34話

 飛鳥はすぐフードを取った。生き延びるために。フードはその辺に捨てた。


 司咲は見えたチョーカーに全てを込めて弾丸を撃とうとする。


 頭の中では『チョーカーを壊す』しか考えてないようだ。

 彼は焦りに焦り的を外したらどうしようとも考えて選択肢が迫った。


 しかし飛鳥のチョーカーが外れる。

 廊下側を見ると、『惺夜』が立って撃っていた。


「助けに来たぜ。危なかったな」と惺夜は額の汗を払う。


 飛鳥は痛いと言いながら正気に戻る。


「朝霧くん……?! 柊くん! 近くにいたら逃げて! 朝霧くんは洗脳されて……」


 紫髪の少年は「伊藤先輩……安心してください大丈夫ですよ」となだめ。


「私は、惺夜のおかげで洗脳から解けました。そして貴女は洗脳されて、私と戦っていたのです」


「そ、そうなのね……」飛鳥はホッと息を漏らす。


「とりあえず伊藤先輩はここから逃げた方がいいですよ。ショッピングモールに人質がいますのでそこに向かってください」と司咲は指示を出す。


 彼女は「そうだったのね、それは悪いことをした」


 軽い謝罪をし。


「わかったわ、ショッピングモールまで行ってきます! 二人とも頑張ってね」


 と、のどかながらもしっかりとした声で言う。


 聞いた二人の心が癒されながら、二階の窓を破ってショッピングモールに向かう。

 飛鳥を見送ったあと、惺夜は真剣そうな顔つきで言う。


「まさか伊藤先輩も洗脳させるとは……。SATメンバーを全員やるつもりなのか?」


「うーん、ほぼメンバーやられて、壊滅的状態なんだが……」司咲は眉を八の字にしかめる。

「え?! そうなの! 知らなかったわ……。」惺夜はある俳優が無名の頃エゲツない役をやっていたことを知ったみたいに驚く。


「そうなんだよ。でもなんか回りくどくないか? なんでここから攻めて、メンバーを洗脳させようと――」司咲は不思議がる。


「多分回りくどいからこそ、ジワジワと追い詰めているんじゃないかな? 怖いホラー映画でそう言うのあるだろ?」


「日常から悪い意味で非日常になるみたいな?」中性顔の親友はピンと来てないが、こう言うのだろうと頭に思ったことを答える。


「近い話がそれだ。だが他のメンバーが洗脳されても、SATのトップである千木楽さんはまだ洗脳されてないから大丈夫そうかもな」


 惺夜の頭は下を向く。

「もしトップが洗脳されていたら、もう俺たちはおしまいだ」


(……確かに惺夜の言う通り、SATメンバーと言う兵隊が洗脳されても、まだ士官が自由に動ければ洗脳を抑えることができる。)


 司咲は納得するも。


(だけどほぼテロリストに洗脳されて、壊滅的なSATメンバーにテロリストの一員として、千木楽さんいるのか? むしろあいつらのボスやあの女性にリーダーを任せるべきで――)


 彼自身、あることに気づく。


(そうか当たり前なことに気が付かなかった! 千木楽さんや天羽さんがあいつらの戦力になればある程度の組織を半壊できる……)


 司咲は冷や汗をかく。


(もし相手の方から強くても、そいつを洗脳すればまた戦力になる。次から次へと『乗り換えるつもり』だ!)


「ターゲットを乗り換えるストリートナンパ師のように!」


 紫髪の少年は少し大声を出す。惺夜は呆れていた。


「絶望的状況なのにお前は何言っているんだ……そんなにナンパがいやか? 司咲。まぁ俺もそう言うやつ嫌いだけど」


「ち、違うわ! えーと説明する――」


 司咲は青髪の少年に向かって説明すると、彼の目が丸くなる。


「もし、そんなことしたら、いくら、この国が強いからって勝てなくなるぞ!」


「あくまでも俺の推測だからわからないけど、早く千木楽さんを助けよう! 今、つばきと戦っているところだから!」


「え?! それを早く言えよ! 今から向かうぞ!」


 惺夜は少し気づく。


「でもさ、他のテロリストの仲間を殲滅しなければいけないんじゃ、後から不意打ちでやられ……」




「私たちの仲間はすでに撤退しましたよ」




 突如重苦しい空気が流れる。



 彼らは後ろを振り向く、すると龍康殿がお辞儀をしながら現れる。


「お二人ともこんにちは。今日はとてもいい天気で風が気持ちいい。私はそういう水無月も悪くないと思っている」


 後ろに気配が無かったのに声を発した瞬間、威圧感が出てくる。

 窓には人影が映っていた。


 時刻は十三時二十九分――。

 運命の時間であと三十分前――。

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