神の森に召喚された契約者達ーー散ル。

納豆ミカン

フロッピー1. 始まり

1999年12月27日、1993年12月27日更に2019年と2020年そして2010年―

それらの『時代』で、少なくとも一人の人間が、とある森の中で消息不明になっている。

 後に縁者からの通報があり、その事実を知った警察や自衛隊などが森を調査に入ったものの、行方不明者がそこにいた証拠を何一つ上げることは叶わなかったが、それは警察の無能や怠慢の類とは異なった理由によるものだ。


 たった1人だけの生還者が、紡いだ言葉がある。



 『誰も知ってはならない真実がある。関わる者は消えた者と同じ運命を辿ることになる。

 我々は神の威光に、いや、神によって……辿る筈の運命を狂わされたのだ!!』


 語り手の声は怨嗟と恐怖に満ちながら、それでも助かった自分の運命に安堵していた。


 これから語るのは、人々の悲劇。救いの無い悲鳴。

 実在した 飾りの無い真実 である。


 嘘にまみれた世界に生きる者達よ、目を逸らすな。

 嘘の無い運命を翻弄されし者達の、真実の声を聞け。




 ファイル№1 神の威光




 始まりの男 安堂 総司(30歳)FILE


1999年12月27日 07:37


 (某国、地図に乗らない孤島より発見された組織の研究員の血まみれのレポートより)


 2000年1月1日06:00

日の出と共にCMUの試作品をモルモットJ型に投与し実験を開始。

 かつて日ノ本と自国を称していた彼らなら、日の光の加護の元に我らが悲願CMUの完成のための礎になるであろう。


 同日07:06

 それまで何の反応も認められなかったJ型の皮膚が破れ始め、痒みを訴えるようになる。

 手足を拘束していると分かっていながら全身を引っ掻こうとするJ型の行動マジ受けるwww


 09:12

 手足の爪が剥がれ落ち、指の筋肉組織が僅かな膨張を始める。

 同時に頭部の露出を確認髪の毛が抜け落ちて波平のようになっている(爆笑)


 13:25

 全ての体毛の脱毛を確認。

 当然股間も


 15:08

 身体中の血管が浮き上がり肌が青に変色。

 眼球が目に収まらず飛び出た。

 血だか涙だか判らない液体が始終垂れ流しでテラキモスうえww


 16:28

 やたら呼吸が荒い、うるさいしキモス

 さっさと終わらせて帰りたい


 17:00

 拘束具を無理矢理引きちぎった。なんという怪力だろう

しかしJ型を収納する実験場と私のいる部屋との間には、ロケットランチャーでも破れなかった強化ガラスが隔たっている。

 こちらがわにくることは出来ない

 J型の怪力であっても


 17:06

 433322224444




 タ ス ケ テ






(上記のレポートが執筆されてから3年後 イギリスの樹海)

イギリスの田舎町の外れにある獣達と自然の楽園がある。日の光のある時には獣達が自由に走り回り、夜には梟と虫達が唄う森だ。その楽園に今日は普段なら招かれざるはずの人間が幾人も闊歩していた。

その中で二人組の男達は、一人は己の意志で、一人は流されてついて来ている。

己の意志で森を訪れた男が語る。


「人間が生まれる遥か昔に、人々と神々が共に生きる時代があった。

その時代では、人や獣たちは、自然--神と共に生き、妬みも恨みも無く幸福だったと聞くが……この森は、現代の獣や自然の楽園らしい」


「なんだい総司そうし。その聖書にでも書かれていそうな頭の悪いな妄想は?」


語る男は、白い帽子と白いスーツを纏った中年の男。スーツの上からでも見てとれる引き締まった身体つきなことが窺える。


「これは聖書が生まれるより遥か前の時代…実際に存在していたが忘れ去られた時代の話。らしい。」


その隣を歩いているのはひょろっとした頼りなく見えるメガネの男。少なくとも彼に肉体労働は向いていないだろう。


「なあ総司。君とは長い付き合いだし ……君の職業が、提唱される人類史の中で真実と異なる間違った部分を見付ける『歴史の探偵』だって言う発言も、いいかげん受け入れることにしたけど……あまり滅多なこと言ってると、君に惚れてる女の子達が離れていくよ?」


あきれ果てたように言う男をしり目に、帽子の男はうんざりした様にため息を吐きながら言った。


「こいつは俺が青二才の時分に祖父さんに聞いたに過ぎない話だ。

それと、女は離れてくれた方が助かる。ネコと女は呼ばない時に来ると言う。居たところでただ、面倒が増える。」


「お前いつか刺されちまえ!この贅沢ものめ!女日照りでムスコが干からびて仕方なく自家発電しているやつの気持ちを考えろ!!」


「そんなことよりも松。村人が口を揃えて言っていた『神の威光』という光が現れた方角は外れていないか?」


白帽子の男の名は安堂 総司あんどう そうし 30歳

本来の姓は安堂。普段は安藤と偽名を名乗る代々神々の残した神秘を探求する『神秘の探求者』の家系の末裔。

普段は学校の授業で習うような歴史の真偽を気になった時に調べ、学会にレポートを提出し生活費を得ている

才能を完全に無駄遣いした自由な男だ。


「それだよ。なんだって急にイギリスなのさ!?

