第11話

 リンエンの家での検証から三日経った。

 ノリ子はその日のことをあまり覚えていなかったが、わずかに小春との記憶を取り戻していた。

(私と小春には千里眼があって……その、実験のために大学病院に通っていた……)

 しかし、頭ではわかっていても自分の出来事であったことをどうにも受け入れ難かった。

「そうだよねー。いきなり、実はキミは超能力者だったのだって言われたみたいなものだよねー」

「それに今、そんな能力ないですし……子どもの頃は出来たんだからって言われても困りますよ」

「でも、それが事件を解く鍵になってるからね」

いつものようにオカルト研部室ではなく、今回はカスミの部屋に来ていた。

「さーってと千里眼講座といきますか」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 千里眼の解説が簡潔に行われ、ノリ子は終始「なるほど」「ふむふむ」「へー」などと声を上げていた。

「というわけなんだけどね」

「自分のことなのに全然知りませんでした」

「それは子どもだったからね」

 カスミはいつものようにコーラを飲み、口を潤した。

「最初は世紀の発見として注目されたけど、後にこれは『インチキ』ではないのか? と疑われ、改めて実験すると、できていたはずのことができなくなっていたんだってね」

「世紀の発見だと思われていたものが実は1回の偶然だったということですか?」

「それもあるとは思うけど、中には嵌められたモノもある。千里眼能力者の『御船千鶴子』はその代表とも言える」

「御船千鶴子……名前は知っています。福来友吉博士が連れてきたっていう」

「そう。彼女は鉱脈まで当てることができたらしい。あとは無くなった財布の場所を当てたら、盗みを疑われたり。彼女の千里眼の透視実験は成功していた。だけど、学者たちは 御船千鶴子の千里眼を認めなかったんだ」

 ノリ子は話を聞きながら拳を握り始めていた。

「それで、新聞でバッシングを受けた御船千鶴子は自ら命を絶ったんだよね」

「どうして……どうして……そんな……」

 怒りで声が震えるノリ子に気付きながらもカスミは話を続けた。

「なぜかというとそれは存在あると困るものだった……かもしれないっていう説があるんだ」

存在あると困る……?」

「御船千鶴子の時代って明治の最後ら辺でね。もう20世紀に入っていて自動車とか電気とか……まあ、科学が発展しつつある中で千里眼という非科学的モノが広まると言い方は悪いけど邪魔だったと思うんだよね」

「邪魔……ですか?」

 自分が言われた気がしてノリ子の胸がチクりと痛み出した。

「科学先進国化が進んでいる中でオカルトが世間を騒がしたら科学側の立場が無くなっちゃうからね」

 ノリ子は思わず、胸を押さえた。

 自分がもしかしたら御船千鶴子のようになっていたかもしれないからだ。

 カスミは千里眼が特集されたオカルト雑誌をパラパラとめくり、ノリ子が落ち着くのを待った。

「他にも福来博士が見つけてきた千里眼能力者はいたけど、やはり、この人たちも認められなかった」

「小春は今もどこかで、千里眼の実験をやらされているんでしょうか……?」

「わからない……」

「カスミさんのリサーチでもわからないんですか?」 

「アタシの情報網は雑誌や本からのデータからのモノでそこに載っていないモノはわからない。カムイとリンエンに頼りにされていても、やっぱり彼女たち以上のことはできないんだ……悔しいけどね……」

「でも、カスミさんのおかげで千里眼について知る事ができました」

「あはは。ありがとう……」

 照れを隠そうとカスミはコーラを飲んで誤魔化した。

「ノリ子ちゃんはパソコンって使える?」

「えっと最低限のことならできます」

「インターネットにさ、掲示板ていうのがあるんだけど、そこに……ちょっと気になることが書かれていてね」

カスミは「よいしょ」と言いながらノートパソコンを取り出し、操作を始めた。

「これを見て」

 パソコンの画面には不特定体操の人たちが書きこみができる世界が広がっていた。

 その掲示板のタイトルにノリ子は目を疑った。

『赤い着物を着た少女の霊について』

「赤い着物……?」


『踏み切り近くに現れる赤い着物の少女を見ると死ぬそうだな』

『踏み切りが近くに無いから調べられん』

『ていうかどこの踏み切りなんだよ』

『少女見てから死ねるとか幸せなんだが』

『誰か見たヤツおらんの?』

『女子大生が見て死んだって噂あるぞ』

『死んでんじゃ意味ねーよ』

『その少女って誰なんだ?』

『なんか名前があるらしいぜ』

『もう名前あるのかよ?』

『貞子?』


 掲示板の好き勝手な書きこみをスクロールをして見ていくうちにカスミが一呼吸してから、続きをスクロールした。


『小春』


「……小春……? なんで……? 小春が……?」


『小春ちゃんって言うんだー見たら死ぬの?』

『小春ちゃんが殺してるんじゃないのか?』

『小春たんはぁはぁ』

『美少女見てから死ねるとかうらやましいんだが』

『つか、それどこの情報だよ?』


 掲示板はそれを最後に書きこまれていなかった。

「カスミさん、これはどういうことなんでしょう?」

「わかんないけど、小春ちゃんがアタシたち以外の前に現れているってことになるね」

「そんな……」

「不思議ではないかもね。幽霊……いや、幽霊ではないんだっけ? ああ、もうややこしいな……」

「こんなのどうして今まで気が付かなかったんだろ……」

「しょうがないよ。この書きこみ、三日前だもん」

「三日前って!?」

「リンエンの家でビデオ検証してた日だよ」










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