「俺の事好きなのか?」と冗談で言ったら普通に肯定された
あぽろ
第1話
「あークソ、びっしょびしょだ……」
俺、
春が過ぎ、もう梅雨だってのに傘を持っていかなかった俺の落ち度ではあるのだが、そうとはわかっていてもやはり雨を恨まずにはいられない。
「はぁ……とりあえず入るか」
いつまでも外にいるわけにもいかないので、俺はドアを開け家の中に入った。
俺は今、ごく一般的な一軒家に一人暮らしをしている。
自由奔放すぎる両親が「金はやるから家の管理頼む!」などと言って海外に旅立ってしまったため、仕方のないことだ。
そのため家に帰ったところで特に誰もいない―――
「あ、ひろくんおかえり~」
―――という訳でもなく、リビングから色素の薄い茶髪の少女が顔を出した。
「ここはお前の家じゃないぞ、結衣」
俺を出迎えたのは、幼馴染の
肩ほどまである茶髪に白い肌、優しげな雰囲気のある整った顔立ちに加えてほっそりとしたスタイルの美少女である。
彼女が住んでいるのはここから歩いて数分のところにあるマンションで、両親が海外に行っているため一人暮らしをしている。
まあ結衣の親は仕事で行ったみたいなので、どこから湧いてきたのかわからない金で遊び回る俺の親とは違うが。
ちなみに俺たちは親同士が知り合いで、その関係で小さい頃から遊ぶ機会があったというわけだ。
「てかお前、もうちょっと格好考えろよ……」
「えー、いいじゃんこの方が楽なんだから」
結衣が着ているのはグレーの部屋着。薄くてユルユルなやつである。
幼馴染とはいえ男の家なので、もうちょっと警戒心を持つべきだと思う。
まあ、俺が一人暮らしをはじめた四ヶ月前から毎日のように俺の家に来ては、まるで自分の家であるかのようにくつろいでいるのでもう慣れてしまったが。
しかもちゃっかり鍵を持っている。
以前そのことを結衣に聞くと「ひろくんのお父さんに欲しいって言ったらくれたよ?」とのこと。
マジで何やってんだあの人……。
「まあいいや、飯前には帰れよ?」
「はーい」
しかし、今はそんなことよりびしょ濡れになった服が気持ち悪くて仕方ない。
ひとまずシャワーを浴びることにした。
俺が風呂場から出てリビングに入ると、結衣がソファーに寝そべってスマホを弄っていた。
これもいつものことなので今さら突っ込んだりはしないが。
「結衣、ちょっとそこ避けて」
「ん、いいよ」
俺は結衣にスペースを空けてもらい、そこに腰かける。
一方、結衣は寝そべるだけのスペースが無くなったため、起き上がって普通に座った。
初めは当然困惑したし、結衣の無防備な姿にドキドキしたりといろいろ大変だった。
しかし慣れとは恐ろしいもので、客観的に見ても可愛い少女がこんな姿を晒していても、意外に気にならなくなってくるものである。
「ねえ、ひろくん」
「ん?」
「私たちが幼馴染だってこと、もう隠さなくてもよくない?」
「え、それはちょっと」
実は、学校では俺たちはただのクラスメイトということになっている。
結衣はそのルックスに加えて成績優秀で運動もできる。
そんな結衣は当然人気があるわけで、その結衣と幼馴染であるとわかれば、俺が面倒な目に遭うのは避けられないことだ。
そのため、俺の方から結衣に頼んで距離感を空けてもらっているわけだ。
「夜ご飯のあとも帰らなくていいなら続けてあげないこともないかなぁ~?」
「……流石に夜遅くまでってわけにはいかないだろ。もう隠さなくてもいいから今日は大人しく帰ってくれ」
俺が慣れたとはいえ、普通に考えれば今の状況はおかしい。隠しているのを抜きにしても俺達の関係性は幼馴染でしかないのだから、泊まるとかそういうのはナシ。
帰るにしたって遅い時間に出歩くのが危険なことなど考えるまでもなくわかる。
結衣の安全を考え、ここは俺が我慢するしかない。
「じゃあ明日からはただのクラスメイトじゃなくて、とっても仲のいい幼馴染ってことで」
「飛躍しすぎだろ……」
「ひろくんと話したいのに我慢するの大変なんだからね?」
「別に学校で話すことなんてないと思うけど」
それはそれは嬉しそうな表情で笑いかけてくる結衣。流石に学校でも今のノリで来ることはないと思いたいが……。
もし来たら俺への敵意やらなんやらが増加するのは避けられないだろう。
……心配だから釘を刺しておくか。
「別に幼馴染だってことは言ってもいいけど、俺が殺されない程度にしといてくれよ?」
「大丈夫だって、心配し過ぎだよ~」
あぁ、これダメなやつだな。
今日のうちに遺書でも書いておこう。
その後、適当にスマホを弄りながら他愛もない話をしていた俺たち。
気づけば時刻は午後七時である。
「じゃ、そろそろ飯にするから」
「えー、もう帰らなきゃダメなの?」
俺がそう言うと急に駄々っ子モードになる結衣。
条件を飲んだのだから素直に従っていただきたい。
「はいはいそうですよー、もう帰らなきゃダメですよー」
「やだやだー!」
俺がわざとらしく声色を変えて言うと、結衣はポカポカとかそんな感じの擬音が似合う動きでそれに応じる。
もう高校生だというのに何なんだこの茶番は……まあ乗っかった俺も俺だが。
と、俺はここで少し結衣をからかってやることにした。
「全く……そんなに帰りたくないなんて、そんなに俺の事が好きなのか?」
もう一度言う。からかってやることにしたのだ。
断じて本気ではなかった。
「うん、好きだよ。大好き」
「……へ?」
だから、結衣が急に真面目な声音でそう答えたのに対して、驚きのあまり間抜けな声を出してしまうのは仕方ないことだろう。
まさか結衣は、本当に俺の事が好きなのか?
……いや、待つんだ俺。
俺がからかうつもりで言ったのだから、結衣の方も俺をからかっている可能性があるだろう。
何もかも平凡かそれ以下の俺に魅力があるとは思えないし、何より幼馴染としての関係が染み付いているため、そういう対象として考えたことがなかった。
「じゃあ、私帰るね!」
「あ、あぁ……」
と、そんな事を考えているうちに、結衣はそそくさと帰ってしまった。
もう夜なので送ってやるべきだったのかもしれないが、今の俺にそれを考える余裕はなかった。
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