ネカマVtuberは裏社会から抜け出したい!
かにくまん
プロローグ
0話:Vtuber会合
「お前この後、
何度目かのコラボ配信後、コラボ相手の先輩Vtuberが通話を切らなかったので俺も残っているとそんなことを言われた。
「え、今から事務所ですか、夜の一時ですよ……」
「は? ちげぇよ馬鹿! 会合だよ会合。今日はWebでやるって連絡まわしてただろうが」
「言い方が悪くないですか」
「……そうか? あー、悪かったよ。でもちゃんと出ろよ、組長命令だからな。あと、ブン屋の二人にも言っとけ」
「はい、お疲れ様でした」
「お疲れ」
しばらく待って通話が切れた。この業界、下の立場の奴は自分からは決して切るなと口酸っぱく言われている。
「ただいまー」
「ギリギリ間に合ったわね」
間を置かずに、部屋のドアを開けてオカマと女の子が入ってきた。俺はオカマの方を向き、今言われたことを伝える。
「おい、オカマのオッサン、Web会合ちゃんと出ろってさ、組長命令」
「言われなくても分かってるわよ、アンタこそ配信でヘマしなかったでしょうね」
「するわけないだろ」
「まぁまぁ、それでオッサン、会合っていつから?」
俺とオカマの諍いをいさめて女の子が聞いてくる。
「えーと、あと十分後ね」
「ギリギリすぎんだろ……」
「うっさいわね、仕事が長引いたのよ」
「あのオジサンしつこかったよねー……」
「話は後で聞くから、二人ともこっち来てくれないか。繋ぐから。準備は大丈夫?」
「私はオッケー」
「え、やだ、お化粧ぐらい直させてよ」
「準備出来てるみたいだから、早速繋ぐよ」
「聞きなさいよ!」
「どうせ映んないでしょ、オッサン」
俺はPCを操作し、前もって知らされていたURLに飛ぶ。
白い画面の下部に、俺のVtuber姿が表示された。ショートケーキをそのまま擬人化したみたいな女の子だ。
「お、ブン屋来てるじゃん」
「はええな」
「お疲れー」
しばらくすると、先輩Vtuberの方々が入室してくる。みな華のように可愛らしいアバターだ。しかし、その声はドスの聞いた中年男性のそれである。
「みなさん、お疲れ様です!」
俺は挨拶を返し、次に入ってくる先輩を待つ。
会合の時間が近づくにつれ、続々と先輩がたが集まってくる。その中には、さっきまで俺とコラボしていた先輩Vもいた。俺は入室してくる先輩相手に一人一人丁寧に挨拶をしていく。
「これ、大変だよねー」
「しっ! アンタは黙ってなさい!」
俺の後ろで、オカマと女の子がひそひそ話をしていた。そう思ってるのなら代わって欲しい、いや無理だけど。
やがて、画面上にはVtuberのピラミッドができていた、所属する組織、稼業の格と配信の実績が上であるほど上部に配置されるとオカマから聞いている。もちろん新人の俺は最底辺だ。
現在、ピラミッドの頂点にある部分は空白。それが親分の席だった。
そして、開始時間。
画面の上部、三角形のてっぺんに、スーツ姿の男が映る。しかし、アバター姿ではない。実写の映像だ。男の後ろには、強面の老人の写真がズラリと並ぶ。相変わらず威圧感がすごい。男が声を張り上げた。
「点呼とるぞおめぇら!」
「「「「はい! おやっさん!!」」」」
Discordのボイスチャット内を、ボイスチェンジャーを通していない野太い声がこだまする。
「神崎チナ」
「はい!」
先ほど、俺とコラボしていた先輩Vが大きな声で答えた。それを皮切りに、次々と点呼が取られていく、みな負けじと声を張り上げ、親分に失礼が無いように心して返す。答える度、各自のアバターが背筋を伸ばすように動いているのがその敬意の深さを表していた。
そして最後に、一番の新入りである俺のVtuber名が呼ばれる。
「柚須かふり」
「はい!!」
俺は今までに答えた誰よりも大きな声で点呼に答えた。
「よし、全員来てるな。それではこれより『くじごじ』定例会議を始める!」
「「「「はい!」」」」
「これからは!」
「「「「Vtuberの時代だああああああああああああああああ!!!」」」」
なぜ、俺がこんなことになっているのか、そしてこの男達は何者なのか。
話は数ヶ月前に遡る。
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