第26話 苦悩
「杏奈だめだイきそっ」
「んっうん、いいよ」
杏奈は罪悪感を覚えながらもどんどん好きになっていく自分の気持を抑えきれずにいた、なぜこんな事になってしまったのか記憶が曖昧だが今の気持ちは素直に彼を愛しているという事だった。
ベットからでると窓を少し開けてタバコを吸っている、最近吸い出したみたいだが杏奈は特に気にならなかった。
「タバコ臭い?」
「ううん、大丈夫」
二口だけタバコをふかすと長いままのフィルターを携帯灰皿に押し付けた、長すぎる吸い殻はそのままでは入らないので二つに折って無理やりケースに収める。
「これからどうなっちゃうのかな……」
そう言うと彼は冷蔵庫から缶ビールを取り出しプルタブを引いて一口だけ飲んだ、最近は眠れないことも多く寝不足が続いているようだ。
「どうしたいの?」
二人でずっと生きていきたい、杏奈の願いはただそれだけだったが今置かれた状況ではそれは難しいのかも知れない。
「わからないんだ、自分が生きていて良い人間なのか、生まれて来なければ良かったんじゃないかって」
「そんなこと……」
そんな事ない、あなたを愛している人間だっている、それだけで生きている意味があるでしょ。杏奈は心の中で思った事を口にはしなかった、彼が抱えている過去はそんな薄っぺらい言葉ではなんの慰めにもならないと思った。
「俺のせいで人が死んだ」
杏奈の目をじっと見つめるその瞳の端から涙がこぼれ落ちた。
「あたしのこと愛してる?」
「うん……」
「ならあたしの為に生きて」
曖昧に頷いた後に再び窓を少しだけ開けるとタバコに火を付けた、今度は一口だけ吸うと長いフィルターを携帯灰皿に押し込んだ。
「バレないように深く掘った穴にでも埋めちゃおうか、どうせ探しにくるような親族もいない。
それは良い考えだと思ってしまった自分はすでにまともな人間ではないのかも知れない、複雑に絡み合った思考はたった一つの願いの為に人間をやめる覚悟を杏奈に与えた。
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