第13章 いざな いざな ⑥


 思索しつつ、ウエシュラの陽の宮、ヴァルスは、大陽とトゥウェ―スを天秤にかけるように見比べた。

 はたして、そこにいるどちらが、より重篤な問題になるか、だ。


〈まぁ、いいだろう…。だが、そこの陽女ひめさんは…――陽都ようとに入る気なら、俺と行動を共にしてもらう〉


 彼の指図を耳にしたトゥウェースは、瞬間、わけがわからないという顔をした。

 さほど緊張感もないようすで、自身の意思を告げる。


〈あなたがどこにいようと関係ない。わたし、タイヨウといる〉


〈なら、彼らその方面のもてなしは最小限にほぼ無くなる――食事くらいは出すが…(何するかわからない他所の)陽の宮を野放しにはできないからな〉


〈わたし、なにもする気ないわよ? わけ、わからない〉


〈陽都に入るなら、おまえは、俺の拠点部屋へご招待だ。嫌なら帰るんだな〉


〈じゃあ、タイヨウといっしょにあなたの部屋に行くわ〉


 次第に反感をたぎらせてゆくサウシュラの陽姫ひきを視界に。ヴァルスは冷静な姿勢をくずさず、もう一人の客人に判断を委ねた。


〈…タイヨウ。これと共にくれば、おまえらへの対応は、必要最低限なものになる。滞在中は監禁状態になるが、どうする? 俺は、かまわんぞ〉


 ウエシュラの頭角としては、やはり、いつ何を壊してもおかしくない他所の陽の宮をほったらかしにしておくわけにはいかないのだろう。

 その監視管理さえ確実にできればいいたしかであればいいとばかり、今後の対応方針の決定を迫られているが、それを承諾すれば、連帯責任をとらされるということでもある。

 ほんの一部とはいえ、いちどは見て歩いたものなので、そう物見高く散策するつもりもなかったが、気のままに過ごしたい大陽としては、巻き添えになるのはいただけない。


「トゥウェース…、部屋につくまでいっしょに行くから、ここにいるあいだは、ヴァルスといっしょにいてくれ」


〈なんでよ! こんなやつの言うことに従うことないのよ? なにもしないって言ってるのに、器の小さい陽の宮おとこね〉


「君も俺もお客だ。郷に入っては郷に従えっていうだろう。陽の宮同士、合う話があるかもしれないし…、そんなに長いこと滞在するいる気もない。ひと休みしたら、いっしょに混迷の海を越えよう(誘わなくても、ついて来ようとするだろうけど…)」


 こころなしか、疲れたようにも見える大陽の提案に、トゥウェースは、それまで曇りがちだった表情を、ぱっと一転、かがやかせた。


〈混迷の海へ行くの!?〉


 喜色を浮かべて向きなおったトゥウェースの瞳には――大陽と共に、その左に位置するフィンの姿が映っている。

 落ちついている大陽とは対照的に、信じられないと言わんばかりの形相で、それぞれの反応を確認するように視線をはせ、口をぱくばくさせていた。


「うん。越えようと思ってる。(トゥウェース)…行ってみたいって言ってただろう? ひろうもの、回収して、イーシュラへ抜けるぞ(陸を行くより近い)」


〈…ダメです! ありえません〉


 そこで我を取りもどしたフィンが、果敢に言葉を差しはさんだ。


〈トゥウェさま、真に受けないで……考えなおして下さい。混迷の海など、自死を望むようなもの、破滅に飛びこむのと同義! ――タイヨウどの、まさか、本気じゃありませんよね? 説得するための方便とするにしても、あり得ません…(油断が安易過ぎる…。挑むなど、噂にも聞いたことがない。陽の宮が迷いこめば、たとえ無事だったとしても、天命が尽きるまで彷徨うことになるんじゃないだろうか…?)

 混迷の海がどうゆうところか、ご存じないなら、(知りる範囲で)お教えします。ここの星真砂の大地どころではないのです。どうか、撤回を…〉


「悪いけど、本気(知ってるし。べつに、ついてきてくれなくてもいいんだけど…)」


〈わかった、行く! いっしょに行くわ(少しのあいだ我慢すれば、合意の上になる~いい~のね。いいわよ、そのためならそれくらい。なんてことないわ。海を越えるなんて、おもしろいじゃない)――だいじょうぶよ、フィン。行ってみればなんとかなるもの。だって…そんな気がするもの〉


〈トゥウェさまぁ〰️〰️〰️💦〉


〈正気じゃないな…〉


 なりゆきを見ていたヴァルスが冷めた目をして指摘したので、大陽は、それを素直に受けとめた。


「うん。そうかも知れない。一歩、踏み込み、深みにはまれば、陽の宮でも迷うからな…」


 ぽそとつぶやいて、しみじみと思案に沈む。


(そういえば、そうだったよな…。考えてみれば、ふつうは知らないか…。

 陽の宮なら、多少、迷っても基軸をさぐって辿ればいい本拠地にもどる手段があるわけだけど、だからといって、あいつナキがもどる方法、理解しているとは限らないんだったな……じっさい、どうかわかっているのか知らないが、どっちにしろ、無謀なやつだ…)


 いっぽう。

 ウエシュラの陽の宮ヴァルスは、動じるけはいもない大陽を、得体の知れないものを値踏みするように見据えた。

 くっと、その眉が顰められる。


(…――この小僧…、なにを考えている…)


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