半日くらい前まで日本の事務所でコーヒー飲んでたよね?

それが何で急にイギリスに来てて!しかも『神の威光』なんて宗教が行きすぎて理性が妄想に食い尽くされたような狂った話を真顔で信じているのさ!!?」


隣の男の名前は松田 健一まつだ けんいち

安堂 総司に松と愛称で呼ばれている探偵のパートナーだ。

総司の自由過ぎるやり方に振り回される生活を送っているせいで、森の中に入ることになった。振り回される男だ。普段は歴史の教師をしているほど歴史に詳しく、多少なりとも総司の仕事に興味を持ったのが運の尽き。

子供のころからの付き合いだったのが、海外まで付い行くほどの腐れ縁になってしまった。


「嫌なら帰れ。無理強いはしない。ただし松、もうお前の力を借りることもしない」


にもかかわらず当の本人はどこ吹く風。一人でやっても仕事量が増えるだけ程度にしか考えておらず、振り回している自覚すらないまま、挙句は松田の自由意思に任せているつもりらしい。

これはパートナーでも面白いはずもない。それでも一緒にいるのは、やはり本人もこの状況を気に入っているからだろう。


「くっそおーー!!いつか絶対頭下げさせて『ありがとうございます松田様』とか言わせてやるからな!?」


「『お願いします松田様』……これでいいのか。満足したなら帰ってっていいぞ」


言われたことをそのまま口にする総司。

だがこれは安堂 総司にしてみれば嫌みではなく、松田の野望を叶えてやっただけのつもりの発言だ。

浮世離れした思考に言動。要は少々天然なだけであったりする。

見た目や行動に反し、(勘違いからの)優しさや

(厳しい表情が素からの天然振りの)親しみやすさ

を感じさせるのが総司が女に持てる理由だ。

だが、松田は男。そんなものは腹の足しにもならない。


「だったら総司の崇拝者の女の子達の前で『俺は弱虫毛虫の負け犬です』って発言しやがれ!!!

ばかやろおおおおおおーー!!!!」


「……蟲なのか、獣なのか、はっきりしないな」


自分に原因があると知らず、呆れながらあしらうように言って、内心どうしたものかと悩む総司であった…





探偵達が森の奥に歩を進めている頃、更に奥に行くと森の奥に進む彼らとは違う

別の集団がいた。


「忌々しい光め……我らが『Cosmos』の科学力を持ってしても解析不能などとは………」


「触れることは出来るのに、どのような手段を持っても穴を開けることが出来ませんね」


無菌スーツに身を包んだ科学者の集団は、もう二日も前にこの場所を訪れ

探偵達の目指す『神の威光』を科学的に分析し、自分たちの思うままに操れる方法を探っていた。

見渡す限りの木々に遮られ、ほとんど日の光が差さず薄暗い森に

不釣り合いな解析機器の数々がまったく役を成すこと無くそこに置かれている。


「これ以上は不毛です博士」


「…………」


解析を指揮していた男の部下が告げる力不足。

本人も理屈では分かっている、しかしそれを認めることを自尊心が許容出来なかったのだ。


「なんなんじゃこの『光』は!?何故我らの科学力が通用せぬのだ!?」


砕けそうなほど歯を噛みしめながら、空に向かって吠える。

ポタポタポタ――

しかし科学者の遠吠えに応えたのは、小雨程度の雨音だけだ。

科学者たちは、ロクに雨具も着ずに雨に打たれ続けている。

機械の防水は完璧だった。

しかし、彼らは雨に濡れ続けた。

日光すら届けない深い深い木々の傘の下で雨に濡れることに、何の疑問も持たないままに。






響 愛美(11歳)FILE




2022年12月26日 23:37分



「そろそろ来たかな……いつまでも隠れていられないよな」

子供の遊び場になる程度の大きさの山の中で、11歳の少女

ひびき 愛美まなみは隠れていた。

悪いことをして隠れているわけではない。友人を鍛え直す為にだ。


「あんまり遅いと、また殴ってやらないとな。だいたい男のくせに暗いのが怖いだの情けないんだあいつは!


