63話
「つばき、今まで黙っていたが、俺には何か不思議なギフトのおかげで、その人の気がわかるんだ」
「え? どう言うこと……?」
「つまり居場所がわかるってこと! ついてきて、四階にいる」
「司咲くん……。君、そんな話、信じられないよ。 僕は西園寺さんとデートしてくるから君はどうぞ勝手に――」と凪はぶっきらぼうに言う。
しかし、つばきは、「司咲くん! ついていくわ! ど、ど、どこかしら! は、早く行かないとね!!」と彼女は食い気味に割り込んできた。
つばきは焦っている。凪とデートみたいなことがしたくなかったからだ。キザな人とあんまりプライベートなことは言いたくないと、司咲の後をつける。
凪は信じられない表情をして、二人を追いかける。
SAT学園を襲っていた昼下がり。司咲はなぜW・Aのフードを被ってなかったか。
それは相手を油断させるため。一人でも怪しい人がいるとその人にだけ集中するからだ。
その隙を狙ってフィアナはSFをSATメンバーにつける。
それで仲間を増やす作戦だったのだから。
しかし、それは失敗に終わる――。
──まだ、つばき達が向かう少し前。
血の香りが漂う建物の中で、フィアナは上機嫌になっている。いや
彼女は
だが、海斗が亡くなったあと、龍康殿からそれについて聞いた。その能力の詳細が本にも書かれていたから、NaSOEはサナティオのことだと一瞬で理解していた。
(もしも、つばきちゃんが覚醒者になったら、このやり方で能力を奪おうかしら〜。私のお気に入りの子ですもの)と、色っぽい口元がニヤリして考えている。
すると、ひーちゃんは「おーい!」大きな声でテロリストの女性を呼ぶ。
フィアナ自身はとても恥ずかしくて見てられなかった。
「……何か見つかったわけ? えーと、ひーちゃん」
「うん! 見つかった! これ!」
ひーちゃんが見せたのは恋愛小説のようだ。サイズは文庫本で三百ページほどある。値段は百円程度だろう。
「良かったわね、見つかって。それじゃここから去ろうか」
「えー、私ここで立ち読みしたいんだけど〜」と人質の女はブーブー文句を言う。
「だったら買えば良いじゃないの。まぁ店員達は避難しているみたいだけど」
古本屋の店員達は、どうやらこの騒ぎで、全員避難したようだ。無事な人もいれば巻き込まれた人もいるだろう。なので、この店は人がフィアナとひーちゃんの二人しかいない。
「買いたいんだけど、ちょっと買えないかも……」
「どうして? 値段は安いぞ。買い時だ。それとも私が出そうか?」
「この小説パラパラと読んだけど主人公が私の心情と似ていて……」
「……心情?」
「あらすじを説明するね――」
この小説のジャンルは感動ラブストーリー。
あらすじは、とある闇組織『クーゲ』の娘である主人公が、クーゲと敵対している極悪で有名な組織『シュルバラ』に命を狙われる。
だが、その敵組織のイケメンが主人公に恋をし、二人で両組織を裏切る。
道中、組織の仲間の助けで身分を隠し二人は恋人として平穏に過ごしていた。
だが、ジュルバラの親玉にバレたことによる悲劇モノ。
終盤で恋人が主人公と切ない別れをする。
しかし、ただの別れじゃない。ラストは恋人が組織によって主人公の思い出を消してしまうからだ。
主人公と恋人は生きているけど、ずっと逢えることがないビターなラスト。
その小説のタイトルは、『さよなら、月が綺麗な白夜』
「……面白そうだな。私は、そう言うの好きよ。だけど、貴女……ひーちゃんと主人公の接点ってあるかしら?」
テロリストの女は質問する。その様子にもじもじとしていた、ひーちゃん。
「……もう言ってもいいよね」
ひーちゃんの悩みを打ち明ける。
「――貴女、私のこと知っているでしょ」
「――!」突然のことで驚愕しているフィアナ。しかし、すぐさま冷静に話す。
「……もしかして、最初から私のこと怪しいと思っていたわけね。
「ええ、もしかしたら、龍康殿という人の追手かな、と考えていたわね」
「貴女、只者じゃないわ。だから私に嫌われるように変な女を演じていたわけね」
「演じていたわけじゃないけど、私の性格を誇張しただけよ。貴女のことは会った時からなんとなく察した。女の勘ってやつ」
「正解よ。私は龍康殿様のNo.3射守矢フィアナ。スリーサイズは上から――」
「私のこと知っているってことは、私の夫も行方を知っているわけ……?」
伽耶は食い気味に、夫、『
ハッとするフィアナ。そして、彼女は淡々と答えた。
