーン伯爵に汚され、奴隷として売られたのかと思うと、胸が痛んだ。あまり想像しない方が良いな。こっちが心を病んでしまいそうだ。


 日本とは違う異世界とはいえ、どうしてこうも人が人に対して残酷になれるのか。考えてもしょうがないことだが、人の真性は悪なのではないかと思える。


 思考のループに陥る前に、俺は雑貨屋のおばさんとの話を切り上げて、一旦冒険者ギルドへ向かった。


 活動資金はあるので情報収集を活動の主軸にしているが、カモフラージュとして冒険者活動も並行して行うようにしている。冒険者ギルドには毎日顔を出し、薬草を一、二本だけ納品したり、ゴブリンを数匹倒したりしているのだ。


 なにせ、おっちゃんはグレアム伯爵だったのだから、ここの領主アニスモーン伯爵は政敵。俺がグレアム伯爵家について調べているとバレるのは危険だ。

 だから、新人冒険者らしくしているのだ。



 雑貨屋のおばさんからソフィアのことを聞いてから、ソフィアを買い取った奴隷商人を探すことにした。聞き込みをすると、ここカーナの町には奴隷商人が三人いると、すぐにわかった。

 三人とも店を構えているので、直接乗り込もうかとも思ったが、慎重を期すことにした。


 毎日、カモフラージュの冒険者活動をちょこっと行ってから、町の店や居酒屋で世間話をして奴隷商人の情報を集める。

 十日ほど経つと、ソフィアを買い取った奴隷商人の目星がついた。カーナの町の中心に店を構えているホレイショという奴隷商人がクサイ。


 奴隷商人ホレイショは祖父の代からカーナの町で奴隷商を営んでいる町の古参商人だが、新しい領主アニスモーン伯爵と昵懇の間柄らしい。政変後、いち早く新領主アニスモーン伯爵に取り入ったそうだ。


 また、あくまで噂話だが、おっちゃんの孫娘ソフィアを買い取った奴隷商人は、このホレイショらしい。


 俺は奴隷商人ホレイショの店に乗り込むことにした。

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