19話

 つばきにはこんな思い出がある。


 幼少期の頃、男児におもちゃを取り上げられて虐められていた時。助けに来てくれた別の男の子がいた。


 その子とは友達になるも一週間でつばきがいた地方から引っ越してしまう。当時のつばきは黒雨の如く泣きじゃくった。


 つばきが高校生になり助けてくれた男児の名前も顔すらすっかり忘れていた。だが今もその事を思い浮かべる。


 何か思い出せそうで思い出せないのをつばきは切なそうにずっと考えていた。


 また会える日が来るといいなと思いを寄せる。



 惺夜と司咲がまだ戦っているとき。

 つばきはテロリストの一員を廊下の奥の奥まで追い詰めた。


「やっと、追い詰めたわ。テロリスト……」


 つばきは追い疲れたのか少し息切れしながら話す。


「……いや、追い詰められたのは貴女あなたの方」


 No3のフィアナはニヤリと笑う。


 つばきは驚きを隠せない。


「え? どういう事なの……?」


 敵である彼女は笑いながら。


「フフ……私の名前は射守矢フィアナ。上からB89W59H87。みんなからはモデルやった方が良いよと言われている」


「……当然何言っているのよ! い、いきなりスリーサイズ言って自慢しているのか私への当てつけ⁈」


「大丈夫よ、貴女も中々可愛いらしい体型だもの。モデルよりはグラドルの方が似合っているけど、そうじゃないの。」


 つばきは息を飲む。

 そして胸元が開いた女性にただならぬ威圧感を肌で感じ、怯えている。

 フィアナの胸元から短刀を出した。


「単刀直入に言う、私の名前とスリーサイズを聞いたものは、みんな死んでいるか、奇跡的に生きているかの二択だわ」


「なるほど。つまり私は奇跡的に生きることもあるって事ね……」


「そうよ、あと貴女。私は短刀をやっているのに貴女はそんなつよーい銃で私を虐めるつもり? やめた方が良いわ、卑怯者と一緒よ。それと私の年齢は二十八歳」


  つばきは相手の年齢をも気にせず、フィアナの目をじっくりとみつめる。


「卑怯者でも結構。私は初任務を遂行し無名のテロリストを潰す。ただそれだけ。だから私は鉛の塊をした悪も善でもないものを掲げるわ」


「ほう……銃で闘うのね……。その発言は心に響いたわよ。だがしかし言い忘れたことがある」


「なに?  言ってみなさいよ」


 つばきが言葉を言い終える前に、フィアナは赤髪少女の前に立ち、短刀は首あたりまで来ていた。


「私の年齢まで聞いたものは全員死んでいる――」


 首元に短刀で鋭利な口づけをするとつばきの首から二、三滴ほどの血が垂れる。


「いったぁ!」の言葉と同時にショートヘアの彼女は弾を撃ちあげるもテロリストの女は短刀で防ぎきってしまう。


 フィアナの短刀で少女の拳銃を飛ばし、つばきは冷や汗をかきまくる。


「どうした? 私を追い詰めたんじゃないの? もしかして虚言だったのかしら?」


 つばきの傷ついた首元に再度刃をあてるも、一瞬の隙を逃さぬように少女の懐からあるものを出す。


 『アーミーナイフ』だ。


 すぐさま首元辺りに、アーミーナイフで防御する。そのせいか、金属音が廊下中に響く。


 つばきの顔まで近づき。

 フィアナは少し口元が開く。


「ふーん、結局、貴女はある意味人間らしいのね。気に入ったわ」


「なにが人間らしいよ。普通、人は意見をコロコロ変わりまくる動物なのよ」とつばきは彼女の意味不明な発言にキレる。


 内心(なに言ってるのかしら私……)と冷静に突っ込む赤髪の少女。


「フフ、そうね。人は皆自分勝手かもね。こんなに私に気に入られるのは龍康殿様に続いて2番目だわ」


 フィアナはつばきのほほにキスをする。

 その行動につばきは赤面し、一旦距離を置く。


(この女。なに考えているか分からないわ。私に勝機はあるのか……)


「勝機はないが生き残る可能性は高いわよ」


 彼女の発言につばきは驚いた。


(よ……読まれている。いやそんな事よりも、なぜ、生き残る可能性が出てくるんだ)


 つばきはフィアナの方に猛スピードで行く。


(つまり私は負けてあの女にテロリストへ勧誘されて敵になる可能性って事ね……。それだったら私の喉を掻っ切るわ! 頑張っている惺夜くんや司咲くんに会わせる顔がない)


 アーミーナイフと短刀の鍔迫り合いの音が鳴り響く。


 二人の刀刃とうじんの火花がまるで秋色鈴虫の鳴く声より激しくなる。


「近接戦闘が苦手な私でも勝てそうな相手だわ」とつばきは思考する。


 彼女のアーミーナイフはSAT特製の刃物で短刀同然の性能を持つ。


 少女はフィアナの癖を掴んで隙を狙っていた。


 まだ見えない。隙もまだ与えない。

 鼠さえも通れない透き間――――。


 そのとき、刃が当たる瞬間、フィアナは前屈みになっている。


 左半身が前に寄って隙が生まれているのを、つばきは見逃さなかった。


(……見えた! タイミング的に行けるよね。いや! やるしかない!)彼女の目が少し輝く。


 そして覚悟を決め、その瞬間を待つ。


 一秒……、二秒……。まだタイミングが来ない。


 数秒後、ようやくその癖が見えてきた。


(良し! 今だ!)


 つばきはフィアナの左腹部を刺す。


 テロリストの女の口から人間の欲より紅い血を流す。


 お腹から赤いドレスも誤魔化せないほどの血に滲んでいた。


「こ……これで私の勝ちね」


 その時、フィアナはつばきの首元に何かをセットする。


 それはまるで雀蜂に刺されたような激痛が走り出した。


 今にもアナフィラキーショックを起こした人のよう、つばきは段々と呼吸が出来なくなる。


「な、なにしたのよ……」

「簡単なことよ。貴女の首にSFスレイブファイター……。つまり洗脳装置をつけたわけ」


 つばきの空いた口が塞がらない。


「貴方、私の隙を突こうとしていたけど私はそれを読み、ワザと左腹部に隙を与えていたわ。それをつけるためにね。私言ったわよね、年齢を聞いたものは全て死んでいると。それは肉体もそうだけど、支配されて精神にも死んでいる意味でもあるのよ」


 赤髪少女はフィアナの言葉も聞こえないぐらい苦しむ。


 彼女の脳内では走馬灯が浮かぶ。


 洗脳を覚悟したのか洗脳を抵抗しているか分からないがSAT入学した頃。

 惺夜と司咲と友達になりたての頃。


 中学の頃 小学生の頃まで混じり脳裏をよぎる。


 ――そして小さい頃のある日を思い出す。

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