また、人を傷つけた
「なんで怒ってるの?」
火に油を注ぐ一言なのは分かっていた。でも悠里はそうやって聞くしかなかった。
「怒ってないよ」
「嘘、怒ってる。分かるよ」
「怒ってないって!逆に安心したんだから。何もないんでしょ?先輩と。良かった!女の子同士でさ、そんなのおかしいもん」
周りに人が集まりつつある。
クラスから覗いて様子を見ようとする人まで現れる。人がまだ苦手な悠里は少し萎縮する
「なんで...そんなこと言うの?」
「あたしも、先輩も、悠里も、女の子なんだよ。好きとかおかしいよ」
夕夏は訴えかける。
悠里を恋のもとから引き離そうと
取り戻そうとしている。
自分のそばにいた可愛くて綺麗でお茶目な悠里に戻って欲しくて必死に訴えかける。
ただその気持ちを伝えれば伝えるほど自分の気持ちとはかけ離れたことを言ってるという気持ちが大きくなる。
そこにまた苛立ってしまう。
「あの先輩は変わってるんだよ!保健室で人と話すことがほとんどないから、女の子を好きって言い出すんだよ!」
少し語気を強めて夕夏は言う。その言葉に周りはざわつき始めていたが、夕夏には聞こえていない。
「変わってるって、恋先輩は別に」
「名前で呼んでる!あれだけめんどくさそうにしてたのに、今は楽しそう!」
「そんな!」
悠里も語気が強くなる。
恋を否定されると不思議と自分を否定された気になって、ついつい強く反応してしまう。
「どうしたの!夕夏ちゃん、なんかおかしいよ!」
「おかしいのは悠里だよ。先輩も、悠里もおかしいよ!女の子同士なのに!なんなの!なにが好きなの!?理解できない!」
嘘、理解は出来る
「なんで!なんでそんな風に言うの!?」
「そうだ。悠里はおかしくなっちゃったんだ!あの変な先輩といるから!影響受けておかしくなっちゃったんだよ!」
もう周りの目なんて気にならない。
意図して周りが注目するように仕向けた夕夏だったが、そんなことはもう頭の隅に消えてしまった。
「そんなことない!」
「あるよ!あの人にどんどん近づいてる!」
夕夏はこうやって悠里にぶつかろうとすればするほど恋の存在が大きく見えて嫌になる。
「近づいてないよ。わたしはただ自分を隠したくなくて」
「それが近づいてるって言ってんじゃん!」
「近づいてないよ!というか!近づいちゃいけないの!?」
「悠里はあの人に無理やり合わせる必要なんてないんだよ!変わらなくていいのに!」.
「合わせてなんか!嫌々付き合ってるつもりもないよ!」
「付き合ってる...?付き合ってるってどういうこと!」
「いや、だからぁ!」
悠里は夕夏の目から涙が溢れてることに気がついた。
必死で何かを伝えようとしてる気がするけど、それがなんなのか悠里には分からない。
「はぁ...はぁ...」
肩で息をする夕夏
急に、いや、恋と仲良くするようになってから夕夏は何かおかしい
「夕夏ちゃん...どうしたの?本当に、なにがあったの?」
ただこんな時でも悠里は夕夏を親友として見つめていた。涙して何かを訴えてくる彼女を見捨てられない。
たった一人の親友だから、優しく、肩に手を乗せて、唇噛みしめて悠里は夕夏の目を見つめる。
「夕夏ちゃん…」
「悠里」
そう言って夕夏は肩に乗せた悠里の手を握って肩から外す
「....え?」
「あ、あたしはさ、あた、あ、あたし」
「...なに?」
出会った時の悠里みたいにたどたどしく話す夕夏。
涙を拭いて、悠里の目を見つめる
ただ言おうとした言葉を最後まで言うことなくぶるんと頭を振って悠里を見つめる。
「悠里、あなたはまた人を傷つけたね。まただよ」
「...え?」
悠里は一瞬、夕夏の言葉を頭に入れることが出来なかった。唐突な夕夏の感情の変化についていけなかったから
「悠里はまた好きを振る舞いて、人を傷つけたんだよ」
「な、なにを」
「分からないよね。傷つける人はいつもそうだもん。別に知らなくてもいいと思うけどね」
「何...言ってるの?」
掴んだ悠里の手が震えてるのか、自分の手が震えてるのか分からない。
ただ夕夏は淡々と悠里の耳元にしっかり届くように口を動かす。
「髪を切ってさ、顔なんか出しちゃって、結局悠里は昔に戻りたいんだね。今も傷ついてる人はいるし、きっとまた誰かを傷つけるんだよ」
「え...」
悠里の息が荒くなる。目の焦点が合わない
「好きって言われて...調子に乗ったんだね」
「っ!」
そう言い残して夕夏は悠里の前から去っていく。女の子同士の大きな言い合い。喧嘩。
高校生としては珍しいものなのか、周りはざわついている。
そのざわつきが悠里の心を逆立てて、気分を悪くする。
夕夏は教室の入り口に集まっている野次馬をかき分ける。明るい夕夏があれだけ怒ったのを見て野次馬も夕夏の通る道を自然と開ける
「島崎、いいのかよあれ」
流石に心配した夕夏と同じ陸上部の武田は夕夏の前に立つ
「え?」
「何があったんだよ。お前らいっつも一緒にいたのに」
武田は夕夏の目を見て、肩に手を乗せて語りかける。
「あんた誰?どいて」
「え?あ、あぁ..」
玉砕。夕夏は武田を見もしていない
「ちっ!あーもう!」
武田は自分が触った部分をはたく夕夏を遠い目で見つめた。
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