第5話
放課後、俺と結衣、そして智輝の三人で駅までの道を歩いている。
帰りはこっそり落ち着いて帰りたかったのだが、廊下側の席である結衣に捕まってしまい、今に至る。
「はぁ、マジで疲れた……」
「想像以上だったわ……」
昼休みも結衣は俺たちのところに来ており、俺と智輝の陰キャコンビはずっとダメージを受け続けていた。
「いやー、やっぱり学校でも二人と話せるのは嬉しいなぁ」
一方、その元凶サマはこの通りご機嫌である。
人懐っこい笑みを浮かべて満足げな結衣は、いつもよりもさらに魅力的であった。
「ま、結衣っちがこれだけ嬉しそうならいいか」
「それもそうだな」
これまでも笑みを絶やさぬムードメーカー的な立ち位置ではあったのだが、俺たちと遊んでいるときの方が心なしか楽しそうな表情をしているな、とは思っていた。
それは智輝としても同じだったようで、こうして楽しそうな結衣を見て満足げな表情を浮かべている。
「ねえねえ、今週末って暇かな? よかったらこれ飲みに行かない?」
そう言って結衣はスマホの画面をこちらに向けてくる。
そこに映っているのは、世界的コーヒーショップが定期的に発売している期間限定のドリンクだった。
「ああ、俺は行けるぞ」
「すまん! 今週はネッ友とオフ会やるから無理だ……! というわけでお二人でお熱いデートを楽しんできてくれ!」
「いや、それなら来週とかでいいんじゃないか?」
「天下のステラバックスを舐めるなよ裕樹、下手すると数日で売り切れるからなアレ」
「マジかよ……結衣はいいのか?」
「うん、確かに来週だと売り切れちゃうと思うから私は二人でも行きたいんだけど……ダメかな?」
少し不安げに上目遣いで俺を見る結衣。
断る理由もないし行くつもりではあるが、それにしても断れるわけないよなぁ、と思う。
「いや、俺は全然大丈夫。結衣がいいならいいんだ」
「ほんと? やったぁ!」
俺が答えると、パァッという効果音がつきそうなほどの笑顔で喜ぶ結衣。
そんな大袈裟な……なんて思うと同時に、何故だか恥ずかしくなってきてしまった。
結衣の方を向いているのに耐えられなくなってきてしまい、俺が反対側に居る智輝に視線を移すと、ニヤついた顔で小さくガッツポーズを決めているところであった。
「なんだお前キモいな」
「おうおう辛辣ですなあ役得王子」
「……殴っていいか?」
結衣と二人でお出かけするのが役得だって部分については同意するが、それにしてもムカつく顔をしている。
「まあまあ、我らの姫サマが楽しそうだからいいじゃないの」
そう言われて再び結衣の方を見れば、今にもスキップし始めそうなほどにご機嫌な様子だ。
「今週末、楽しみだなぁ……」
「ま、俺も楽しみにしとくよ」
「うん!」
最終的に結衣が楽しそうならいいか、でまとめてしまえるこの三人の関係性。それを隠す必要がなくなったのなら、それはそれでいいかなと思った。
その後、俺は結衣と一緒に駅からすぐ近くのマンションの前にやってきた。
智輝は一つ先の駅なので電車内で別れた。
「ちょっと荷物とか置いてくるから待ってて!」
「おう、転ぶなよ?」
ここは結衣が住むマンションである。
いつものように俺の家に来る気満々のようで、エレベーターの方へと勢いよく駆けていった。
運動神経抜群だし大丈夫だとは思うんだが……。
「あいたっ!」
「だから言わんこっちゃない……」
この通り、少々ドジな部分があるのでつい心配してしまうのだ。
エレベーターの手前で転んだ結衣のもとへ行き、手をとって立たせてやる。
「怪我はないみたいだな。そんなに急がなくても逃げやしねえからゆっくり行けよ?」
「あはは……ごめんごめん」
制服の汚れを軽く払いつつ、反省しているのか怪しい返事をする結衣。
「本当に分かってるんだか」
「むぅ、大丈夫だよ!」
エレベーターに乗り込んでから、少し頬を膨らませつつ言う結衣。しかしこれまでも似たようなやり取りをした記憶が多々あり、説得力はゼロである。
「そんなところも可愛い……なんてな」
エレベーターの扉が閉まってから、俺は誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。
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