「……残念だけど、去年あたりから行方がわからないの、私たちで一生懸命探しているんだけどね」
「そう、実は去年、彼と離婚したの」
「離婚……? いつの間に」テロリストの女は真剣な目で伽耶の顔を見る。
「多分、私や息子に被害をださないために、離婚してくれたと考えているの。本当は私、あの人のことをずっと思っているのに……」
「――――」フィアナは黙って見ている。
「なんでこのタイミングでバラしたかわかる? それはね、貴女なら私の夫の行方を知っているかな、と考えてバラしたの。だけど、貴女は知らなかった」
伽耶は淡々と言葉を吐く、それを聞いたフィアナはこう返す。
「……なんだか、貴女って死にたがっているのね」
「ええ、死にたいわ。だけどこの姿を息子に見せるわけにもいかなくて、この一年間は辛かったわ」
「……そうよね。愛する人を失った苦しみは私にもわかるの」
「……貴女も恋人と別れたの?」
「違うの、彼と別れも言わず死んでしまった。しかも、私がいない間に龍康殿様が殺してしまった」
感情が押しつぶされそうにフィアナは続けて言う。
「私に取って、龍康殿様は命の恩人でもあり、世界でもあった。だからとても複雑で。あの人のことは恨まないけど。しばらくは、心を殺していたわね」
「……可哀想に、敵ながら同情するわ。だけど彼の兄がやってきたことは同情できない。わたしたち家族を苦しめていたから」
「そうよね。わかっている。だけど、歪んだ考えなりに龍康殿様も苦しんでいた。だから、貴女のことは始末するように命じられている。私も同情するけど命令はこなす」
「……別に始末しても構わないわ。彼のいない人生なんて辛いだけ。私の生きる希望は息子だけだもの。息子が無事なら私は――」
「残念だけど、貴女の息子も対象なの。貴女を殺したらその子どもも始末するつもりよ」
「なんで……なんで! あの男はそう逆恨みなことするのよ! 息子は関係ないじゃない!」伽耶は握り拳を作り、力を入れる。
とても悔しそうな表情。彼女自身の命は捨ててもいいけど愛している家族だけは失いたくない。だが、側から見たら自己中心的な考えだ。息子のことを何にも考えてない。
だけど、それが彼女の決めた選択だから――。
「関係ないけど、あの人の考えは絶対だから。あの人のことは信仰しているの」
フィアナは、曇った表情をすると、伽耶は握り、拳を緩める。
そして、想いをぶつける覚悟を決め、人質の彼女の口が開く。
「……でも、話聞いた限りだと、貴女のことは特別恨まないことにするわ。貴女も大変な目にあっているから。理由は違えど、同じ愛した人を失った同士だからね」
「ありがとう、でも龍康殿様の言うことは聞くわ。ごめんなさい、だけど、一旦、貴女を殺すのは、やめておくわね」
銀髪の女性はそういうと、伽耶は納得する。
彼女たちの周りに奇妙な空気が漂う。
敵同士なのに何故か心を許してしまう。そう言う空気だ。
しかし、状況は甘くない。
「そろそろ私のお気に入りの子たちが来るから、貴女は安全な場所で隠れておいて」
「……! もしかしてその子たちも殺す気……?」
「いえ違うわよ、『もう一度洗脳させる』私たちW・Aの一員としてね」
「――!」伽耶はおぞましく感じた。
『もう一度』と言うことは、一度だけ洗脳させたのかと。心臓が締め付けられるほど、恐怖を味わう。
「それじゃ、行ってくるわね。危ないからちゃんと待っていてね」
伽耶の身体は固まったままだ。それには理由が二つある。
一つ目は龍康殿の仲間に恐怖の感情があったからこそ、足が一歩も動けなかった。
二つ目はその子を助けたくても助けられない。むしろ、一般人が助けても逆に足手まといとなるだろう、と考えていた。
その二つの理由で、固まったまま、古本屋で立ち止まる。
彼女と意気投合した束の間、彼女は心を許すべきじゃなかったと、彼女……射守矢フィアナの冷酷さを
「だけど、お気に入りの子って誰だろう。一般の人かしら。ショッピングモールでそういう人がいるとか……?」
彼女はフィアナのお気に入りを考察していた――。
「こっちだ! そろそろ着くぞ!」司咲は先陣を切って、テロリストの女のいる場所へ駆ける。
「本当にいるのかしら……。でも、私もそう言う気はするの。なんかホワホワとした感触が強くなっているから」
つばきも、不思議な力が芽生えるような気もした。
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