第八話
午後も引き続き、家事をこなす。
残りの洗濯物を洗濯、昼食の洗い物、浴槽に溜まった濁った水を流してお風呂洗い。
コードレス掃除機で家中を掃除、夕食の買い物、夕食作り。
そうこうしているうちに時刻は午後六時五十分。
本日の夕食はみんな大好きカレーライス。
良い匂いに釣られたのか、天音と奏多が一階に下りて来た。
「今日の夕食はカレーかなぁ? カレーだねぇ」
「カツ丼に続いてカレーとは今日のご飯は豪華だな」
そんな会話を聞き、三日間どんな食生活を送ってたんだと思いながら、カレーライスをお皿に入れる。二人は待ちきれない感じで、ダイニングテーブルに座りソワソワ。
子供のような可愛らしい姿を見て、先に二人のカレーライスとスプーンを運ぶ。
「いただきますぅ」
「いただき」
二人はスプーンいっぱいにカレーをすくい、小さな口を大きく開けて食べ始める。
「んっ~、美味しいぃ~」
「マジで美味しいな、このカレー」
僕がマカロニサラダと福神漬、ラッキョウ、お茶、箸を用意してると、二人のほうから嬉しい言葉が聞こえてきた。初めて自分の料理を褒められたが、シンプルに嬉しい。
本当に嬉しくて、つい頬が緩んでしまった。
そんな頬を何もなかったように戻し、僕もダイニングテーブルへ。
「春ちゃんって料理得意なんだねぇ」
「人に振る舞える程度だよ」
「そう謙遜しなくてもいいのにぃ~」
「そうだぞ! ボクが美味しいと言ってるんだからなかなかのもんだ!」
ここまで褒められるとは思ってなかったが、本当に人に振る舞える程度しか出来ない。
謙遜と思われるということは、それほど僕の料理が美味かったという証拠。
管理人として住人の口に合って一安心だ。
「それはポテトサラダぁ?」
「いや、どこからどう見てもマカロニサラダだろ!」
天音の問いに流れるようにツッコミを入れる奏多。
間違えただけだと言うのに、そこそこ強めのツッコミで驚いた。
「あぁー、マカロニサラダかぁ。あたしマカロニサラダ好きだよぉ」
「じゃあポテトサラダと間違えるな」
「えへへぇ、確かにぃ~」
なぜか楽しそうに笑う天音。うん、よく分からない。不思議だ。
「ちょっと気になったんだけどさ、このマカロニサラダって手作り?」
「あ、ああ、僕が作ったよ」
「やっぱりね。美味しそうな色してるもん」
奏多は独特な理由で褒め、マカロニサラダではなく福神漬をカレー添える。
一方、天音はラッキョウをカレーに添えていた。
――おいおい、マカロニサラダに手を付けないのかよ!
内心そうツッコミを入れ、僕は小皿にマカロニサラダを入れていく。
「春ちゃんありがとねぇ」
「サンキュー」
二人は僕がマカロニサラダを小皿に入れるの待っていようだ。
何となく今の行動で階段があのような有様になった理由が分かった。
とにかく二人はだらしない。
自分がやりたいことだけ行動し、面倒なことは絶対にやらないタイプだ。
「カレーおかわりぃ!」
「ボクも」
二人はほぼ同時に躊躇なく、お皿を渡してくる。
立つのが面倒だから「入れてこい」といったところか。
僕の『二人はだらしない』という推測は合ってそうだ。しかし、決めつけはよくない。
「自分で自分の好きな量を入れてきたらどうだ?」
僕は自然にそう口にし、お茶を一口。
二人の反応は「「んっ!」」とお皿をこちらに押し付けるだけ。
他に何も言わない。これが無言の圧か。
結局、僕はお皿を手に取り、おかわりを入れた。
――うん、推測大的中でした……嬉しくねぇ~。
「ん? この部屋なんか綺麗になってない?」
「昼間に掃除したからな」
「小好は料理に掃除も出来るのかよ! だから、ここの管理人になったのか?」
「そ、そういうわけじゃない……色々あってな」
本当に色々あったんだよ。それも今朝。
今朝ここに来るまでは保育園の園長になる予定だったのに。おかしな話である。
「実はねぇ、春ちゃんはロリコンでぇ――」
「そっ、それ以上は何も言うな、天音!」
「えっとぉ……ん?」
天音は口の周りにカレーを付け、艶やかな唇の前でスプーンを持ってない左手の人差し指を立てる。それを見て奏多は「は?」みたいな感じだったが、僕は二度首を縦に振った。
合法ロリ保育園に関しては、住人にあまり知られたくはない。
住人に知られて関係がおかしくなったり、僕の扱いが酷くなったら嫌だからな。
ロリコンで弄られるのはまだいい。でも、ロリに釣られて保育園に来たら、合法ロリ保育園だったというネタで弄られるのは恥ずかしくて辛い。
「ちょ、ロリコンで何なの? 二人の秘密とか気になるじゃん!」
「この世には知らなくていいこともあるんだよ」
「ボク、この世の知らなくていいこと結構知ってるから大丈夫だって!」
「僕が大丈夫じゃないんだよっ!」
「ロリコンってバレてるのに、今更、隠すことなんてないでしょ?」
「あるわ!」
「ロリコンって結構ヤバい病気だと思うよ?」
「おい、同類である天音がそれを言うか! それより仕事は終わったのか?」
真面目な顔で言ってくるものだから、思わず勢い良くツッコミを入れてしまった。
それから奏多の瞳をじーっと見つめ、しっかりと圧をかけて話題を転換する。
「一応ね。一週間前に新作の後半をボツにされてさ、それで部屋でずっと執筆よ。で、二徹して今日やっと提出したって感じ」
「に、二徹って大丈夫なのか?」
「よくあることだから大丈夫。まだ修正があるかもしれないと思うと吐き気がするけどね……」
奏多は闇を抱えたような表情でテーブルに視線を落とし、酒を飲むようにお茶を一気に飲む。
「ぷわぁ~、酒を浴びるほど飲みて~」
「コンビニで買ってこようか?」
「あー、いらんいらん。今飲んだら二日は起きれなくなるからさ」
二日も寝られるのは困るというか流石に心配になる。奏多はそれが普通みたいだが。
「それに奏多ちゃんは酒癖悪いしねぇ~」
「うっせぇ~な! 黙ってろ黙ってろ」
いつかバレることだろうと思いつつ、二人の仲の良い光景に微笑を浮かべる。
「ごちそうさま、美味しかったよ」
「それは良かった。みんなの口に合うかドキドキしてたからな」
「真面目か。ふわぁ~、ちょっと寝てくるわ」
「お、そか。おやすみ」
「おやすみぃ」
奏多は大きな欠伸を一つ。フラフラした足取りで部屋を出て行った。
一瞬、階段から転げ落ちないか心配になったが服の山はない。滑ることはないだろう。
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