第三十八話

 アロエ荘に帰宅。僕と日高さんは分担して家事をするため、別々に行動を始める。

 日高さんには星坂さんの家事を重視するように頼んだ。

 着替えが終わり次第、二階の星坂さんのもとに行ってくれるに違いない。


 一方、僕は管理人室で動きやすい服装に着替えている。

 先ほどの一件でかなり汗だく。

 シャワーを浴びたいが、午前中は一切家事をしてないので、そんな時間はない。


「ん? タブレット?」


 差出人には多田野海。

 ついに必須アイテムであるタブレットが届いた。

 ここ数週間は、タブレットがなかったせいで買い物代は全て自腹。

 通帳から何かあった時用に貯めてた貯金を切り崩し生活した。

 軽く十万円以上は飛んだ。大家族の大変さを身をもって感じたよ。


「はぁ……」


 海には色々話したいことがある。

 朝は出なかったが、この時間帯なら電話に出るはずだ。

 僕は自分のスマホを取り出し、海に電話をかける。


『もしもーし! どなたですか?』


 すると、朝とは打って変わってワンコールもしないで電話に出た。


「『どなたですか?』って聞く相手にどんなテンションでもしもし言ってんだよ」

『え、怖い方? 嫌だ、海は怖いわ』

「変な喋り方をするな。僕だ。春だよ」

『あー春か!』


 僕の電話番号を登録してないのかとツッコミたいが、海はいつもこういうノリを挟まないと気が済まないタイプ。無視して会話を続ける。


「そうだよ、僕だ」

『で、どうかしたか?』

「タブレットが届いたこと、タブレット代を受け取ったこと、この二つの報告。それと僕のここ数週間の自腹について聞きたくてな」


 僕は真面目なトーンで話すのに対し、海は『あーそのことね~』とダルそうに答える。

 お金関係は大事な話のはずなのだが、海にとってはどうでもいいって感じ。

 以前、タブレットが壊れたと報告する電話をした時も興味なさそうだったし。

 お金があり過ぎるとお金関係に興味を無くしてしまうのだろうか?


「それでタブレット代は海が取りに来るのか?」

『え、無理無理。忙しいからそれは無理。てかさ、自腹ってどれぐらい使った?』

「約十万ぐらいかな? 請求書はまとめてあるけど、まだ詳しくは把握できてない」

『んー、面倒だし、タブレット代の二十万やるよ』

「は?」


 思わず口から言葉が漏れる。

 いくら忙しいとはいえ、約十万の自腹に対して二十万は貰いすぎだ。

 流石に気が引ける。それにプラスで貰うと何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。


『そう変わらんだろ』

「相当変わると思うぞ。また変な頼みをしないだろうな?」

『おいおい、大親友である俺を疑ってんのかよっ!』

「こないだの件があって疑わないほうがおかしいだろ!」


 誰のせいでアロエ荘で管理人になったか忘れたのだろうか。

 騙されてほぼ強制的にやらされることになったのは最近のこと。忘れもしない。

 今となっては、騙されて良かったと思うが、このような騙しはもうこりごりだ。


『大丈夫だって! 万札なんてティッシュと変わらんし』

「神経を疑う発言だな。んー、まぁそこまで言うなら有り難く貰っておくよ」

『おうよ』


 海にとっては、本当に万札とティッシュが同等なんだと思う。

 それほど稼いでいるのは、アロエ荘を見れば納得がいく。

 プラス数万はアロエ荘の管理人になった祝い金と受け取っておこう。


「忙しいのに電話して悪かったな」

『別に気にするな。お姉さんの相手をするのに忙しかっただけだからなっ!』


 ――こいつ、しばいてやろうかっ!


 脳内にそんな言葉が浮かぶが口には出さず、無理矢理口角を上げて笑みを浮かべる。

 言葉の後に、海の楽しそうな笑い声が聞こえてきたが冷静に耐えて空笑い。

 これが金持ちの余裕かと思いつつ、家事をするため電話を切ろうと口を開いた。


「お姉さんとお楽しみに~。また何かあれば電話する」

『ちょ、もう切るのかよ!』

「海と違って暇じゃない」

『俺も忙しいって! それにさ、まだ話したいことあるし~』


 なんか不敵な笑みを感じざるを得ない口調に、僕は「早めに話してくれ」と一言。

 面倒なことじゃなければいいけど、もし頼み事だった場合は管理人関係ではないなら、どんな頼みも断るつもりである。

 今はアロエ荘の家事とミラのお世話で精一杯だ。

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