さっさと来い!男だろ、鳴海 翔護なるみ しょうご!!」


誰に聞かせるでもなく、少女は憤りを声にして吐き出す。

彼女の待つ友人は近所に住む男の子で、1歳年上の中学生だ。

ヘタレなのは普段のことだったが、愛美が怒っているのは彼がクラスメートからのイジメを受けていて

何も抵抗出来ずにいたという事実を知ったからである。

彼が小学校を卒業して中学校へ進学するまでは、1歳年下の自分が代わりに護っていたが学校が違えば護ることも出来ないということに気付いて、愛美は護ることから彼に強くなってもらう方針へと変更することにした。


「中学生になれば、少しは強くなれるって思ってたのにな……」


さみしげに空の月を仰ぎ見ながら膝を折って耳を澄ます。

人の気配はしない。携帯を開いても着信は無し。

「来ないつもりかよ、あいつ……電話したんだから、知らんかったなんて言わせないぞ……バカ」

学校の終わった放課後に、彼の家の前で電話をして彼の顔を見ながら話した。

これから山に行くから一緒に来てほしいと。しかし翔護は断った。

子どもの頃から夜に山に行ってはいけない、クマが出る。

と言いきかされてきたからだ。

もちろん愛美も聞かされている。だから二人とも夜にこの山に入らない。

しかし、彼のヘタレを直すのなら、昔から怖くて近づけなかった場所に入って

自信を付けるのが一番だと思ったのだ。

だから自分だけで行くと言い残して、ずっとこの山にいる。

夜になっても帰って来なければさすがに探しに来る。

翔護は怒られるのが分かっているから、大人に相談することも出来ない。

というところまでは計算していた。しかし、彼のヘタレぶりを甘く見ていたらしい。

翔護はまだ現れない。

ふと、何かの鳴き声が聞こえた。


「ーーーーー!!!!」


「……!??な……なんだ??なんの音だ?」

原因不明の音に怯えながら辺りを見回す愛美。

翔護のヘタレを直すと言っても愛美もまだ小学生。翔護ほどではないにしろ怖くはある。

実際に熊が出たということも何度か聞いている。夜や暗闇に怯えなくとも、現実的な脅威は怖い。

クマが出れば、愛美は抵抗できずに殺されるかもしれない。

にもかかわらず、彼女は森を出ようとはしなかった。

 

「し、しっかりしろ……わたし。翔護が来る前に出ちゃったらまた明日も

あいつはいじめられるんだぞ……わたしが、なんとかしてやらなきゃ……っ」


恐怖と戦い、身体を震わせながら気丈に構える愛美。

すると近くで足音が聞こえて来た。

「誰か来た!翔護かな……?」

心の中ではそうであってくれと願うばかりだ。彼女としてもこれ以上ここにいるのは限界に近かった。

大人だったら見つからないように隠れなければと思いながら、そっと足音のする方向を覗いた。

足音の主は……彼女の待ち人 鳴海 翔護 だった。


「ああ……めんどくさい本当にめんどくさい……なんでこんな時間まで帰って来ないんだろ。

熊が出たらどうするんだ……くそっ、武器なんか探してる暇があったらクマよけの鈴を持ってくるべきだった……。

バカ過ぎる……」


ぼやきながら愛美を探す翔護は、腰にかけてある縄と簡易的な救急セットを確かめながらデコボコの道を一歩ずつ踏みしめて進む

。その姿は(言動はともかく)愛美の言うヘタレとは異なる印象を抱かせる。


「まなみー!!どこだー!帰るぞー!!」


「……やっと来たんだ、あいつ……」


緊張が一気に解れた愛美は、身体の力が抜けて立てなくなっていた。

翔護に場所を伝えようと声を出そうとした瞬間――


グラグラグラグラ……!!!!


「ちっ……地震か。結構デカイな……まあこれで熊に襲われることも無いだろう」


立っているのも辛いほどの大きさの地震が突如来た。

熊よりもビビりそうなものだが、翔護は平然としていた。

しかし、愛美の方は

「ひぃ……!!た、助けて翔護……!!」

「――!愛美、どこだ!?」

あまりにも大きな地震に身が縮こまって余計に動けなくなっていた。

蚊のなくような声をなんとか聞き取った翔護は、愛美の姿を手に持った懐中電灯で必死に探す。


ビキビキビキビキ!!!


地震の影響で地割れを起こした山が、互いを求める声を阻害する。

更に亀裂は大きくなって、すぐに飛び越えることすら出来なくなった。

「翔護ーー!!」

「愛美ーー!!」

愛美は翔護を視認出来る、しかし翔護には愛美の姿が見付けられない。

この後の二人の未来を暗示するかのように……。

「………っっ!?」

地震の揺れと地割れの亀裂に巻き込まれバランスを崩した翔護が、地の底に誘われる。

「うわああああああああーー!!」

「う……嘘……翔護が……落ちちゃった…――っきゃああああああああ!!?」

その後を追うように地の底に落ちた愛美。




――目を覚ました時、そこは地の底ではなく日の差さない森の中だった…………





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