第7話
金曜の夜。
俺は自室のクローゼットの前で立ち尽くしていた。
「全く大丈夫じゃねえ、問題だらけだ……」
脳内のリトルヒヤマから「明日結衣と出かけるのにそんな装備で大丈夫か?」と問われクローゼットを確認してみれば、そこには過去の俺が積み重ねてきた残念ファッションのパーツたちが堂々と並んでいた。
これまでその残念ファッションを脳死でブッピガンして結衣と出かけていたと思うと、猛烈な羞恥と罪悪感が湧き上がってくる。
中学から使い古したヨレヨレの謎英文プリントTシャツ、全体的に色がくすんだチェック柄の上着、ダメージがデカすぎて瀕死のジーンズなど、挙げ始めたらキリがない。
これまで近所のコンビニとスーパーくらいしか出かけていなかったせいで、よそ行きの服が何もないことを失念していた。
これからはもっとまともな服装でいよう、などと今更ながらに思うが、結衣と出かけるのは明日である。
「やべぇ……今まで意識してなかったけどこりゃ重症だぞ」
必死にマシな服を探し、最終的に俺が取り出したのは無地の白シャツであった。そこに黒ズボンと薄手の黒い上着を合わせて完成である。
これぞ俺の最終兵器『よく見えることはないけど悪くも見えない無味無臭モノトーンスタイル』だ。別名いつもの服装である。
無いセンスを振り絞ったって何も出ないのだから、マイナスを避けるのがベストに決まっている。
「流石に今度服買うか……」
俺がダサいことで結衣が恥ずかしい思いをするのは避けなければならない。
―——比山裕樹十七歳、ついに自分で服を買うことを決意した。
土曜の朝。
俺は洗面所の鏡の前で立ち尽くしていた。
「ひどい髪だ……」
数か月伸びっぱなし、寝癖でボサボサのパイナップル星人が鏡の向こうに立っていらっしゃる。
生まれてこの方一度たりとも髪をセットしたことがなかった俺は、当然ワックスなど持っていない。
父さんのワックスはあるが、使ったことのないものを使う気にはなれなかった。
とりあえず髪を濡らし、寝癖だけでも直しておく。
「智輝の方がマシかもしれんな……」
前髪こそ長すぎるものの比較的整った髪型の親友を想い浮かべ、自分の残念さに落胆する。
そもそも何故今更こんなことを悩んでいるかと言えば、やはり先日の一件が脳裏に浮かんだ。
本当か冗談かわからない大好き宣言。
それを意識してしまっているという事実が、こうして証明されてしまっているのだ。
「今度髪も切ろう……」
―——比山裕樹十七歳、ついに自分で床屋に行くことを決意した。
最低限の身なりで家を出た俺は、結衣と合流する予定のいつもの駅へと向かっていた。
自分の残念すぎる見た目を実感したせいか、足取りはやや重い。
「過去の俺を一発ぶん殴ってやりたい気分だな……」
家から駅まで大した距離ではない。
過去の自分に恨み言を吐いているうちに、駅に到着した。
時刻は九時五十分。集合時間が十時ちょうどなので十分前に到着したのだが、駅前の広場には既に結衣の姿があった。
「おはよう、結衣」
「ひろくんおはよ!」
「待たせちまったか?」
「ううん、私も今来たとこ」
結衣の服装は白のシャツとグレーのワイドパンツを合わせたもので、明るい印象の結衣によく似合っていた。
ただあるものを着ただけ感満載の俺とは雲泥の差である。
「どうかな、似合ってる?」
「よく似合ってるぞ」
「ありがと! ひろくんも……に、似合ってると思うよ?」
「……無理して褒めなくていいぞ、残念なのは俺が一番分かってる」
俺が言うと、少し困ったように笑う結衣。
そんな表情すらも可愛いと思うが、やはり気を使わせるのは申し訳ないなという気持ちになる。
「とりあえずいこっか」
「そうだな」
今日の目的地は学校とは反対に三駅ほどの場所にあるショッピングモールだ。
電車に乗るべく、俺と結衣は二人並んでホームへと向かった。
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